もうすぐ家に着くところまできて、
ふいにりーくんが横目でこちらを見た。
「ねぇ真白、ゴールデンウィークどうすんの?」
「え? あぁ……一日は家族で燈佳の接待で
遊園地行くけど、あとはまだ全然決まってないよ。
高校入って初めてのテストあるし、
ちゃんと勉強しとかないとって思ってる。
俺、おにいみたいに余裕で
この学校に入ったわけじゃないし……」
「じゃあさ。勉強は俺が教えるからさ——」
一拍置いて、
いたずらっぽい笑み。
「一日だけ、俺とデートしてくんない?」
「……え? デ、デート?」
「そう。デート。
燈佳も夏樹もなし。
俺と真白だけ、二人でどっか行く。
ダメ?」
「いや、それは……全然ダメじゃないけど……」
「じゃ、よし。決まり!楽しみだなー」
俺の返事なんて最初から分かっていたみたいに、
当然のように言い切った。
家の前まで来ると、りーくんはふっと足を止めた。
「じゃ、俺も今日は帰って勉強するわ。
デート、楽しみにしてるね」
そう言って、そっと燈佳を預けてきた。
眠り込んでいる弟の重さが、
ふいに現実味を引き戻した。
「じゃ、また明日」
軽く手を振ると、りーくんは
そのまま来た道を引き返した。
背中が夕方の光に溶けて小さくなっていく。
俺は玄関の前にぽつんと取り残された。
「……なんだよ。家、寄ってかないのかよ……」
自分で言って、自分でドキッとする。
最近、胸の奥がもやもや、ざわざわ
落ち着かない。
その正体に気づいているような、いないような。
俺は、”これが思春期ってやつか”と思うことにした。
長い五連休の初日。
今日から、ゴールデンウィークに入った。
日差しは一気に強くなってきたけれど、
風はまだどこか冷たくて心地いい。
外はきっと、行楽日和。
窓の外から、
近所の家族が出かける気配が聞こえた。
車のドアが閉まる音、子どものはしゃぐ声。
(みんな、どこかへ行くんだな……)
そんな浮かれた世界をよそに、
俺は自分の部屋のベッドにくるまっていた。
朝からもう三回、
燈佳が部屋に突撃してきて
「遊ぼう!」と騒いでいたけど、
全部無視して布団と縮こまっている。
先週。
ゴールデンウィークの最終日に、
りーくんと映画を観に行く約束をした。
そのときの俺は、
きっと浮かれすぎていたんだと思う。
あの日から――
りーくんは一度も家に来ていない。
もちろん、連絡もない。

