玄関先で首を吊った女がいるんだとか

篤「どうしてダメなんです? それじゃ、なんのためにここで話をするなんて言ったんですか!?」

篤の声が荒くなり、店内に響きます。
それでも店主は反応を見せずさっきから同じグラスを丹念に布巾でふき続けています。
まるでこの状況は何度も見てきたと言わんばかりの態度に違和感が募っていきました。

僕「橋田さんがこうして話をするのはこれが初めてじゃないんですね?」
橋田「そうだね。年に数回は君たちみたいな子がハシバミ病院にやってくるんだよ。でも河島には会えない。もう、会うことはできないから」
篤「それってどういう意味ですか?」

篤からの質問に橋田さんは大きく息を吸い込んで吐き出すと同時に言いました。

橋田「あの人、もう死んでるんだよ」

一瞬、店内の温度が5度ほど下がった気がしました。
さっきまで聞こえてきていた軽快な音楽は鳴りを潜めて、まるで耳鳴りがしているときのように周囲の雑多が消え去ってしまいました。

篤「死んだ?」

僕を現実世界に引き戻したのは篤のそんな一言でした。
橋田さんは黙って頷き、食後のアイスを口に運んでいます。