シーン5-1:
屋敷の庭園(昼)
平和な午後。
和装の上に白衣を纏った沙羅、ベランダのテラスで書き物をしている。
突然、爆音と共に真紅の車が現れる。
クラウス「Guten Tag(グーテンターク)! 麗しのドクター・クジョーはどこや!」
車から飛び降りたのは、金髪碧眼の美青年・クラウス(20代後半)。ドイツ製の高級スーツを着崩している。
沙羅「……私、ですが」
クラウス「おっと、そこにおったか。ワイはクラウス・マクシミリアン・ヴェルモンド。ドイツから来た。クラゼヴィッツ製薬の代表」
クラウス、沙羅の手を取り、手の甲にキスをする。
流暢な日本語だが、なぜかコテコテの関西弁。
沙羅「は、はあ……(なんで関西弁?)」
クラウス「単刀直入に言うで。沙羅ちゃん、ワイと『共同研究』せえへんか? 君の論文、読ませてもろたわ。天才やな! せやけど、この帝都の設備じゃ限界があるやろ? ワイと組めば、欧州の最新データも、莫大な資金も、ぜーんぶ君のモンや。一緒に世界を救う薬、作ろうやないか!」
クラウスの笑顔は、太陽のように明るい。
彼はグイッと顔を近づける。
クラウス「もちろん、公私とものパートナーとしてな。君みたいな賢い別嬪さん、ド真ん中やねん。結婚を前提にって、ヤツな」
クラウス、沙羅の肩を抱く。
シーン5-2:
同・庭園(沙羅の思考空間)
時が止まる。
沙羅、クラウスに抱き寄せられながら、猛烈なスピードで自問自答する。
背景には、蓮とクラウスの顔写真と、パラメータのグラフが浮かんでいる。
沙羅(独白)「……クラウスの、結婚相手としての条件は悪くないはず。むしろ最高。なのに……ドキドキしない」
沙羅の脳内で、天秤が揺れる。
沙羅(独白)「顔? 蓮は美形だけど、クラウスも顔が良い。金? 蓮も資産家だけど、クラウスも製薬会社の代表……」
沙羅、チラリと蓮を見る。
そしてクラウスを見る。
沙羅(独白)「研究への理解? 二人ともある。……条件上は互角。……なのに」
沙羅、自分の胸に手を当てる。
沙羅(独白)「どうして? クラウスに触れられても、動悸がしない。それどころか、少し嫌だと感じてしまう。……蓮の時は、あんなに……」
シーン5-3:
同・庭園(現実)
沙羅、クラウスの腕をスルリと抜ける。
沙羅「……ごめんなさい。お断りします」
クラウス「なんでや? 条件が不服なんやったら」
沙羅「条件は十分です。でも……貴方は、あの人では、ないから」
沙羅、毅然と言い放つ。
クラウス、一瞬キョトンとし、すぐに目を細める。
クラウス「……へえ。あの、優男のことか?」
クラウス、蓮の方を向く。
クラウス、沙羅のうなじに顔を寄せる。
クラウス「沙羅ちゃん、君からはええ匂いがする。『抗体』……異物を排除するタンパクの、の甘い匂いや。こんなお宝、他の男に渡すわけにはいかへんなあ」
クラウスの瞳が、一瞬、黄金色の獣の目に変わる。
沙羅の腕を強く掴む。
クラウス「嫌や、言うても連れて行くで。俺らの一族には、君の血が必要なんや!」
沙羅「やっ……!」
その瞬間。
ゴォッ! と冷たい突風が吹き荒れる。
庭の噴水が一瞬で凍りつく。
蓮「……俺の女に、気安く触るな」
蓮が立っていた。
いつもの白衣姿だが、その背後には漆黒の闇が渦巻いている。
蓮の瞳は、絶対零度の怒りを湛えている。
クラウス「おっと」
クラウス、ニヤリと笑い、口元の犬歯が鋭く伸びる。
クラウス「その冷気……。噂には聞いとったが、まさか帝都に『死神』が居着いてるとはな」
蓮「鼻が利くな、駄犬」
蓮、沙羅を背中に庇う。
蓮「貴様こそ、その犬歯……。西洋の『人狼(ウェアウルフ)』か。ドイツあたりに引っ込んでいれば良いものを」
