◇
午後、蓮さんがお店に顔を出した。
カメラを持って、少し嬉しそうな表情をしている。
「和花さん、お疲れさま」
「お疲れさまです」
私は笑顔で迎えた。
「今日は、撮影してもいい?」
「はい、大丈夫です」
蓮さんはカメラを構えて、店内のいくつかのシーンを撮り始めた。
窓から差し込む光、精油の瓶、カフェスペース。
そして、カウンターで作業する私の姿も。
「和花さん、すごく自然でいいよ」
蓮さんが言った。
「え…そうですか?」
私は少し恥ずかしくなった。
「うん。緊張してないし、いつもの和花さんって感じ」
蓮さんは笑った。
「それが一番いい」
その言葉を聞いて、私は少しだけ嬉しくなった。
撮影が一段落した後、蓮さんはカメラを置いて、私のところに来た。
「さっきのお客さん、大変そうだったね」
「…聞こえてましたか?」
「ごめん。奥で作業してたら、声が聞こえてきて」
蓮さんは申し訳なさそうに言った。
「でも、和花さん、すごく良かったよ」
「え…?」
「答えを押し付けるんじゃなくて、相手が自分で考えるのを手伝ってた」
蓮さんは真剣な表情で言った。
「それって、簡単なことじゃない。つい、自分の意見を言いたくなるし。でも、和花さんは、ちゃんと相手に寄り添ってた」
その言葉に、私の心が温かくなった。
「ありがとうございます」
私は小さく言った。
「僕も、昔、転職で悩んだことがあってさ」
蓮さんが突然言った。
「え?」
「会社員だったんだ、昔。でも、自分のやりたいことと違って」
蓮さんは少し遠い目をした。
「それで、フリーランスになったんだけど、めちゃくちゃ怖かった。今でも、正しかったのかなって、時々思う」
蓮さんは窓の外を見た。
「でも、後悔はしてない。自分で選んだ道だから」
その言葉を聞いて、私は少し驚いた。
蓮さんにも、そんな時期があったんだ。
いつも穏やかで、自信があるように見える蓮さんも、悩んで、迷って、それでも前に進んできたんだ。
「蓮さん…」
「あ、ごめん。変な話しちゃった」
蓮さんは照れたように笑った。
「いえ、教えてくださってありがとうございます。……蓮さんのお話、すごく励みになります」
「そう言ってもらえると、嬉しいな」
蓮さんは優しく笑った。
その笑顔にドキッとして、顔が熱くなったのがわかり、思わず俯いてしまう。
少し沈黙が流れた。
でも、それは心地よい沈黙だった。
「じゃあ、もう少し撮影するね」
蓮さんはカメラを手に取った。
「はい」
私は頷いた。
蓮さんの背中を見ながら、私は思った。
みんな、それぞれに悩みを抱えて、それでも前に進んでいる。
私も、そうでありたい。
◇
その夜、店を閉めた後。
私は一人、シダーウッドの瓶を手に取った。
決断の香り。
勇気の香り。
蓋を開けて、深く香りを嗅ぐ。
深い木の香りが、心を落ち着かせてくれる。
――私も、いつか大きな決断をする日が来るだろうか。
瀬川さんと向き合うこと。
自分の未来を決めること。
まだ、答えは見えない。
でも、それでいい。
焦らなくていい。
今は、目の前のことを一つずつ。
お客さんに寄り添って、香りの力を信じて。
そうやって積み重ねていけば、いつか答えが見えてくる。
窓の外を見る。
冬の夜空に、星が冷たく輝いている。
風が吹いて、裸の街路樹が揺れている。
私は瓶を棚に戻して、コートを羽織った。
さあ、帰ろう。
また明日、新しい一日が始まる。
午後、蓮さんがお店に顔を出した。
カメラを持って、少し嬉しそうな表情をしている。
「和花さん、お疲れさま」
「お疲れさまです」
私は笑顔で迎えた。
「今日は、撮影してもいい?」
「はい、大丈夫です」
蓮さんはカメラを構えて、店内のいくつかのシーンを撮り始めた。
窓から差し込む光、精油の瓶、カフェスペース。
そして、カウンターで作業する私の姿も。
「和花さん、すごく自然でいいよ」
蓮さんが言った。
「え…そうですか?」
私は少し恥ずかしくなった。
「うん。緊張してないし、いつもの和花さんって感じ」
蓮さんは笑った。
「それが一番いい」
その言葉を聞いて、私は少しだけ嬉しくなった。
撮影が一段落した後、蓮さんはカメラを置いて、私のところに来た。
「さっきのお客さん、大変そうだったね」
「…聞こえてましたか?」
「ごめん。奥で作業してたら、声が聞こえてきて」
蓮さんは申し訳なさそうに言った。
「でも、和花さん、すごく良かったよ」
「え…?」
「答えを押し付けるんじゃなくて、相手が自分で考えるのを手伝ってた」
蓮さんは真剣な表情で言った。
「それって、簡単なことじゃない。つい、自分の意見を言いたくなるし。でも、和花さんは、ちゃんと相手に寄り添ってた」
その言葉に、私の心が温かくなった。
「ありがとうございます」
私は小さく言った。
「僕も、昔、転職で悩んだことがあってさ」
蓮さんが突然言った。
「え?」
「会社員だったんだ、昔。でも、自分のやりたいことと違って」
蓮さんは少し遠い目をした。
「それで、フリーランスになったんだけど、めちゃくちゃ怖かった。今でも、正しかったのかなって、時々思う」
蓮さんは窓の外を見た。
「でも、後悔はしてない。自分で選んだ道だから」
その言葉を聞いて、私は少し驚いた。
蓮さんにも、そんな時期があったんだ。
いつも穏やかで、自信があるように見える蓮さんも、悩んで、迷って、それでも前に進んできたんだ。
「蓮さん…」
「あ、ごめん。変な話しちゃった」
蓮さんは照れたように笑った。
「いえ、教えてくださってありがとうございます。……蓮さんのお話、すごく励みになります」
「そう言ってもらえると、嬉しいな」
蓮さんは優しく笑った。
その笑顔にドキッとして、顔が熱くなったのがわかり、思わず俯いてしまう。
少し沈黙が流れた。
でも、それは心地よい沈黙だった。
「じゃあ、もう少し撮影するね」
蓮さんはカメラを手に取った。
「はい」
私は頷いた。
蓮さんの背中を見ながら、私は思った。
みんな、それぞれに悩みを抱えて、それでも前に進んでいる。
私も、そうでありたい。
◇
その夜、店を閉めた後。
私は一人、シダーウッドの瓶を手に取った。
決断の香り。
勇気の香り。
蓋を開けて、深く香りを嗅ぐ。
深い木の香りが、心を落ち着かせてくれる。
――私も、いつか大きな決断をする日が来るだろうか。
瀬川さんと向き合うこと。
自分の未来を決めること。
まだ、答えは見えない。
でも、それでいい。
焦らなくていい。
今は、目の前のことを一つずつ。
お客さんに寄り添って、香りの力を信じて。
そうやって積み重ねていけば、いつか答えが見えてくる。
窓の外を見る。
冬の夜空に、星が冷たく輝いている。
風が吹いて、裸の街路樹が揺れている。
私は瓶を棚に戻して、コートを羽織った。
さあ、帰ろう。
また明日、新しい一日が始まる。

