◇
私は彼女にハーブティーを出した。
今日はオレンジとカモミールのブレンド。
心を温めて、リラックスさせてくれる香り。
「お名前、聞いてもいいですか?私は柚木和花です」
「森下結衣です。高校3年生です」
結衣さんは少し緊張した様子で、カップを両手で包む。
少し沈黙が流れた後、結衣さんがゆっくりと話し始めた。
「あの……私、クラスメイトの男子が好きなんです」
「はい」
「でも、告白する勇気が出なくて。もうすぐ卒業だから、今言わないと後悔するって分かってるんですけど」
結衣さんの声が、少しずつ小さくなっていく。
「自分に自信が持てないんです。彼にふさわしくない気がして」
その言葉を聞いて、私の胸が締め付けられた。
――ああ、本当に、昔の私と同じだ。
私も、瀬川さんに片思いをしていた時、同じことを思っていた。
自信がない。彼にふさわしくない。でも、気持ちを伝えたい。
そして、結果的に――傷つけてしまった。
「結衣さん」
私は静かに言った。
「どうして、自分にふさわしくないって思うんですか?」
「だって……。彼、すごく優秀で。成績もいいし、スポーツもできるし、みんなから人気があって」
結衣さんは俯いた。
「私なんて、普通で。特別なことなんて何もなくて」
「普通って、ダメなことですか?」
私が尋ねると、結衣さんは顔を上げて驚いた表情で私を見た。
「え……っ?」
「普通でいることって、悪いことではないと思います。それに、あなたが『普通』だと思ってることが、他の人から見たら『特別』なのかもしれないのです」
私は続けた。
「それに、彼が何を大切にしているか、分からないですよね?……もしかしたら、あなたの優しさとか、笑顔とか、そういうところに惹かれるかもしれないです」
結衣さんは少し目を丸くした。
「でも……」
「結衣さん。私……」
私は少し迷った後、言葉を続けた。
「昔、同じような経験をしたことがあるんです」
「えっ?」
結衣さんが驚いた表情で私を見つめた。
「……大学の時、先輩に片思いをしてて。でも、自信がなくて。だけどそれでも、気持ちを伝えたくて」
私は少し息を吸った。
「それで、誕生日に香りを贈ったんです。自分が好きな香りを。でも……」
言葉が、少し詰まった。
それでも結衣さんは私の話を黙って聞いている。
「それが、先輩を傷つけることになってしまった」
結衣さんは真剣な表情で、私を見つめていた。
「先輩には、亡くなった大切な人がいて。私が贈った香りが、その人を思い出させてしまったみたいなんです。それで、先輩は私を避けるようになった。私は、何も聞けなかったんです」
私は俯いた。
「ひとりよがりだったんです。相手のことを考えずに、自分の気持ちだけで突っ走ってしまって」
話し終えるとしばらく沈黙が続いた。
結衣さんもこんな話を聞かされて、どう反応をしていいのか困っているのかもしれない。
女子高生相手に重すぎたかな……?
やがて、結衣さんが小さく言った。
「でも……和花さんは、ちゃんと気持ちを伝えたんですよね」
予想もしていなかった反応に、私は驚いて顔を上げた。
「え?」
「失敗したかもしれないけど、行動したんですよね。私、それってすごいと思います」
結衣さんは真剣な表情で言った。
「私、怖くて何もできないでいるのに。和花さんは、ちゃんと一歩踏み出したんですよね」
その言葉に、私は少しハッとした。
――そうか。
私は失敗したことばかり考えていた。
でも、確かに、あの時の私は勇気を出して一歩踏み出した。
結果は良くなかったけど、何もしないで後悔するよりは――。
「結衣さん……。あなたには、後悔してほしくないです」
「え……?」
「私は失敗をしました。でも、もし何もしないで卒業してたら、もっと後悔してたと思います。……だから、あなたには、ちゃんと気持ちを伝えてほしいです」
「でも、自信が……」
「自信なんて、なくていいんですよ」
私は微笑んだ。
「完璧じゃなくていいんです。ただ、自分の気持ちに正直になればいいんですよ。彼が受け入れてくれるかどうかは、分からないですが、伝えなければ、もっと分からないままなのですから」
まるで過去の自分に言い聞かせているようだった。
結衣さんを見ると、彼女は少し涙ぐんでいた。
「和花さん……」
「一緒に探しましょう。あなたが自分を信じられるようになる香りを」
私は手を差し伸べた。
結衣さんは涙を拭いて、頷いた。
◇
私たちは香りの棚の前に立った。
窓から差し込む秋の光が、精油の瓶を優しく照らしている。
「ではまず、これを」
私はローズの瓶を手に取った。
「ローズは、恋愛の香りとして有名ですが、それだけじゃないんです」
瓶の蓋を開けて、結衣さんに差し出す。
「自己肯定感を高めてくれる香りでもあるんですよ」
