俺は、おにぃの言ってた意味を
ものすごいスピードで理解した。
正直、こんな早く答え合わせが来るとは思わなかった。
けど、否応なく“現実”はやってきた。
「ねぇ、朝比奈くんって
夏樹先輩の弟って本当?」
「東條先輩とも友達なの?
家で夏樹先輩ってどんな感じ?」
「夏樹先輩ってずっと彼女いないって聞いてるけど、
それってマジ?」
「今朝、三人で登校してるところみたって
誰かがいってたんだけど」
そう。
教室に入った瞬間、これだ。
俺のクラスは一年一組。
三階の一番奥の教室なのに——
なぜか一組の前だけ、やけに人だかりができている。
(……うそだろ?
今日入学式明け初日なんだけど?)
視線と声が一気に自分に向かってきて、
もう俺は逃げてしまいたかった。
そもそも俺は、おにぃやりーくんみたいに
陽キャじゃないし、わいわい騒ぐのも
得意じゃない。
できれば、
人数は少なくてもいいから、
気の合う友達とひっそり、のんびり、
静かに学園生活を過ごしたい。
——けれど、中学でもそれは叶わなかった。
「夏樹くんに手紙渡してほしい」
「紹介してってお願いしてよ」
「今度家に行っていい?」
「お兄ちゃんに会わせて!」
そんなお願いが
最後には“日常”みたいになっていた。
同じ高校を目指した時点で、
平穏な高校生活は難しいだろうとは思っていた。
けれど——これは。
(……想像以上だな)
俺は当たり障りのない返事を返すので精一杯だった。
あまりのしつこさに、だんだんと
胸の奥がじわりと苦しくなっていく。
(もう……ほっといて……)
そう思った瞬間、
廊下の方から「キャーッ」という歓声が上がった。
すると、俺のまわりに群がっていた生徒たちが、
突然ざわめきながら廊下の方へ一気に押し寄せた。
まるで潮が引くみたいに視界が急に開ける。
みんなの視線の先には、
おにぃとりーくんが並んで立っていた。
二人がそのままこっちに歩いてきて、
おにぃが口元だけでニッと笑う。
「ようよう。相変わらず囲まれてんだな、お前は」
(は?……なんなんその余裕の顔は。
もとはといえばてめーのせいだろうがよ!)
俺はおにぃを睨みつけた。
続いて、りーくんが柔らかい声で周囲に向き直る。
「ごめんねぇ~。
この子、人見知りで恥ずかしがりやだから。
あんまり質問攻めにしないでやってくれる?
なにか僕たちのことが気になるなら、
直接僕たちに聞いてね~」
その声が落ち着いていて優しくて、
さっきまでの騒がしさが嘘みたいに
周りが静かになった。
そして、りーくんは何でもない調子で言う。
「真白、一緒に帰ろ。あとで下駄箱集合ね」
……爆弾、落ちた。
次の瞬間、
周りの女子たちから声にならない
悲鳴みたいな息が漏れたのが、
俺にははっきり聞こえていた。
視線が一斉に俺に突き刺さる。
羨望、驚き、動揺、嫉妬――
ぐちゃっとした感情が無言で飛んでくるのがわかる。
(あ、これ……俺、一年間終わったー)

