◇
「まずは、いくつか嗅いでみてください」
精油の瓶を並べながら私がそう言って、顔を上げる。
彼女は興味深そうに色々と見始めた。
「好きな香り、嫌いな香り……何でもいいので教えてください」
女性――そういえば、まだ名前を聞いていないことに気づいて、私は尋ねた。
「あ、すみません、お名前を聞いてもいいですか?申し遅れましたが、私は柚木和花と申します」
「あ、私は深沢真帆です」
「ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします」
私たちは軽く会釈を交わした。
真帆さんは棚に並ぶ精油の瓶を見つめた。
小さなガラス瓶の中に、それぞれ異なる色の液体が入っている。
「こんなにたくさん……。あの、どれから試せばいいか……」
「大丈夫ですよ、ゆっくりで。それとも、おすすめの香りをご提案しましょうか?」
「お願いできますか……?」
「はい、もちろんです。では、先ほどの真帆さんのお話を参考にさせていただきますね」
そう言いながら、私は最初の瓶を手に取った。
「まずは、これ。ラベンダーです」
瓶の蓋を開けて、真帆さんに差し出す。
真帆さんは少し緊張した様子で、香りを嗅いだ。
「……優しい香りですね」
「そうですね。ラベンダーは、心を落ち着かせてくれます。リラックスしたい時に」
真帆さんは小さく頷いた。
「次は、これを」
次に私はローズの瓶を開けた。
真帆さんが嗅いで、少し顔をしかめる。
「これは……ちょっと甘すぎるかも」
「そうですか。ローズは好みが分かれますね」
私は次の瓶を手に取った。
「では、これはどうでしょう?ペパーミントです」
真帆さんが香りを嗅いだ瞬間、表情が変わった。
「あ……スッとする。頭が冷える感じ」
「そうなんです。ペパーミントは、頭をスッキリさせてくれます。集中したい時や、気持ちを切り替えたい時にいいんです」
真帆さんは少し興味を持った様子で、もう一度香りを嗅いだ。
「悪くない……かも」
私は次の瓶を開けた。
「お次はこれ。レモンです」
私はレモンの瓶を開けた。
真帆さんが香りを嗅いだ瞬間、表情が変わった。
「あ……スッとする。頭が冷える感じ」
「レモンって……」
私は説明を始めた。
「実は、古い時代から『浄化』の香りとして使われてきたんです。古代エジプトでは、レモンの香りが邪気を払うと信じられていて、中世ヨーロッパでは、ペストから身を守るために、人々がレモンを持ち歩いたそうですよ」
「そうなんですね……」
真帆さんが少し驚いた表情を見せた。
「だから、レモンは古い記憶を洗い流して、新しい気持ちにさせてくれるんです」
私は微笑んだ。
「気分をリフレッシュして、前向きになれる香りです。朝、起きた時に嗅ぐと、一日を明るく始められる」
「前向きな気持ち…」
私の言葉に、真帆さんは呟いた。
「そう。新しい一日を、新しい気持ちで始める。そのための香り」
真帆さんは小さく頷いた。
私はもう一つ、瓶を手に取る。
「最後に、これ。ベルガモット」
真帆さんが香りを嗅ぐ。
「これも柑橘系ですか?」
「そうです。でもレモンよりも、少し甘くて温かい香りなんですよ」
私は説明を続けた。
「ベルガモットって、実は紅茶のアールグレイの香り付けに使われているんです」
「あっ!アールグレイですか?!」
真帆さんが目を輝かせた。
「この香り、知ってる気がします」
「そうなんです。ベルガモットは、希望の香りとも言われていて、どんなに暗い道でも、必ず光はあるって思わせてくれるんです」
「……いいですね」
真帆さんは目を閉じて、もう一度香りを嗅いだ。
私は彼女の様子を見て、提案した。
「じゃあ、この三つでブレンドを作りましょうか。レモン、ペパーミント、ベルガモット」
「ブレンド……?」
「はい。それぞれの香りを混ぜ合わせて、あなただけのオリジナルの香りを作るんです」
真帆さんは少し驚いた様子だったが、すぐに頷いた。
「お願いします」
「かしこまりました」
そう答えた真帆さんに一礼し、私はカウンターに戻り、小さなガラス瓶とキャリアオイルを用意した。
「キャリアオイルっていうのは、精油を薄めるためのオイルです。これに精油を数滴垂らして、ブレンドを作ります」
真帆さんは興味深そうに見ていた。
私は慎重に、一滴ずつ精油を垂らしていく。
「レモンを三滴」
透明な液体が、オイルの中に落ちる。
「ペパーミントを二滴」
清涼感のある香りが広がる。
「ベルガモットを一滴」
最後の一滴を加えて、瓶を優しく振る。
香りが混ざり合って、一つになる。
「できました」
私は瓶の蓋を開けて、真帆さんに差し出した。
真帆さんが香りを嗅ぐ。
数秒の沈黙。
そして、彼女の顔に、柔らかな笑みが浮かんだ。
「……いい香り」
「気に入っていただけましたか?」
「はい。爽やかで、でも温かい。なんだか、背中を押してもらえる感じ」
私は安堵した。
「良かった」
真帆さんは瓶を両手で包んだ。
「これが、私の新しい香りですね」
「そうです」
私は力強く頷きながら言った。
「毎朝、起きたらこの香りを嗅いでください。辛い時も、嬉しい時も。そうすれば、この香りが『今のあなた』になっていきます。過去の香りじゃなくて、未来に向かうあなたの香り」
真帆さんは目を潤ませながら、頷いた。
「ありがとうございます。本当に」