バチバチと火花が散るような睨み合い。
死神の冷気と、人狼の熱気が衝突し、空間が歪む。
シーン5-4:
同・庭園
沙羅、蓮の背中で呆然としている。
沙羅「死神……人狼……?」
沙羅の脳内で、パズルのピースがカチリとハマる。
(回想)
脈拍ゼロの蓮の手首。
体温計のエラー表示。
歴史上の人物を、見てきたみたいに語る、言葉も。
沙羅(独白)「まさか……病気じゃなかったんだ……? 脈がないのは、最初から『生きていない』から?」
沙羅、震える声で蓮に問いかける。
沙羅「蓮……あなた、死神なの?」
蓮の肩が、ピクリと揺れる。
蓮は振り返らない。
蓮「……黙っていて、すまない。荒唐無稽な話だし……嫌われたくなくて、言えなかった。怖くなったか? 沙羅。俺が、君の嫌う『死』そのものだとしたら」
蓮の声が、わずかに揺れる。
クラウスが笑う。
クラウス「ハッ! 聞いたか沙羅ちゃん! 俺の方がずっと温かいし、楽しませたるで?」
クラウスが再び手を伸ばそうとする。
しかし、沙羅は動かない。
沙羅の手が、蓮の白衣をギュッと握りしめる。
沙羅「……関係ない」
蓮「俺は、死神だぞ?怖くないのか」
沙羅「怖いという感情は、生存本能の警報です。でも、あなたは私の『敵』ではない。……私の敵は『無知』だけです。あなたの生物学的分類が何だって、関係ない。……だって」
沙羅、蓮の背中に顔を埋める。
沙羅「この心臓は、あなたに触れた時だけ、こんなにうるさく鳴るんだから」
沙羅の言葉に、蓮の目が見開かれる。
蓮「……俺と、同じだな」
蓮、口元に美しい笑みを浮かべる。
蓮「聞いたか、人狼。……消えろ」
蓮の背後から、巨大な鎌の影(オーラ)が立ち昇る。
クラウス、チッと舌打ちをする。
クラウス「……諦めへんで! 死神、お前のその体……いつまで保つかな?」
屋敷の庭園(昼)
平和な午後。
和装の上に白衣を纏った沙羅、ベランダのテラスで書き物をしている。
突然、爆音と共に真紅の車が現れる。
クラウス「Guten Tag(グーテンターク)! 麗しのドクター・クジョーはどこや!」
車から飛び降りたのは、金髪碧眼の美青年・クラウス(20代後半)。ドイツ製の高級スーツを着崩している。
沙羅「……私、ですが」
クラウス「おっと、そこにおったか。ワイはクラウス・マクシミリアン・ヴェルモンド。ドイツから来た。クラゼヴィッツ製薬の代表」
クラウス、沙羅の手を取り、手の甲にキスをする。
流暢な日本語だが、なぜかコテコテの関西弁。
沙羅「は、はあ……(なんで関西弁?)」
クラウス「単刀直入に言うで。沙羅ちゃん、ワイと『共同研究』せえへんか? 君の論文、読ませてもろたわ。天才やな! せやけど、この帝都の設備じゃ限界があるやろ? ワイと組めば、欧州の最新データも、莫大な資金も、ぜーんぶ君のモンや。一緒に世界を救う薬、作ろうやないか!」
クラウスの笑顔は、太陽のように明るい。
彼はグイッと顔を近づける。
クラウス「もちろん、公私とものパートナーとしてな。君みたいな賢い別嬪さん、ド真ん中やねん。結婚を前提にって、ヤツな」
クラウス、沙羅の肩を抱く。
シーン5-2:
同・庭園(沙羅の思考空間)
時が止まる。
沙羅、クラウスに抱き寄せられながら、猛烈なスピードで自問自答する。
背景には、蓮とクラウスの顔写真と、パラメータのグラフが浮かんでいる。
沙羅(独白)「……クラウスの、結婚相手としての条件は悪くないはず。むしろ最高。なのに……ドキドキしない」
沙羅の脳内で、天秤が揺れる。
沙羅(独白)「顔? 蓮は美形だけど、クラウスも顔が良い。金? 蓮も資産家だけど、クラウスも製薬会社の代表……」
