◇
カウンターで、私はブレンドを作った。
小さなガラス瓶に、キャリアオイルを注ぐ。
そして、一滴ずつ、精油を垂らしていく。
「ローズを二滴」
自分を愛する香り。
「ジャスミンを二滴」
勇気を与える香り。
「ベルガモットを二滴」
明るく前向きになる香り。
瓶を優しく振って、香りを混ぜ合わせる。
「さあ、できましたよ」
私は結衣さんに瓶を渡した。
結衣さんが香りを嗅ぐ。
数秒の沈黙。
そして、彼女の顔に、柔らかな笑みが浮かんだ。
「……すごく、いい香りです!」
「気に入ってくれました?」
「はい。なんだか……私、告白できる気がしてきました」
結衣さんは瓶を両手で包んだ。
「告白、してきます」
その言葉を聞いて、私の胸が温かくなった。
「はい。応援しています!」
「ありがとうございます」
結衣さんは深々と頭を下げた。
「和花さんも、お話してくれてありがとうございました」
「こちらこそ。結衣さんとお話ができて、私も少し前に進めた気がします」
そう言って私は微笑んだ。
それを聞いた結衣さんも、少し照れたように笑った。
◇
結衣さんが店を出た後、私はしばらくカウンターに立っていた。
窓の外を見る。結衣さんの背中が、商店街に消えていく。
彼女の背中は、さっきよりも少しだけ大きく見えた。
――頑張って。
心の中で、そう呟いた。
「和花」
誠一郎さんが声をかけてきた。
「今の話、聞こえてたよ」
私は少し驚いて振り返った。
「あ……すみません」
「謝ることはない」
誠一郎さんは穏やかに笑った。
「君は、自分の経験を話した。それは、勇気がいることだ」
「でも……」
「失敗を隠す必要はないんだよ、和花」
誠一郎さんは続けた。
「失敗から学んだことを、誰かに伝える。それが、君の強さになる」
その言葉が、胸に染みた。
失敗を、強さに変える。
そんなこと、できるのだろうか。
「君は、ちゃんと前に進んでいるよ」
誠一郎さんは優しく言った。
「少しずつでいい。焦らなくていい」
「……はい、ありがとうございます」
私は小さく頷いた。
◇
店が落ち着いた頃、蓮さんがお店に顔を出した。
「おじいちゃん、和花さん、お疲れ様」
「蓮、今日もいたのか」
誠一郎さんが笑った。
「ここだと香りもいいし、リラックスできるから仕事が捗るんだよね。それに、SNSの写真、もう少し撮りたくて」
蓮さんはカメラを持っていた。
「店の雰囲気とか、香りの瓶とか、撮ってもいい?」
「もちろん」
私は頷いた。
蓮さんは店内を歩きながら、いくつか写真を撮った。
窓から差し込む光を捉えたり、精油の瓶を接写したり。
「蓮さん、写真上手ですね」
「ありがとう。デザインの仕事してると、写真も撮るようになるんだ」
私の言葉に蓮さんは笑った。
少し沈黙が流れた後、蓮さんが言った。
「さっきの女子高生、勇気出してたね」
「また、聞こえてました?」
「ごめん。写真撮りながら、ちょっと」
蓮さんは申し訳なさそうに言った。
「でも、和花さん、すごく良いアドバイスしてたよ」
「そんな……私、自分の失敗を話しただけですよ」
「それがいいんだと思う」
蓮さんは真剣な表情で言った。
「完璧な人の話より、失敗した人の話の方が、心に響く」
私は少し驚いて、蓮さんを見た。
「和花さんは、自分の傷を見せることができる。それって、強さだと思う」
その言葉に、私の心が震えた。
強さ、か。
私は強いのだろうか。
「あ、そうだ」
蓮さんが話題を変えた。
「SNS、来週には公開できそう。和花さんにも見てもらいたいな」
「はい、楽しみにしています」
私は笑顔で答えた。
「じゃあ、もう少し写真撮るね」
蓮さんは店の奥に向かった。
私は彼の背中を見ながら、考えた。
――強さ。
私は、強くなれているのだろうか。
まだ、よく分からない。
でも、少なくとも、前には進んでいる気がする。
一歩ずつ。
◇
その夜、店を閉めた後。
私は一人、ローズの瓶を手に取った。
自己肯定感を高める香り。
自分を愛する香り。
蓋を開けて、深く香りを嗅ぐ。
甘く、優しい香りが、鼻腔を満たす。
――私は、自分を愛せているだろうか。
過去の失敗を、ずっと引きずっている。
瀬川さんを傷つけてしまったことを、忘れられない。
でも、今日、結衣さんと話して思った。
失敗したことも、私の一部なんだ。
それを隠す必要はない。
むしろ、それを誰かに伝えることで、誰かの役に立てるかもしれない。
窓の外を見る。
秋の夜空に、星が輝いている。
冷たい風が、静かに吹いている。
私は瓶を棚に戻して、深呼吸した。
――いつか、きっと。
私も、自分を信じられる日が来る。
そう信じて、前に進もう。
私はローズの瓶を棚に戻し、帰り支度を始めた。
