でも、そのためにはまずこの廃屋から出る必要がありました。
外はだんだん日が暮れてきているので、それこそ恐ろしい連中と鉢合わせになる可能性がグンと高くなっています。
篤の背中にくっつくようにして玄関から出ると素早く周囲を見まわしました。
どういやら僕たち以外に人はいないみたいです。
軽く息を吐き出して僕たちは山を下り始めたのです。

篤「さっきはこんなのなかったな」

山道を下っていく途中で篤が立ち止まり、地面に視線を落として呟きました。
そこにはタバコの吸い殻が残されていたんです。
きっと、さっき笑い声を聞いた連中のものでしょう。
まだタバコの先端が赤く揺れていることに気が付いて、僕はそれを運動靴で踏みつけました。
下手をすれば大きな山火事になってしまうかもしれない。

篤「急ごう」

火が完全に消えたことを確認してから、僕たちは再び足を前へと運びました。
山から下りると少しだけ時間が逆戻りしたような気分になりました。
周囲はまだ十分明るくて、どこからか子供の声も聞こえてきます。
僕たちはバラ公園を横目に見て、桃中学校を通りすぎ、そして目的地であるハシバミ医院に到着していました。