外の花壇は荒れ放題なのに、どうして家屋の中にある花瓶が生きているのでしょう?
一瞬造花かもしれないと思いましたが、触れてみた感じは生花で間違いないようです。

篤「奥に行ってみようぜ」
僕「うん……」

花瓶の差された花に後ろ髪を引かれながらも篤と共に廊下を奥へ進んでいくと暖簾で区切られた部屋がありました。
中はキッチンになっているようです。
家具の一切は部屋から持ち出されているようで、寒々しい空間が広がっています。
蛇口からちったんちったんと音を立てて水滴が落ちてきていますが、これは室内の水蒸気が集まったものでしょう。
水道だって、とっくに止められているはずですから。
キッチンにはとくに変わったところもなくすぐに行きすぎようとしたその時です。
部屋の隅からキッチンの様子を見ていた僕の足に何かが触れて飛び上がってしまいました。

篤「どうした!?」
僕「えっと、花瓶?」

篤が僕の足元を照らすと、そこに転がっている花瓶がありました。
いま僕が蹴とばしてしまったようで、白い花瓶は倒れてゆらゆらと揺れています。
中から透明な水がこぼれ出て、さしてあったはずのグリーンが散乱していました。