ブンブンとうるさい羽音を響かせて飛んでいるハエが見えていないかのように笑顔をうかべて、女性は車椅子で移動してきます。
僕は危機感を抱いて中腰になっていました。

万葉「お客さん？　いらっしゃい」

そう微笑む女性の顔には見覚えがありました。
廃屋の押入れで見つけた写真に写っていた女性その人だったんです。
女性は室内だというのに薄桃色のマフラーをつけていました。

僕「嘘だろ。この人が車椅子の女？」

車椅子の女はてっきり死んでいるものだと思い込んでいました。
そしてその名前はよのみや　あげはだとも。
僕が考えていたことはことごとく間違えていたということなんです。
全身に寒気が走って、鳥肌が立ちました。
篤も愕然とした表情のまま動くことができないようです。

二宮「仕事は終わったのかい？」
万葉「えぇ。今回もしっかり終わらせたわ」

そう答える万葉の手が真っ赤に濡れていることに気が付きました。
ハエはその手に群がってきているのです。
絵具？
そう思いましたが、渇いてカピカピになっているそれをみているとなんだか様子が違います。

篤「それ、血か？」

篤が万葉の手を指さして聞きました。