朝、目を覚ました瞬間
まぶしいほどの光がカーテン越しに差し込んできた。
(……晴れてる)
昨日の嵐が嘘みたいに、すがすがしいまでの快晴。
空は透き通るように青くて、
風も軽い。
まるで“全部やり直せるよ”と言われているみたいだった。
けれど、窓を開けて外をのぞくと、
地面はまだ濡れたままで、
小さな水たまりがぽつぽつ残っている。
日差しが跳ね返ってきらっと光るその景色に、
昨日の大雨の気配だけがかすかに残っていた。
俺は学校の準備をすませて、
なんとなく胸の奥のざわめきを
誤魔化しながら玄関へ向かった。
靴を履いて、深呼吸ひとつ。
(……行くか)
玄関のドアを押した、その瞬間――
「おはよ、真白」
そこに立っていたのは、
りーくんだった。
朝陽を背負って、いつもの笑い方で、
いつもの距離で――。
俺たちは、いつも通り
何事もなかったかのように並んでバス停へ向かった。
歩幅も、距離も、昨日までと同じはずなのに、
俺だけがなんだかそわそわしている。
「昨日は残念だったね。すごい雨だったなぁ。
真白は何してた?」
「別に、なんにも。
ちょっとだけ勉強して、
あとは……だらだらスマホいじってただけ」
「そっか」
りーくんは、昨日の俺の心配なんて知らないみたいに、
いつも通りの、あっけらかんとした笑顔を向けてきた。
「デート行きたかったなぁ。
またリベンジしよ。次は晴れるよ。
映画、まだやってるといいね」
屈託のない、なんでもないみたいな声で言う彼。
その明るさがまぶしくて、
俺の中の“もやもや”がまた少し膨らんだ。
(絶対、俺の残念の気持ちとりーくんの残念は違う……)
りーくんの前ではカッコ良くいたいのに。
対等でいたいのに……。
最近の俺は燈佳と同じようになってる気がした。
(気を引きたい幼稚園児と一緒とかヤバいじゃん……)
りーくんが横で、
「昨日のゲームの続きさ〜」
といつものテンションで話してくれていたけれど、
俺はそれを半分聞いてるような、
聞いてないような……。
そんなふわふわした頭のまま、
りーくんと別れて教室へ入ると、
すでに来ていた小田くんと加藤くんが
「おはよー」
と、自然に声をかけてくれた。
「……おはよう」
俺も返すと、
周りの子たちも何人かが、
「朝比奈くん、おはよ」
と軽く手を上げてくれる。
気づけば、前よりずっとクラスが
過ごしやすくなっていた。
お昼休みになって、
机にカバンを置いてファスナーを開けた。
「……あれ?」
ひっくり返しても、どこからどう見ても弁当が存在しない。
(やべ……入れ忘れた……)
朝からそわそわしてて完全に意識の外だった。
俺は慌てて、小田くんと加藤くんに声をかけた。
「ご、ごめん、俺……弁当忘れた。
購買でパン買ってくる……」
「え、急げよー!人気のやつすぐ無くなるぞ」
「うん……!」
急いで教室を飛び出したけれど、
のんびりしてたツケはすぐに回ってきた。
購買前は、すでに長蛇の列ができていた。
「……まじかよ」
学食という手も頭に浮かんだけど、
……正直、あまり行きたくなかった。
食堂には、おにぃの友達とか、
ちょっとヤンキーっぽい雰囲気の三年生が
たむろしていて、
昼休みになると“陽キャ軍団”の巣みたいになる。
笑い声はでかいし、
椅子の取り合いみたいなノリだし、
人の目線とか気にしてない感じ――。
ああいう空間、どうにも落ち着かない。
(りーくんもいるだろうけど……
俺一人であそこ行くの、無理……)
だから、購買でパンが買えなかったらほぼ詰みだ。
列はじわじわ進むけど、
パンの“売り切れ札”の方が早い気がした。
(今日は……食いっぱぐれるかも……)

