俺は、布団の中が暑苦しくて目を覚ました。
部屋の空気は、さっきまでとは違って
肌寒くて薄暗い。
カーテン越しの光も夕方みたいに弱くなっていた。
(……なんか、体が重い。
寝汗? ってレベルじゃない……)
むくりと起き上がろうとして、お腹のあたりに
“何か”がのしかかっているのに気づいた。
「……え?」
視線を下げると、ベッドにもたれながら
俺の腹に腕を回して、すやすや眠っている影。
「り、りーくん……?」
(なんで?なんで俺の布団に?
ってか、なんで俺の腹に腕まわしてんの?)
頭だけが一瞬で覚醒して、
身体は寝起きのまま固まった。
「あ……ま、しろ……。おはよ」
「りーくん、おはよじゃないよ、なんでいるの?」
「ん?んんんー。夏樹から真白が寂しがってるって
聞いたからとんできちゃった……」
「な、そ、そんなこと言ってない!」
「えぇー?そうなの……俺は会いたかったのに」
(……全然会いに来なかったくせに……)
「……おにぃと買い物じゃなかったの?」
「買い物だった。
真白とのデートに着ていく服、
一緒に選んでもらってた。
カッコよくなっていくから楽しみにしてて……」
「…………」
「てか、もうちょっと寝よ……
真白、お布団入っていい?」
「それは……ダメ……」
「だめかぁ……わかった」
(なんなんだ、この人は……)
待ってたのに。
連絡もしなかったくせに……
窓の外から、ぽつ…ぽつ…と雨の落ちる音が聞こえてきた。
湿気がふわりと部屋に入り込んできて、
胸の奥までじんわり沁みる。
りーくんはまだ俺のお腹の上で眠っている。
目を閉じた横顔が彫刻みたいにきれいで……
思わず、そっと頭に手を伸ばしてみた。
その瞬間、ドアがバンッと開いた。
「おい、真白!なんで母さんからの
連絡返さねぇんだよ!」
「な、なに……?
ってか、ノックくらいしてよ」
「うっせ!部屋でいちゃついてるお前らが悪い!
“既読つかねぇ”って母さんブチギレてんだよ。
昼食べてねぇだろ?」
そこでようやく時計に目を向ける。
「い、いちゃついてなんか……あ、今何時?」
「14時半。お前、昼寝しすぎだっつの。
また母さんに説教されんぞ」
「あ、やべ……忘れてた……」
夏樹は深いため息をついた。
「今日の夜は、幼稚園の集まりで食って帰るって。
燈佳と母さんいねぇから。
俺らで適当に食うぞ」
「はぁ?俺らって?」
「俺とお前とそこに転がってるやつだよ!」
(…………こんな騒がしいのに起きない)
最後の一言で、
俺はなぜか、心臓が変な跳ね方をした。

