◇
京子さんが店を出た後、私はしばらくカウンターに立っていた。
彼女の背中は、来た時よりもずっと真っ直ぐだった。
まるで、重い鎖を断ち切ったような……そんな風に見えた。
窓の外を見ると、冬の午後の光が商店街を照らしている。
クリスマスの飾りが、キラキラと輝いている。
人々が行き交い、笑顔で会話を交わしている。
その光景を見ていると、心が温かくなる。
「和花」
誠一郎さんが声をかけてきたので、振り返った。
「今日の君も、とても良かったよ」
「ありがとうございます」
私は少し照れながら答えた。
「京子さんみたいに、人生の大きな転機を迎えている人に寄り添うのは、難しいことだ」
誠一郎さんは続けた。
「でも、君は『焦らなくていい』と言ってあげられた。それが、とても良かった」
その言葉を聞いて、私の胸が少し軽くなった。
「私も…」
私は少し考えてから、口を開いた。
「焦らなくていいんですよね」
誠一郎さんは優しく笑った。
「そうだね。人生に、急ぐ必要はない。自分のペースで、一歩ずつ」
その言葉が、胸に染みた。
私も、焦らなくていい。
蓮さんへの気持ち。
瀬川さんとの過去。
それらと向き合うのは、もう少し先でいい。
今は、目の前のことを、一つずつ。
◇
その日の夕方、店が少し落ち着いた頃、蓮さんが来た。
今日は、SNSの報告に来たらしい。
「和花さん、見て」
蓮さんはスマートフォンを見せてくれた。
画面には、「桐の香」のSNSページが表示されていた。
そして、たくさんの「いいね」やコメントがついている。
「すごい…」
私は思わず声を上げた。
「こんなに反響があるんですか?」
「うん。みんな、和花さんの接客に興味を持ってくれてる」
蓮さんは嬉しそうに言った。
「『香りで悩みに寄り添ってくれる店』って、すごく評判いいよ」
彼の言葉を聞いて、私の胸が温かくなった。
「蓮さんのおかげです。素敵なSNSを作ってくださって」
「いや、和花さんの魅力を伝えただけだよ」
蓮さんは照れたように笑った。
「ねえ、和花さん」
少しの沈黙の後、蓮さんが口を開いた。
「もうすぐクリスマスだけど、予定ある?」
その言葉に、私の心臓が跳ねた。
クリスマス?
予定?
「あ、変な意味じゃなくて!」
蓮さんが慌てて言った。
「おじいちゃんも含めて、三人でご飯でもどうかなって」
「あ…」
私は少しホッとしたような、でも少し残念なような、複雑な気持ちになった。
「はい、大丈夫です」
私は笑顔で答えた。
「じゃあ、また日程調整するね」
蓮さんは嬉しそうに笑った。
彼が帰った後、私は一人、考えていた。
蓮さんとのクリスマス。
誠一郎さんも一緒だけど、それでも嬉しい。
胸が、少しだけ温かくなる。
◇
その夜、店を閉めた後。
私は一人、ペパーミントの瓶を手に取った。
新しいスタートの香り。
蓋を開けて、深く香りを嗅ぐ。
スッとする香りが、心を包んでくれる。
――新しいスタート、か。
京子さんは、新しい人生を歩み始めた。
20年の結婚生活を終えて、自分のために生きると決めた。
その勇気が、すごいと思う。
じゃあ、私は?
