ホームルームが終わると、
俺はりーくんとの約束どおり、下駄箱の前で待っていた。

(はぁ……声はかけられなくなったけど
結局、遠巻きにじろじろ見られて終わったな。
友達、ひとりもできなかった……)

昼休みも休み時間も“観察対象”みたいに扱われ続けて、
気が付けば誰ともちゃんと話せていない。

(明日もこんな調子なんかな……やだな……)

胸の奥で小さく息が沈んでいく。
せっかく楽しそうだと思って、
必死で勉強して、やっと入れた高校なのに。
もし本当に友達ができなかったら、
その努力さえ意味なく見えてしまいそうで――。

遠くの方から、
「いち、にー、さん、しっ!」と
野球部の掛け声が聞こえた。
サッカー部のボールを蹴る音も混じって聞こえる。

耳を澄ますと、春の空気が桜の花びらと
それらをふわりと一緒に包んで運んでくる。

(……やっぱ、部活……入ろっかな)

そう思った時、
後ろからわちゃわちゃした声と
スリッパの擦れる音が近づいてきた。
三年生の団体だ。
その中に、見覚えのある背の高い人影が見える。

(りーくんだ……)

声をかけようと一歩踏み出した――が。
次の瞬間、真白の目に飛び込んできたのは、
りーくんの両腕に絡みついて甘えている女子二人。

「ねぇ理人、今日ついてきてよ〜。お願い〜!」

「ム~リ~」

「なんで〜? だって、スタボの新作、
一緒に飲もうって言ったじゃん!」

「今日はダメ。俺の“可愛い子ちゃん”が待ってるから」

男子の笑い声と女子の抗議が混ざる。
その言葉が耳に刺さった。
俺は思わず、一年の下駄箱の影に身を滑り込ませた。
見つからないようにそっと息を殺す。

(……可愛い子ちゃん?)

ついさっきまで、
あんなふうに「好き」「可愛い」て言っていたのに。

(りーくん、彼女……いるの?)

胸の奥で、心臓の鼓動が異様に大きく響いた。
ドクン、ドクンと、速さを増していくのが自分でもわかる。
そんな中、
すぐ近くでりーくんの声がまた聞こえてきた。

「もうね、めちゃくちゃ可愛いの」

女子の声が重なる。

「ねぇ、それ誰? 教えてよ〜」

「絶対教えない。ダメ~」

「なんでよ〜! 写メとかないの?」

「あっても絶対見せない~。はい、解散」

軽い笑い声と女子の抗議が混じって流れていく。
俺はどうにもならないざわめきを
握りつぶすこともできず、
ただ息を詰めて立ち尽くしていた。