遊園地のデート騒動から一週間。生暖かい視線も、七日も経てばゆるやかになってくるものだ。
はじめは教室に他学年からの生徒が押しかけてきて、休み時間の度にトイレに逃げる羽目になった。一人で廊下を歩くだけでも視線が集まるし、ふだん二人で勉強をしているだけの資料室もどこからうわさが流れたのか人が集まっていて、おれは大人しく部室で単語帳を開いていた。すべての元凶である文也は都度シメた。チョークスリーパー。
遊園地でいつの間にか鞄に付けられていたお揃いのキーホルダーに気付かれてひと騒動もあったのだが、その日一日追いかけまわされてイライラが限界に達していたおれが体育の授業終わりにグラウンドで「親友とお揃いしてゴチャゴチャ言われんのは違ェからな!!」「仲良しで何が悪いんだよゴラァ!!」とブチ切れしたら収まった。なんだったんだ。担任の先生が胃を押さえていたのが気がかりだが。
なにやら顧問に出さなければいけない書類があるらしい文也の背中を見送って、勉強をする気分でもないのでスマホを取り出した。適当に遊園地で撮った写真を眺める。アイスを食べている途中に勝手に連射されて、完全に死んだ顔をしているおれが十何枚も続いている。どうせまた、文也が勝手にエアドロしてきたんだろう。
待機列でポテトをもしゃもしゃ食ってるおれと、肩を組んでピースする文也。何枚か後におれが気がついてカメラ目線でピースしてる。文也がうれしそうに笑う。お、斜め上から見たおれの顔とかあるな。なんか食ってるのか頬が膨らんでいる。身長高いマウントかよ。ジェットコースターから降りてくるおれ。おれがトイレから出てくる写真。ストーカーか。
こうやって見てみると本当に距離近いなおれたち。ブレブレの写真を何枚か選択して削除した。
とん、と肩に手が置かれた。
「んだ、野田か」
「ちょっと残念そうなの何」とまなじりを緩める。
座っていいかと目線で訊ねられて、隣の席の椅子を引いて応えた。おはよ、おはよう、と改めて言い合い、来週の月曜に国語の課題回収だってな、とスマホのカレンダーを見せた。案外不真面目なところがある野田は予想通り忘れていたようで、「うわ、どこにいったっけなアレ……」と少し顔を青くしている。戸田もああ見えて成績がいいだけで課題はまともに出していないし、似たところの多い幼なじみたちだ。ふ、と笑った。
どんなんだったの、そっちは、と聞かれて写真を何枚か見せると「カップルで写真撮る練習でもしてた?」と爆笑された。別にしてないけど。
「あれ、野田っちじゃん。はよ。あ、てんちゃんおれの撮った写真送っといたから~」
朗らかに笑う文也の肩をグーで軽く殴る。
えへえへと笑いながら肩に両腕を載せられた。重い。
「勝手にエアドロすんなよ」
「じゃあ事後報告!」
「スマホかせ」
「はーい」
文也のスマホをもらって、頭のうえにある文也の顔でパスキーを通して、エアドロでおれが撮った写真を送った。野田が「マジか」とつぶやいた。何が。顔を向けると、菩薩の野田が目を見開いている。そんな顔初めて見た。
「野田っち、余計なこと言わんで」
文也が言うと、目がだんだんと元のサイズに戻って行く。
「……あ、うそ、そういうこと?」
「そう」
「へー、おまえ結構エグい奴なんだな」
「まあ手段は選ばないというか」
「ハ? 何の話してんのおまえら」
文也にはにこりと胡散臭い笑みをむけられ、野田からは菩薩のような感情のない顔をもらった。なんだその感情は。
「なんでもないよ~」と文也に言われたけれど正直納得はできなかった。
