放課後、下駄箱へ行くと、りーくんはいつものように
柱にもたれて待っていた。

「真白、おつかれ。行こ」

そのまま自然に隣に並んで歩き、
バスに乗り込む。
家には向かわず、燈佳の幼稚園へ。

実は——。
りーくんと一緒にお迎えに行くのは、
これが初めてじゃない。
これで三度目だ。
けれど、俺はできればあまり一緒に行きたくない。
理由は、これだ。

「あ~燈佳くん、今日はお兄ちゃんと……
お兄ちゃんの“お友達”も来てくれたのね!
よかったね~!」

保育室の扉を開けた瞬間、
担任の先生の声がワントーン上がる。

「燈佳くん、ほら、おかえりの準備しようね~」

いつもは担任の先生だけなのに、
りーくんと一緒だと、
なぜか廊下の奥からも先生たちが
わらわらと出てくる。

「えっ、今日も来てるの? あら~……」
「燈佳くん、いいわねぇ……」
「お兄ちゃんも、その……お友達も素敵ねぇ……」

なんかもう、明らかに“恋”だ。
しかも連鎖してる。
りーくんは、ただ微笑んで軽く会釈してるだけなのに、
先生たちはほぼ全員、頬がほんのりピンクになっている。

(……だから、これが嫌なんだよ……)

俺は燈佳の手提げバッグを持ちながら、
心の中で深いため息をついた。

園を出てしばらく歩くと、
燈佳が急に腕にまとわりついてきた。

「……ましろ、だっこ……」

「えぇ、重いって……もう歩けよ〜……」

文句を言いながらも抱き上げると、
燈佳は俺の肩に頭をコトンと乗せて、
数秒後にはもう寝息を立てていた。

「重いだろ。交代するよ」

隣でりーくんが手を出してくる。
そして燈佳をそっと受け取り、
当たり前みたいな動作で抱き直した。
その姿がなぜかおにぃより様になっていて、
少しだけ胸の奥がむずっとした。

二人でとことこ歩きながら、
俺はぽつりと本音が漏れた。

「……りーくんってさ、ほんとモテるよね」

「……まぁね。俺はモテる」

さらっと自信満々に言うその顔が腹立つほど自然で、
思わず眉がひそむ。

「特に、年上からね」

「年上……?」

「うん。
で、君のお兄さんは、同級生とか年下が多いね。
正統派イケメンと個性派イケメン!」

「……なんだよ、自覚済みかよ」

「そりゃまぁ……それなりに告白されてますから」

「……二人ともクソだな」

「えぇ〜〜〜真白そんなこと言っちゃう?
チクチク言葉……悲しい……うぇ〜ん……」

「そんなことしても可愛くない。
自分のずーたいのデカさわかってんの?」

「俺は、真白の気を引きたくて必死なの。
モテるのは真白だけでいい。真白にだけモテたい。
真白以外どうでもいいわ」

「なっ!!」

「ね、真白、俺に告白してよ。お願い」

「ちょっ、さっきのはクズ発言だぞ!
好きになってくれた人に失礼だろ?」

「そうかな。でも、俺中学の時からずっと周りに
言ってるよ?好きな子がいるって。
その子以外考えられないから誰とも付き合わないって。
それってめっちゃ誠実じゃない?」

「な、そ、それは……そうかもだけど……」

(……中学って、おれまだ小学生じゃん……
りーくん、いったいいつから俺の事……)

心の中でツッコミながらも、
口元がほんの少しだけ緩むのを
止められなかった。