私も、そろそろ新しいスタートを切らなければならない。
瀬川さんとの過去と、ちゃんと向き合うこと。
蓮さんへの気持ちを、認めること。
まだ、今じゃない。
でも、そう遠くない未来に。
窓の外を見る。
冬の夜空に、星が冷たく輝いている。
商店街のイルミネーションが、温かい光を放っている。
私は瓶を棚に戻して、深呼吸した。
少しずつでいい。
でも、確実に。
前に進もう。
クリスマスが、もうすぐそこまで来ている。
京子さんが店を出た後、私はしばらくカウンターに立っていた。
彼女の背中は、来た時よりもずっと真っ直ぐだった。
まるで、重い鎖を断ち切ったような……そんな風に見えた。
窓の外を見ると、冬の午後の光が商店街を照らしている。
クリスマスの飾りが、キラキラと輝いている。
人々が行き交い、笑顔で会話を交わしている。
その光景を見ていると、心が温かくなる。
「和花」
誠一郎さんが声をかけてきたので、振り返った。
「今日の君も、とても良かったよ」
「ありがとうございます」
私は少し照れながら答えた。
「京子さんみたいに、人生の大きな転機を迎えている人に寄り添うのは、難しいことだ」
誠一郎さんは続けた。
「でも、君は『焦らなくていい』と言ってあげられた。それが、とても良かった」
その言葉を聞いて、私の胸が少し軽くなった。
「私も…」
私は少し考えてから、口を開いた。
「焦らなくていいんですよね」
誠一郎さんは優しく笑った。
「そうだね。人生に、急ぐ必要はない。自分のペースで、一歩ずつ」
その言葉が、胸に染みた。
私も、焦らなくていい。
蓮さんへの気持ち。
瀬川さんとの過去。
それらと向き合うのは、もう少し先でいい。
今は、目の前のことを、一つずつ。
◇
その日の夕方、店が少し落ち着いた頃、蓮さんが来た。
今日は、SNSの報告に来たらしい。
「和花さん、見て」
蓮さんはスマートフォンを見せてくれた。
画面には、「桐の香」のSNSページが表示されていた。
そして、たくさんの「いいね」やコメントがついている。
「すごい…」
私は思わず声を上げた。
「こんなに反響があるんですか?」
「うん。みんな、和花さんの接客に興味を持ってくれてる」
蓮さんは嬉しそうに言った。
「『香りで悩みに寄り添ってくれる店』って、すごく評判いいよ」
彼の言葉を聞いて、私の胸が温かくなった。
「蓮さんのおかげです。素敵なSNSを作ってくださって」
「いや、和花さんの魅力を伝えただけだよ」
蓮さんは照れたように笑った。
「ねえ、和花さん」
少しの沈黙の後、蓮さんが口を開いた。
「もうすぐクリスマスだけど、予定ある?」
その言葉に、私の心臓が跳ねた。
クリスマス?
予定?
「あ、変な意味じゃなくて!」
蓮さんが慌てて言った。
「おじいちゃんも含めて、三人でご飯でもどうかなって」
「あ…」
私は少しホッとしたような、でも少し残念なような、複雑な気持ちになった。
「はい、大丈夫です」
私は笑顔で答えた。
「じゃあ、また日程調整するね」
蓮さんは嬉しそうに笑った。
彼が帰った後、私は一人、考えていた。
蓮さんとのクリスマス。
誠一郎さんも一緒だけど、それでも嬉しい。
胸が、少しだけ温かくなる。
◇
その夜、店を閉めた後。
私は一人、ペパーミントの瓶を手に取った。
新しいスタートの香り。
蓋を開けて、深く香りを嗅ぐ。
スッとする香りが、心を包んでくれる。
――新しいスタート、か。
京子さんは、新しい人生を歩み始めた。
20年の結婚生活を終えて、自分のために生きると決めた。
その勇気が、すごいと思う。
じゃあ、私は?
私も、そろそろ新しいスタートを切らなければならない。
瀬川さんとの過去と、ちゃんと向き合うこと。
蓮さんへの気持ちを、認めること。
まだ、今じゃない。
でも、そう遠くない未来に。
窓の外を見る。
冬の夜空に、星が冷たく輝いている。
商店街のイルミネーションが、温かい光を放っている。
私は瓶を棚に戻して、深呼吸した。
少しずつでいい。
でも、確実に。
前に進もう。
クリスマスが、もうすぐそこまで来ている。