「まずは、いくつか嗅いでみてください」
精油の瓶を並べながら私がそう言って、顔を上げる。
彼女は興味深そうに色々と見始めた。
「好きな香り、嫌いな香り……何でもいいので教えてください」
女性――そういえば、まだ名前を聞いていないことに気づいて、私は尋ねた。
「あ、すみません、お名前を聞いてもいいですか?申し遅れましたが、私は柚木和花と申します」
「あ、私は深沢真帆です」
「ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします」
私たちは軽く会釈を交わした。
真帆さんは棚に並ぶ精油の瓶を見つめた。
小さなガラス瓶の中に、それぞれ異なる色の液体が入っている。
「こんなにたくさん……。あの、どれから試せばいいか……」
「大丈夫ですよ、ゆっくりで。それとも、おすすめの香りをご提案しましょうか?」
「お願いできますか……?」
「はい、もちろんです。では、先ほどの真帆さんのお話を参考にさせていただきますね」
そう言いながら、私は最初の瓶を手に取った。
「まずは、これ。ラベンダーです」
瓶の蓋を開けて、真帆さんに差し出す。
真帆さんは少し緊張した様子で、香りを嗅いだ。
「……優しい香りですね」
「そうですね。ラベンダーは、心を落ち着かせてくれます。リラックスしたい時に」
真帆さんは小さく頷いた。
「次は、これを」
次に私はローズの瓶を開けた。
真帆さんが嗅いで、少し顔をしかめる。
「これは……ちょっと甘すぎるかも」
「そうですか。ローズは好みが分かれますね」
私は次の瓶を手に取った。
「では、これはどうでしょう?ペパーミントです」
真帆さんが香りを嗅いだ瞬間、表情が変わった。
「あ……スッとする。頭が冷える感じ」
「そうなんです。ペパーミントは、頭をスッキリさせてくれます。集中したい時や、気持ちを切り替えたい時にいいんです」
真帆さんは少し興味を持った様子で、もう一度香りを嗅いだ。
「悪くない……かも」
私は次の瓶を開けた。
「お次はこれ。レモンです」
私はレモンの瓶を開けた。
真帆さんが香りを嗅いだ瞬間、表情が変わった。
「あ……スッとする。頭が冷える感じ」
「レモンって……」
私は説明を始めた。
「実は、古い時代から『浄化』の香りとして使われてきたんです。古代エジプトでは、レモンの香りが邪気を払うと信じられていて、中世ヨーロッパでは、ペストから身を守るために、人々がレモンを持ち歩いたそうですよ」
「そうなんですね……」
真帆さんが少し驚いた表情を見せた。
「だから、レモンは古い記憶を洗い流して、新しい気持ちにさせてくれるんです」
私は微笑んだ。
「気分をリフレッシュして、前向きになれる香りです。朝、起きた時に嗅ぐと、一日を明るく始められる」
「前向きな気持ち…」
私の言葉に、真帆さんは呟いた。
「そう。新しい一日を、新しい気持ちで始める。そのための香り」
真帆さんは小さく頷いた。
私はもう一つ、瓶を手に取る。
「最後に、これ。ベルガモット」
真帆さんが香りを嗅ぐ。
「これも柑橘系ですか?」
「そうです。でもレモンよりも、少し甘くて温かい香りなんですよ」
私は説明を続けた。
「ベルガモットって、実は紅茶のアールグレイの香り付けに使われているんです」
「あっ!アールグレイですか?!」
真帆さんが目を輝かせた。
「この香り、知ってる気がします」
「そうなんです。ベルガモットは、希望の香りとも言われていて、どんなに暗い道でも、必ず光はあるって思わせてくれるんです」
「……いいですね」
真帆さんは目を閉じて、もう一度香りを嗅いだ。
私は彼女の様子を見て、提案した。
「じゃあ、この三つでブレンドを作りましょうか。レモン、ペパーミント、ベルガモット」
「ブレンド……?」
「はい。それぞれの香りを混ぜ合わせて、あなただけのオリジナルの香りを作るんです」
真帆さんは少し驚いた様子だったが、すぐに頷いた。
「お願いします」
「かしこまりました」
そう答えた真帆さんに一礼し、私はカウンターに戻り、小さなガラス瓶とキャリアオイルを用意した。
「キャリアオイルっていうのは、精油を薄めるためのオイルです。これに精油を数滴垂らして、ブレンドを作ります」
真帆さんは興味深そうに見ていた。
私は慎重に、一滴ずつ精油を垂らしていく。
「レモンを三滴」
透明な液体が、オイルの中に落ちる。
「ペパーミントを二滴」
清涼感のある香りが広がる。
「ベルガモットを一滴」
最後の一滴を加えて、瓶を優しく振る。
香りが混ざり合って、一つになる。
「できました」
私は瓶の蓋を開けて、真帆さんに差し出した。
真帆さんが香りを嗅ぐ。
数秒の沈黙。
そして、彼女の顔に、柔らかな笑みが浮かんだ。
「……いい香り」
「気に入っていただけましたか?」
「はい。爽やかで、でも温かい。なんだか、背中を押してもらえる感じ」
私は安堵した。
「良かった」
真帆さんは瓶を両手で包んだ。
「これが、私の新しい香りですね」
「そうです」
私は力強く頷きながら言った。
「毎朝、起きたらこの香りを嗅いでください。辛い時も、嬉しい時も。そうすれば、この香りが『今のあなた』になっていきます。過去の香りじゃなくて、未来に向かうあなたの香り」
真帆さんは目を潤ませながら、頷いた。
「ありがとうございます。本当に」