結衣さんが香りを嗅ぐ。
「甘い……でも、優しい香り」
「そうでしょう?ローズは、自分を愛することを思い出させてくれます」
私は説明を続けた。
「古代エジプトのクレオパトラも、ローズの香りを愛していたって言われています。彼女は、自分に自信を持って、堂々と生きていました」
「クレオパトラ……」
世界三大美女で有名なクレオパトラの名前を聞いて、結衣さんは少し目を輝かせた。
「はい。彼女は、部屋中をバラの花びらで埋め尽くして、その香りの中で過ごしたと言われています。彼女は、自分に自信を持って、堂々と生きていました」
私は結衣さんの目を見た。
「だから、結衣さんも、自分を信じていいんですよ」
「自分を信じて……」
ローズの瓶を握りしめながら結衣さんが呟く。
私は頷きながら、次の香りの瓶に手を伸ばした。
「では次は、これを」
私はジャスミンの瓶を開けた。
甘く、でも力強い香りが広がる。
「ジャスミンは、勇気を与えてくれる香りです」
「勇気……」
「そう。一歩踏み出す勇気。自分を信じる勇気」
結衣さんが香りを嗅ぐ。
「これ……なんだか、背中を押されてる感じがします」
「でしょう?ジャスミンは、『夜の女王』って呼ばれることもあるんですよ。夜に咲く花で、その香りはとても強くて、存在感があるんです。だからあなたも、自分の存在を信じていいんですよ」
私の説明に結衣さんは小さく頷いた。
「そして最後に、これを」
最後に私はベルガモットの瓶を開けた。
「ベルガモットは、明るく前向きな気持ちにさせてくれます」
結衣さんが嗅いで、少し笑顔になった。
「これ、好きかも。爽やかで、明るい気持ちになります」
「そうでしょう?では、この3つでブレンドを作りましょう。あなたの勇気を応援する香りを」
私の言葉に、結衣さんは力強く頷いた。
私は彼女にハーブティーを出した。
今日はオレンジとカモミールのブレンド。
心を温めて、リラックスさせてくれる香り。
「お名前、聞いてもいいですか?私は柚木和花です」
「森下結衣です。高校3年生です」
結衣さんは少し緊張した様子で、カップを両手で包む。
少し沈黙が流れた後、結衣さんがゆっくりと話し始めた。
「あの……私、クラスメイトの男子が好きなんです」
「はい」
「でも、告白する勇気が出なくて。もうすぐ卒業だから、今言わないと後悔するって分かってるんですけど」
結衣さんの声が、少しずつ小さくなっていく。
「自分に自信が持てないんです。彼にふさわしくない気がして」
その言葉を聞いて、私の胸が締め付けられた。
――ああ、本当に、昔の私と同じだ。
私も、瀬川さんに片思いをしていた時、同じことを思っていた。
自信がない。彼にふさわしくない。でも、気持ちを伝えたい。
そして、結果的に――傷つけてしまった。
「結衣さん」
私は静かに言った。
「どうして、自分にふさわしくないって思うんですか?」
「だって……。彼、すごく優秀で。成績もいいし、スポーツもできるし、みんなから人気があって」
結衣さんは俯いた。
「私なんて、普通で。特別なことなんて何もなくて」
「普通って、ダメなことですか?」
私が尋ねると、結衣さんは顔を上げて驚いた表情で私を見た。
「え……っ?」
「普通でいることって、悪いことではないと思います。それに、あなたが『普通』だと思ってることが、他の人から見たら『特別』なのかもしれないのです」
私は続けた。
「それに、彼が何を大切にしているか、分からないですよね?……もしかしたら、あなたの優しさとか、笑顔とか、そういうところに惹かれるかもしれないです」
結衣さんは少し目を丸くした。
「でも……」
「結衣さん。私……」
私は少し迷った後、言葉を続けた。
「昔、同じような経験をしたことがあるんです」
「えっ?」
結衣さんが驚いた表情で私を見つめた。
「……大学の時、先輩に片思いをしてて。でも、自信がなくて。だけどそれでも、気持ちを伝えたくて」
私は少し息を吸った。
「それで、誕生日に香りを贈ったんです。自分が好きな香りを。でも……」
言葉が、少し詰まった。
それでも結衣さんは私の話を黙って聞いている。
「それが、先輩を傷つけることになってしまった」
結衣さんは真剣な表情で、私を見つめていた。
「先輩には、亡くなった大切な人がいて。私が贈った香りが、その人を思い出させてしまったみたいなんです。それで、先輩は私を避けるようになった。私は、何も聞けなかったんです」
私は俯いた。
「ひとりよがりだったんです。相手のことを考えずに、自分の気持ちだけで突っ走ってしまって」
話し終えるとしばらく沈黙が続いた。
結衣さんもこんな話を聞かされて、どう反応をしていいのか困っているのかもしれない。
女子高生相手に重すぎたかな……?