カウンターで、私はブレンドを作った。
小さなガラス瓶に、キャリアオイルを注ぐ。
そして、一滴ずつ、精油を垂らしていく。
「ローズを二滴」
自分を愛する香り。
「ジャスミンを二滴」
勇気を与える香り。
「ベルガモットを二滴」
明るく前向きになる香り。
瓶を優しく振って、香りを混ぜ合わせる。
「さあ、できましたよ」
私は結衣さんに瓶を渡した。
結衣さんが香りを嗅ぐ。
数秒の沈黙。
そして、彼女の顔に、柔らかな笑みが浮かんだ。
「……すごく、いい香りです!」
「気に入ってくれました?」
「はい。なんだか……私、告白できる気がしてきました」
結衣さんは瓶を両手で包んだ。
「告白、してきます」
その言葉を聞いて、私の胸が温かくなった。
「はい。応援しています!」
「ありがとうございます」
結衣さんは深々と頭を下げた。
「和花さんも、お話してくれてありがとうございました」
「こちらこそ。結衣さんとお話ができて、私も少し前に進めた気がします」
そう言って私は微笑んだ。
それを聞いた結衣さんも、少し照れたように笑った。
◇
結衣さんが店を出た後、私はしばらくカウンターに立っていた。
窓の外を見る。結衣さんの背中が、商店街に消えていく。
彼女の背中は、さっきよりも少しだけ大きく見えた。
――頑張って。
心の中で、そう呟いた。
「和花」
誠一郎さんが声をかけてきた。
「今の話、聞こえてたよ」
私は少し驚いて振り返った。
「あ……すみません」
「謝ることはない」
誠一郎さんは穏やかに笑った。
「君は、自分の経験を話した。それは、勇気がいることだ」
「でも……」
「失敗を隠す必要はないんだよ、和花」
誠一郎さんは続けた。
「失敗から学んだことを、誰かに伝える。それが、君の強さになる」
その言葉が、胸に染みた。
失敗を、強さに変える。
そんなこと、できるのだろうか。
「君は、ちゃんと前に進んでいるよ」
誠一郎さんは優しく言った。
「少しずつでいい。焦らなくていい」
「……はい、ありがとうございます」
私は小さく頷いた。
◇
店が落ち着いた頃、蓮さんがお店に顔を出した。
「おじいちゃん、和花さん、お疲れ様」
「蓮、今日もいたのか」
誠一郎さんが笑った。
「ここだと香りもいいし、リラックスできるから仕事が捗るんだよね。それに、SNSの写真、もう少し撮りたくて」
蓮さんはカメラを持っていた。
「店の雰囲気とか、香りの瓶とか、撮ってもいい?」
「もちろん」
私は頷いた。
蓮さんは店内を歩きながら、いくつか写真を撮った。
窓から差し込む光を捉えたり、精油の瓶を接写したり。
「蓮さん、写真上手ですね」
「ありがとう。デザインの仕事してると、写真も撮るようになるんだ」
私の言葉に蓮さんは笑った。
少し沈黙が流れた後、蓮さんが言った。
「さっきの女子高生、勇気出してたね」
「また、聞こえてました?」
「ごめん。写真撮りながら、ちょっと」
蓮さんは申し訳なさそうに言った。
「でも、和花さん、すごく良いアドバイスしてたよ」
「そんな……私、自分の失敗を話しただけですよ」
「それがいいんだと思う」
蓮さんは真剣な表情で言った。
「完璧な人の話より、失敗した人の話の方が、心に響く」
私は少し驚いて、蓮さんを見た。
「和花さんは、自分の傷を見せることができる。それって、強さだと思う」
その言葉に、私の心が震えた。
強さ、か。
私は強いのだろうか。
「あ、そうだ」
蓮さんが話題を変えた。
「SNS、来週には公開できそう。和花さんにも見てもらいたいな」
「はい、楽しみにしています」
私は笑顔で答えた。
「じゃあ、もう少し写真撮るね」
蓮さんは店の奥に向かった。
私は彼の背中を見ながら、考えた。
――強さ。
私は、強くなれているのだろうか。
まだ、よく分からない。
でも、少なくとも、前には進んでいる気がする。
一歩ずつ。
◇
その夜、店を閉めた後。
私は一人、ローズの瓶を手に取った。
自己肯定感を高める香り。
自分を愛する香り。
蓋を開けて、深く香りを嗅ぐ。
甘く、優しい香りが、鼻腔を満たす。
――私は、自分を愛せているだろうか。
過去の失敗を、ずっと引きずっている。
瀬川さんを傷つけてしまったことを、忘れられない。
でも、今日、結衣さんと話して思った。
失敗したことも、私の一部なんだ。
それを隠す必要はない。
むしろ、それを誰かに伝えることで、誰かの役に立てるかもしれない。
窓の外を見る。
秋の夜空に、星が輝いている。
冷たい風が、静かに吹いている。
私は瓶を棚に戻して、深呼吸した。
――いつか、きっと。
私も、自分を信じられる日が来る。
そう信じて、前に進もう。
私はローズの瓶を棚に戻し、帰り支度を始めた。

