ゴールデンウィークも、残すところあと一日になった。
明日は――りーくんとのデートの日。
初日に少し雨がぱらついた以外は、
ずっと雲ひとつない行楽日和だったのに――。
今になって急に、窓を叩くような大雨が降り出した。
時刻は21時30分。
ぱちぱち、ざあああ……と、
不穏な音が止まらない。
テレビをつけると、ニュースキャスターが
「明日は大雨警報の可能性もあります」
と淡々と言っていた。
胸の奥が、ずきっとする。
気象庁の画面は冷たくて、
俺の期待なんて知らない顔をしていた。
横では
「おい、リモコン貸せ。いつまで天気予報見てんだよ」
と、おにぃがキレている。
(……え、大雨で中止……?)
せっかくのデートなのに。
やっと会えるのに。
(……このまま降り続いたら、りーくん、
どうするんだろ……)
自分から連絡する勇気なんてなかった。
「明日どうする?」なんて送って、
もし『ごめん、中止にしよっか』
なんて返ってきたら――
たぶん俺、今日眠れないどころか立ち直れない。
スマホを握りしめたまま
何度も画面をつけたり消したりして、
時間だけが進んでいく。
外では、雨がさらに強くなっていた。
ごう、ごう、と風に押されるような音まで混じって、
まるで俺の不安まで煽ってくるみたいだ。
それでも、
俺は通知が来るわけでもないスマホを手放せなくて、
窓の外をそわそわとのぞきながら、
ひたすら待つしかなかった。
朝、ぱちりと目が覚めた。
時計を見ると、6時30分。
連休中に、こんな時間に起きたことなんて一度もない。
待ち合わせは10時なのに……
起きた瞬間から、胸の奥がざわざわしている。
昨日の雨音の続きを、
そのまま抱え込んだみたいに落ち着かない。
枕元のスマホを手に取って画面をつけると、
――1件の通知を示していた。
心臓が、どくん、と跳ね上がる。
息が苦しいほどバクバクして、
指先が少し震える。
思い切ってメッセージを開くと
『今日ダメだね。電車動いてないや。
デートはまた今度にしようか』
(…………)
たったそれだけの文なのに、
この世の終わりかのように目の前が真っ暗になる。
(りーくんは悪くない。ってか、だれも悪くない)
わかっていても、胸の中にあるしこりは
ずっと存在感を主張している。
「ゴールデンウィークなんて消えてなくなれ……」
そんな言葉が自然に出てきた。
りーくんに告白されてからずっと、心の中が騒がしい。
上がったり下がったり、冷めたり熱くなったり……
(ずっと平穏でいたいのに……)
俺は「うん。わかった」とだけ返事して、
もう一度眠りについた。
枕に顔を押しつけると、
雨の音だけが遠くで続いていた。

