バスに乗るとりーくんは俺と向き合い、
器用にネクタイを結んでくれる。
そこそこ混雑した車内で、指先が喉元を掠める。
俺は息が止まりそうになった。

「はい、できた。似合ってるよ、真白」

「あ、ありがとう」

「どーいたまして」

理人くんは軽く笑いながら、
俺の襟元をちょいと整えてくれた。

「真白、次のバス停すごい人乗ってくるから。
危ないし……もっとこっち寄って」

そう言うやいなや——腰を、ぎゅっと抱き寄せられた。

「っ……!」

不意打ちすぎて、
俺の鼻がりーくんの肩にぶつかる。

(え、え、え、なにこれ!?
距離近っ……いや近すぎん!?
え、これ……少女漫画のシーンじゃん!)

りーくんは何事もなかったかのように平然としてる。

(俺、少女漫画のヒロインですか?
ヒロインですよね? これ絶対そうですよね??)

ちょうどそのとき、
後ろからどっと人の足音が迫ってきた。
次々と人がなだれ込み、あっという間に車内は
満員になる。
俺の左手とりーくんの右手が触れあった。
さっきよりも、りーくんが近い。
首元から漂ってきたりーくんの
エキゾチックな香水の匂い。
清潔感のある爽やかさとは違う——
どこか甘くて、ほのかにエロいその匂いに、
一瞬でくらっとしてしまう。
自分だけ重力を失ったみたいにふらついて、
心臓の音だけがドクドクと耳に響いていた。



バスを降りると、
ちょうど目の前におにぃがいた。

何故か呆れたような顔で、
こちらをジロッと見る。

「おはよぉ、夏樹お兄ちゃん。
ま、二回目だけど」

「お前、吹っ切れたら朝から全開だな」

「当たり前じゃん!
可愛い真白と一秒でも長くいたいし!」

「は、はぁ? え、な。
な、なに言って……」

理人の言葉に脳が固まり、
完全に口が回らなくなる俺。

そんな俺らを眺めて、
おにぃは盛大にため息をついた。

「あーあ……
お前、もう高校生活終わったな」

哀れみ100%の目で、
意味深な呟きを残すおにぃ。

(え、何それ。終わったって何が?
始まったところなんですけど?)