……いや、会えなくても別に普通だ。
今までも、
一週間以上うちに来ないことだってザラだった。
そもそもりーくんはお兄の友達なんだし、
俺に連絡がなくたって、それが普通。
会えないからって落ち込むなんて、
それこそ図々しいって話だ。
わかってる。わかってるはずなのに……

心の奥が、小声で文句を言う。

(好きって言ったじゃん……)

言われたときは冗談みたいに聞こえた。
でもその一言が、
いまは針みたいに刺さって抜けない。

「……勉強も教えてくれるって言ったじゃん」


布団の中で、
誰にも聞こえない声が漏れた。
うだうだしてても仕方ないと、
重たい腰を上げて階段を降りる。
リビングに入ると、
お兄がソファでゲラゲラ笑いながら電話していた。
片手にはポッキー。
テーブルには炭酸ジュース。
めっちゃ楽しそうだ。

……なんか、イラッとする。

ラップのかかったままの
朝食を取り出して、
無言で椅子に座り、
冷めたホットサンドをかじり始めた。

しばらくして、おにぃの電話が終わる。

「お前さ、休み初日から
だらけてんじゃねーよ。
母さん、めちゃくちゃ怒ってたぞ?」

「……うん、気をつける」

ぼそっと返して、またホットサンドを
口に押し込む。
もそもそ、ぼそぼそ。
味なんて、ぜんぜんしない。

俺は思いきっておにぃに聞いた。

「ねぇ、なんで最近りーくん家に来ないの?」

おにぃはテレビのチャンネルを変えながら
なんでもない顔で言う。

「え?今日、昼からあいつと遊び行くけど?」

「……え!おにぃ、りーくんと遊ぶの?」

「おう。なに、嫉妬?」

軽く笑われて、言葉に詰まる。

違う。そうじゃない。
いや、違うと言い切れないから余計にムカつく。

「遊びに行くって……家に来るんじゃないの?」

「残念。今日は駅で買い物ー。
俺んち寄らねーって」

「あ、そう……」

会えるかもしれないと勝手に思っていた心が、
急に空っぽになっていく。

(なんだよ、この感じ……)

「じゃ、いってら」なんて強がりの代わりに、
俺は一気に朝食をかき込んで、
そのまま部屋に引き返した。

とりあえずこのモヤモヤを忘れるには
勉強するしかない。
そう思って、机に教科書を広げて
休み前に出された課題を
一から順番に潰していく。
数学はまだ中学の復習が多いから、
ギリついていける。
国語も、まぁ……読めばなんとかなる。
問題は英語。
知らない単語が行列してて、
もうすでに「どなたですか?」レベル。
「もう、むり〜〜〜」と
椅子の上で背伸びをしたら、
伸びきった背中がしゅるっとしぼんだ。

(……ちょっと休憩)

時計を見ると、11時25分。
五連休の初日に、
二時間も机に向かった自分を褒めてやりたい。

「十分、十分」

そう小声で言い訳をしながら、
布団に潜り込んだ。