◇
私たちは、カフェスペースに座った。
ハーブティーを淹れる手が、少し震えている。
カップを持つ指先が、冷たい。
瀬川さんは、静かに待っていてくれた。
私は彼の前にカップを置いて、自分も向かいに座った。
しばらく、沈黙が続いた。
窓の外では、また雪が降り始めている。
静かに、でも確実に、世界を白く染めていく。
「和花」
瀬川さんが口を開いた。
「あの時は、ごめん」
その言葉に、私は顔を上げた。
「僕が君を避けたこと。ちゃんと説明もしないで」
瀬川さんは俯いた。
「君を傷つけてしまったよね」
「いえ…」
私は首を振った。
「私こそ、ごめんなさい」
声が震えているのが自分でもよくわかる。
「瀬川さんのこと、何も考えずに。ひとりよがりで香りを贈って」
涙が、こぼれそうになった。
「でも」
瀬川さんが顔を上げた。
「君が贈ってくれた香り、本当は嬉しかったんだ」
その言葉に、私は驚いた。
「え…?」
「ただ、あの時の僕は、まだ彼女の死から立ち直れてなくて」
瀬川さんは目を閉じた。
「君が選んでくれた香り。それが、彼女が愛用していた香水に似ていて。……それで、一気に記憶が蘇ってきて。苦しくなって」
瀬川さんの声が震えた。
「でも、それは君のせいじゃない。僕が、まだ前を向けてなかっただけ。……君を避けたのは、僕の弱さのせいで。君が悪いわけじゃなかった」
その言葉を聞いて、私の涙が止まらなくなった。
「ごめん。今更こんなこと言われても、困るよね」
瀬川さんが申し訳なさそうに言った。
「でも、ずっと言いたかったんだ。君に、ありがとうって」
「ありがとう…?」
私は涙を拭いながら尋ねた。
「うん」
瀬川さんは微笑んだ。
「君が香りを贈ってくれたこと。それがきっかけで、僕は自分の気持ちと向き合えた」
「ああ、俺はまだ彼女のことを引きずってるんだって」
「それで、ちゃんとカウンセリングを受けたりして。少しずつ、前を向けるようになった」
瀬川さんは続けた。
「今は、新しい恋人もできて。幸せに暮らしてる」
その言葉を聞いて、私の胸が温かくなった。
「良かった…」
私は心から言った。
「本当に、良かったです」
瀬川さんは優しく笑った。
「和花も、変わったね」
「え?」
「SNSの写真、見たよ。すごく優しい笑顔で、お客さんに寄り添ってた」
瀬川さんは言った。
「あの時の和花も優しかった。でも、今の和花は、もっと強くなってる気がする」
その言葉を聞いて、私は少し照れた。
「…ありがとうございます」
「これからも、頑張ってね」
瀬川さんは立ち上がった。
「それだけ、伝えたかったんだ」
「瀬川さん」
私も立ち上がった。
「本当に、ありがとうございました」
私は深々と頭を下げた。
「こちらこそ、ありがとう」
瀬川さんも頭を下げた。
それから、彼は店を出ていった。
雪の中に消えていく、彼の背中。
もう、そこに後悔はなかった。
◇
瀬川さんが出ていった後、私はしばらくその場に立っていた。
胸が、温かかった。
――ああ、終わったんだ。
4年間、ずっと引きずっていたもの。
それが、ようやく終わった。
「和花」
誠一郎さんが声をかけてきた。
「大丈夫かい?」
「はい」
私は涙を拭いて、笑顔を見せた。
「大丈夫です。もう、大丈夫です」
誠一郎さんは優しく笑った。
「良かったね」
その言葉が、胸に染みた。
私たちは、カフェスペースに座った。
ハーブティーを淹れる手が、少し震えている。
カップを持つ指先が、冷たい。
瀬川さんは、静かに待っていてくれた。
私は彼の前にカップを置いて、自分も向かいに座った。
しばらく、沈黙が続いた。
窓の外では、また雪が降り始めている。
静かに、でも確実に、世界を白く染めていく。
「和花」
瀬川さんが口を開いた。
「あの時は、ごめん」
その言葉に、私は顔を上げた。
「僕が君を避けたこと。ちゃんと説明もしないで」
瀬川さんは俯いた。
「君を傷つけてしまったよね」
「いえ…」
私は首を振った。
「私こそ、ごめんなさい」
声が震えているのが自分でもよくわかる。
「瀬川さんのこと、何も考えずに。ひとりよがりで香りを贈って」
涙が、こぼれそうになった。
「でも」
瀬川さんが顔を上げた。
「君が贈ってくれた香り、本当は嬉しかったんだ」
その言葉に、私は驚いた。
「え…?」
「ただ、あの時の僕は、まだ彼女の死から立ち直れてなくて」
瀬川さんは目を閉じた。
「君が選んでくれた香り。それが、彼女が愛用していた香水に似ていて。……それで、一気に記憶が蘇ってきて。苦しくなって」
瀬川さんの声が震えた。
「でも、それは君のせいじゃない。僕が、まだ前を向けてなかっただけ。……君を避けたのは、僕の弱さのせいで。君が悪いわけじゃなかった」
その言葉を聞いて、私の涙が止まらなくなった。
「ごめん。今更こんなこと言われても、困るよね」
瀬川さんが申し訳なさそうに言った。
「でも、ずっと言いたかったんだ。君に、ありがとうって」
「ありがとう…?」
私は涙を拭いながら尋ねた。
「うん」
瀬川さんは微笑んだ。
「君が香りを贈ってくれたこと。それがきっかけで、僕は自分の気持ちと向き合えた」
「ああ、俺はまだ彼女のことを引きずってるんだって」
「それで、ちゃんとカウンセリングを受けたりして。少しずつ、前を向けるようになった」
瀬川さんは続けた。
「今は、新しい恋人もできて。幸せに暮らしてる」
その言葉を聞いて、私の胸が温かくなった。
「良かった…」
私は心から言った。
「本当に、良かったです」
瀬川さんは優しく笑った。
「和花も、変わったね」
「え?」
「SNSの写真、見たよ。すごく優しい笑顔で、お客さんに寄り添ってた」
瀬川さんは言った。
「あの時の和花も優しかった。でも、今の和花は、もっと強くなってる気がする」
その言葉を聞いて、私は少し照れた。
「…ありがとうございます」
「これからも、頑張ってね」
瀬川さんは立ち上がった。
「それだけ、伝えたかったんだ」
「瀬川さん」
私も立ち上がった。
「本当に、ありがとうございました」
私は深々と頭を下げた。
「こちらこそ、ありがとう」
瀬川さんも頭を下げた。
それから、彼は店を出ていった。
雪の中に消えていく、彼の背中。
もう、そこに後悔はなかった。
◇
瀬川さんが出ていった後、私はしばらくその場に立っていた。
胸が、温かかった。
――ああ、終わったんだ。
4年間、ずっと引きずっていたもの。
それが、ようやく終わった。
「和花」
誠一郎さんが声をかけてきた。
「大丈夫かい?」
「はい」
私は涙を拭いて、笑顔を見せた。
「大丈夫です。もう、大丈夫です」
誠一郎さんは優しく笑った。
「良かったね」
その言葉が、胸に染みた。

