入学式からもう二週間がすぎた。
校舎の中はもう“新年度の匂い”から
少しずつ馴染んだ空気に変わり始めていた。

もうすぐゴールデンウィークだ。

クラスの中では、
なんとなく気の合う者同士で
ゆるくグループができあがっている。
笑い声が飛び交うグループもあれば、
女子の小さな輪ができていたり、
男子は男子でバカ騒ぎしたり……

その中で――
俺はというと、なんとか二人だけ、
一緒にお弁当を食べる相手ができた。
小田くんと加藤くんだ。
でも、まだ“友達”と胸を張って言えるほど
打ち解けた関係でもない。
ただ席が近くて、たまたま話すように
なっただけだ。
会話は続くけど、
どこかまだ探り合っているような、
距離のあるよそよそしさが残っている。

(……まぁ、こんなもんか)

周りみたいに自然に輪の中に溶け込めてるか?
と言われれば、答えはまだ“NO”だ。
でも、ぼっちじゃないだけマシだと思いたかった。

そんなふうに、まだ心の距離を測りながら
昼休みを過ごしていたときだった。
廊下の方からざわっ、と空気が動いた。
何事かと思えば、俺が“孤立する元凶”が
まとめてこちらに向かってくる気配がした。

「おーーい! 真白ー!!」

おにぃの、あのアホみたいに通る声。
廊下中に響き渡る。

「今日、母さん夜いねーんだって!
俺塾だから燈佳のお迎え、お前よろしくなー!」

(やめろおおお……!)

心の中で土下座する勢いで願ったが
もちろん届くわけもなく。
その横には、
当然のように理人も一緒にいて。

「真白ー! 俺も一緒に燈佳の幼稚園迎え行くよー!
だから一緒に帰ろー!」

これまた全力の声量で追い打ちをかけてくる。

みんなの注目が一瞬でこちらに向き、
教室の空気までぴりりと変わった。

(……ほんっっっとうに空気読まねぇな、
この二人!)
 
「わかった、わかったから! もういいから帰って!
頼むから帰って、お願い」

俺は半分懇願するみたいに手を振りながら、
廊下側の窓をガラッと閉めて、
強制的に二人を追い出した。
どっと疲れが押し寄せる。
ため息を一つついていると、
前の席の女の子がくるっと振り返ってきた。

「朝比奈くんって、妹いるの?」

「えっ……あ、ううん。
妹じゃなくて、燈佳は弟。まだ幼稚園なんだ」

「弟くんもいるんだ! やば〜、
美形三兄弟じゃん絶対」

すぐにぐいぐい来るタイプの子だと分かったけど、
燈佳の話題なら嫌悪感は全くない。

「ねぇ朝比奈くん、弟さんの写真とかないの?」

「あ、あるよ」

ちょっと照れながらスマホを開き、
待ち受けにしていた燈佳の写真を見せる。

その瞬間——前の席の女子4人が
示し合わせたように同時にスマホを覗き込んできた。