沙羅、チラリと蓮を見る。
そしてクラウスを見る。
沙羅(独白)「研究への理解? 二人ともある。……条件上は互角。……なのに」
沙羅、自分の胸に手を当てる。
沙羅(独白)「どうして? クラウスに触れられても、動悸がしない。それどころか、少し嫌だと感じてしまう。……蓮の時は、あんなに……」
シーン5-3:
同・庭園(現実)
沙羅、クラウスの腕をスルリと抜ける。
沙羅「……ごめんなさい。お断りします」
クラウス「なんでや? 条件が不服なんやったら」
沙羅「条件は十分です。でも……貴方は、あの人では、ないから」
沙羅、毅然と言い放つ。
クラウス、一瞬キョトンとし、すぐに目を細める。
クラウス「……へえ。あの、優男のことか?」
クラウス、蓮の方を向く。
クラウス、沙羅のうなじに顔を寄せる。
クラウス「沙羅ちゃん、君からはええ匂いがする。『抗体』……異物を排除するタンパクの、の甘い匂いや。こんなお宝、他の男に渡すわけにはいかへんなあ」
クラウスの瞳が、一瞬、黄金色の獣の目に変わる。
沙羅の腕を強く掴む。
クラウス「嫌や、言うても連れて行くで。俺らの一族には、君の血が必要なんや!」
沙羅「やっ……!」
その瞬間。
ゴォッ! と冷たい突風が吹き荒れる。
庭の噴水が一瞬で凍りつく。
蓮「……俺の女に、気安く触るな」
蓮が立っていた。
いつもの白衣姿だが、その背後には漆黒の闇が渦巻いている。
蓮の瞳は、絶対零度の怒りを湛えている。
クラウス「おっと」
クラウス、ニヤリと笑い、口元の犬歯が鋭く伸びる。
クラウス「その冷気……。噂には聞いとったが、まさか帝都に『死神』が居着いてるとはな」
蓮「鼻が利くな、駄犬」
蓮、沙羅を背中に庇う。
蓮「貴様こそ、その犬歯……。西洋の『人狼(ウェアウルフ)』か。ドイツあたりに引っ込んでいれば良いものを」
バチバチと火花が散るような睨み合い。
死神の冷気と、人狼の熱気が衝突し、空間が歪む。
シーン5-4:
同・庭園
沙羅、蓮の背中で呆然としている。
沙羅「死神……人狼……?」
沙羅の脳内で、パズルのピースがカチリとハマる。
(回想)
脈拍ゼロの蓮の手首。
体温計のエラー表示。
歴史上の人物を、見てきたみたいに語る、言葉も。
沙羅(独白)「まさか……病気じゃなかったんだ……? 脈がないのは、最初から『生きていない』から?」
沙羅、震える声で蓮に問いかける。
沙羅「蓮……あなた、死神なの?」
蓮の肩が、ピクリと揺れる。
蓮は振り返らない。
蓮「……黙っていて、すまない。荒唐無稽な話だし……嫌われたくなくて、言えなかった。怖くなったか? 沙羅。俺が、君の嫌う『死』そのものだとしたら」
蓮の声が、わずかに揺れる。
クラウスが笑う。
クラウス「ハッ! 聞いたか沙羅ちゃん! 俺の方がずっと温かいし、楽しませたるで?」
クラウスが再び手を伸ばそうとする。
しかし、沙羅は動かない。
沙羅の手が、蓮の白衣をギュッと握りしめる。
沙羅「……関係ない」
蓮「俺は、死神だぞ?怖くないのか」
沙羅「怖いという感情は、生存本能の警報です。でも、あなたは私の『敵』ではない。……私の敵は『無知』だけです。あなたの生物学的分類が何だって、関係ない。……だって」
沙羅、蓮の背中に顔を埋める。
沙羅「この心臓は、あなたに触れた時だけ、こんなにうるさく鳴るんだから」
沙羅の言葉に、蓮の目が見開かれる。
蓮「……俺と、同じだな」
蓮、口元に美しい笑みを浮かべる。
蓮「聞いたか、人狼。……消えろ」
蓮の背後から、巨大な鎌の影(オーラ)が立ち昇る。
クラウス、チッと舌打ちをする。
クラウス「……諦めへんで! 死神、お前のその体……いつまで保つかな?」