やがて、結衣さんが小さく言った。
「でも……和花さんは、ちゃんと気持ちを伝えたんですよね」
予想もしていなかった反応に、私は驚いて顔を上げた。
「え?」
「失敗したかもしれないけど、行動したんですよね。私、それってすごいと思います」
結衣さんは真剣な表情で言った。
「私、怖くて何もできないでいるのに。和花さんは、ちゃんと一歩踏み出したんですよね」
その言葉に、私は少しハッとした。
――そうか。
私は失敗したことばかり考えていた。
でも、確かに、あの時の私は勇気を出して一歩踏み出した。
結果は良くなかったけど、何もしないで後悔するよりは――。
「結衣さん……。あなたには、後悔してほしくないです」
「え……?」
「私は失敗をしました。でも、もし何もしないで卒業してたら、もっと後悔してたと思います。……だから、あなたには、ちゃんと気持ちを伝えてほしいです」
「でも、自信が……」
「自信なんて、なくていいんですよ」
私は微笑んだ。
「完璧じゃなくていいんです。ただ、自分の気持ちに正直になればいいんですよ。彼が受け入れてくれるかどうかは、分からないですが、伝えなければ、もっと分からないままなのですから」
まるで過去の自分に言い聞かせているようだった。
結衣さんを見ると、彼女は少し涙ぐんでいた。
「和花さん……」
「一緒に探しましょう。あなたが自分を信じられるようになる香りを」
私は手を差し伸べた。
結衣さんは涙を拭いて、頷いた。
◇
私たちは香りの棚の前に立った。
窓から差し込む秋の光が、精油の瓶を優しく照らしている。
「ではまず、これを」
私はローズの瓶を手に取った。
「ローズは、恋愛の香りとして有名ですが、それだけじゃないんです」
瓶の蓋を開けて、結衣さんに差し出す。
「自己肯定感を高めてくれる香りでもあるんですよ」
結衣さんが香りを嗅ぐ。
「甘い……でも、優しい香り」
「そうでしょう?ローズは、自分を愛することを思い出させてくれます」
私は説明を続けた。
「古代エジプトのクレオパトラも、ローズの香りを愛していたって言われています。彼女は、自分に自信を持って、堂々と生きていました」
「クレオパトラ……」
世界三大美女で有名なクレオパトラの名前を聞いて、結衣さんは少し目を輝かせた。
「はい。彼女は、部屋中をバラの花びらで埋め尽くして、その香りの中で過ごしたと言われています。彼女は、自分に自信を持って、堂々と生きていました」
私は結衣さんの目を見た。
「だから、結衣さんも、自分を信じていいんですよ」
「自分を信じて……」
ローズの瓶を握りしめながら結衣さんが呟く。
私は頷きながら、次の香りの瓶に手を伸ばした。
「では次は、これを」
私はジャスミンの瓶を開けた。
甘く、でも力強い香りが広がる。
「ジャスミンは、勇気を与えてくれる香りです」
「勇気……」
「そう。一歩踏み出す勇気。自分を信じる勇気」
結衣さんが香りを嗅ぐ。
「これ……なんだか、背中を押されてる感じがします」
「でしょう?ジャスミンは、『夜の女王』って呼ばれることもあるんですよ。夜に咲く花で、その香りはとても強くて、存在感があるんです。だからあなたも、自分の存在を信じていいんですよ」
私の説明に結衣さんは小さく頷いた。
「そして最後に、これを」
最後に私はベルガモットの瓶を開けた。
「ベルガモットは、明るく前向きな気持ちにさせてくれます」
結衣さんが嗅いで、少し笑顔になった。
「これ、好きかも。爽やかで、明るい気持ちになります」
「そうでしょう?では、この3つでブレンドを作りましょう。あなたの勇気を応援する香りを」
私の言葉に、結衣さんは力強く頷いた。

