香りの記憶、人生の処方箋



私たちはカウンターに移動した。
蓮さんが小さなガラス瓶を手に取る。

「作り方、教えてくれる?」
「はい」

私は笑顔で答えた。

「まず、キャリアオイルを注ぎます」

私は蓮さんの手を取って、一緒にオイルを注いだ。透明なオイルが、瓶の中でゆっくりと揺れる。

「そして、精油を垂らしていきます」

私は続けた。

「ラベンダーから」

蓮さんが慎重に、一滴ずつ垂らしていく。

「ラベンダーを3滴」

癒しの香り。
人に寄り添う、優しさの香り。

「次に、ベルガモット」

蓮さんが次の瓶を手に取る。

「ベルガモットを2滴」

希望の香り。
周りを明るくする、笑顔の香り。

「最後に、ローズ」

蓮さんが最後の瓶を手に取った。

「ローズを1滴」

強さと美しさの香り。
困難を乗り越える、勇気の香り。
私は瓶を優しく振った。
三つの香りが混ざり合って、一つになる。
新しい香りが生まれる。
それは、私の香り。

「できました」

私は蓮さんに瓶を差し出した。
蓮さんが香りを嗅ぐ。
彼は目を閉じて、ゆっくりと深呼吸した。
数秒の沈黙。
やがて、彼が目を開けた。

「…和花さんそのものだ」

その声は、温かかった。

「優しくて、明るくて、強い」

蓮さんは微笑んだ。

「和花さんの香り」

私も香りを嗅いだ。
確かに、これは私の香りだった。
癒しと希望と勇気。
それらが混ざり合った、特別な香り。

「ありがとうございます」

私は涙を流しながら言った。

「素敵なプレゼントです」
「メリークリスマス、和花さん」

蓮さんは私を優しく抱きしめた。
温かい腕の中で、私は幸せを感じていた。



店を出ると、また雪が降り始めていた。
私たちは並んで歩いた。
手を繋いで。
雪が、静かに舞い落ちる。
商店街のイルミネーションが、キラキラと輝いている。
その光景が、まるで夢のようだった。

「ねえ、和花さん」

蓮さんが言った。

「今日の香り、毎日使ってね」
「はい」

私は笑顔で答えた。

「毎日使います。大切にします」

蓮さんは嬉しそうに笑った。

「これから、一緒にたくさんの香りを作ろう」
「お客さんのためにも、俺たちのためにも」
「はい」

私は力強く頷いた。
私たちは、雪の中を歩いていった。
手を繋いで。
これから始まる、新しい物語へ。



家に帰ってから、私は蓮さんが作ってくれた香りを嗅いだ。
ラベンダー、ベルガモット、ローズ。
それぞれの香りが混ざり合って、私だけの香りになっている。
この香りを嗅ぐたびに、今日のことを思い出すだろう。
瀬川さんとの和解。
蓮さんとの告白。
そして、この特別なプレゼント。
私は小さな瓶を両手で包んだ。

――ありがとう。
すべてに、ありがとう。
明日からまた、店は開く。
新しいお客さんが来る。
その人たちに、寄り添っていく。
香りを通じて、幸せを届けていく。
そして今度は、蓮さんと一緒に。
私は瓶を大切に棚に置いた。
明日の朝、また手に取ろう。
この香りとともに、新しい一日を始めよう。

ベッドに入って、目を閉じる。
今日一日の出来事が、走馬灯のように頭をよぎる。
でも、もう怖くない。
もう、一人じゃない。
香りがある。
蓮さんがいる。
誠一郎さんがいる。
そして、たくさんのお客さんがいる。
私は、一人じゃない。
そう思いながら、私は眠りについた。
明日への希望を胸に。

商店街の小さなアロマショップ「桐の香」は、今日も温かく灯りを灯している。
そこには、あなたの心に寄り添う香りがある。
そして、優しく迎えてくれる人がいる。
もし、迷った時、悩んだ時、疲れた時。
ふらりと、立ち寄ってみてください。
きっと、あなたの香りが見つかるはずだから。
そして、もしかしたら――。
あなた自身も、誰かのための香りになれるかもしれない。

香りは、人と人を繋ぐ。
記憶を呼び起こし、感情を癒し、未来への一歩を後押しする。
その小さな瓶の中には、無限の可能性が詰まっている。
さあ、あなたも。
自分だけの香りを、見つけてみませんか?