◇
カウンターで、私はブレンドを作った。
二人分の小瓶を用意して、それぞれにキャリアオイルを注ぐ。瓶の中で、透明なオイルが揺れる。
そして、一滴ずつ、丁寧に精油を垂らしていく。
一滴ごとに、心を込めて。
二人の友情が、これからもずっと続くように。
「ユーカリを2滴」
心を開く香り。
「ゼラニウムを2滴」
バランスと調和の香り。
「ベルガモットを2滴」
明るく前向きになる香り。
瓶を優しく振って、香りを混ぜ合わせる。
三つの香りが一つになって、新しい香りが生まれる。
「できました」
私は二人に瓶を渡した。
あかりさんとみなみさんが、同時に香りを嗅ぐ。
数秒の沈黙。
そして、二人は顔を見合わせて、笑った。
「いい香り!」
「うん、すごくいい!」
二人は手を繋いだ。
その手の温かさが、私にも伝わってくる気がした。
「これ、毎日一緒に嗅ごうね」
みなみさんが言った。
「うん。そうしよう」
あかりさんが頷いた。
「それで、時々は二人で会う時間も作ろう。彼氏も大切だけど、みなみも大切だから」
「ありがとう、あかり」
みなみさんの目に、また涙が浮かんだ。でも、今度は嬉しい涙だった。
その光景を見て、私の胸も温かくなった。
友情って、素敵だ。
そして、香りが、その友情を繋ぐお手伝いができる。
それが、嬉しかった。
◇
店を出る時、二人とも笑顔だった。
「ありがとうございました!」
あかりさんが元気に手を振った。
「また来ます!」
みなみさんも笑顔で言った。
「はい、お待ちしております」
私は手を振り返した。
カランカラン。
ドアベルが鳴って、二人が商店街に消えていく。
二人は肩を寄せ合って、楽しそうに話している。
その背中を見ていると、私も嬉しくなった。
「良かったね、和花」
誠一郎さんが声をかけてきた。
「はい」
私は振り返って、誠一郎さんを見た。
「友情も、恋愛と同じくらい大切なものだ」
誠一郎さんは穏やかに言った。
「君は、それを理解している」
「ありがとうございます」
私は少し照れながら答えた。
「でも…」
私は少し考えてから、口を開いた。
「私、友達って少ないんです」
誠一郎さんは静かに聞いている。
「大学の時も、あまり友達を作れなくて。瀬川さんのことで失敗してから、人と距離を置くようになって」
私は窓の外を見た。
「だから、さっきの二人を見て、羨ましいなって思いました」
「和花」
誠一郎さんが優しく言った。
「友達は、数じゃないよ。たとえ少なくても、本当に心を開ける相手がいれば、それでいい」
その言葉が、胸に染みた。
「それに」
誠一郎さんは続けた。
「君には、これから出会う人たちがいる。焦ることはない」
私は小さく頷いた。
「…はい」
◇
その日の夕方。
店の奥で、蓮さんが黙々と作業をしていた。
昨日から始めた棚の修理が、ようやく完成に近づいているらしい。
時々、トンカンと木を叩く音が聞こえてくる。その音が、なぜか心地よかった。
「和花さん、ちょっといい?」
蓮さんが顔を出した。
「はい、何でしょうか」
私はカウンターから顔を上げた。
「棚、できたから見てもらえる?」
「もう完成したんですか?」
私は驚いて、店の奥に向かった。
棚は、見違えるほど綺麗になっていた。
歪んでいた部分が直され、新しい板が追加されている。
木の温もりが、優しく伝わってくる。
「すごい…」
私は思わず声を上げた。
「ありがとうございます」
「いや、これくらい」
蓮さんは照れたように笑った。
「おじいちゃんの店だから、ちゃんと直したくて」
その言葉を聞いて、私は改めて思った。
蓮さんは、本当に誠一郎さんのことを大切にしている。
そして、この店のことも。
「あ、そうだ」
蓮さんが何かを思い出したように言った。
「SNS、来週公開するんだけど、和花さんにも一度確認してもらいたくて」
「はい、もちろんです」
私は頷いた。
蓮さんはノートパソコンを開いて、画面を見せてくれた。
そこには、店の写真と文章が並んでいた。
『商店街の小さなアロマショップ「桐の香」。ここには、あなたの心に寄り添う香りがあります』
その文章の下に、店内の写真。窓から差し込む光、精油の瓶、カフェスペース。
どれも、「桐の香」の雰囲気を優しく伝えている。
「素敵です…」
私は思わず呟いた。
「ありがとう」
蓮さんは嬉しそうに笑った。
「和花さんの接客してる様子も、撮りたいんだけど、いいかな?」
「え…私ですか?」
「うん。和花さんの優しい笑顔、きっとみんなに伝わると思うから」
その言葉に、私の心臓が跳ねた。
優しい笑顔、か。
そんな風に見てくれているんだ。
「…はい、大丈夫です」
私は小さく答えた。
「ありがとう」
蓮さんは柔らかく笑った。
少し沈黙が流れた。
でも、それは気まずい沈黙じゃなかった。
むしろ、心地よい静けさだった。
「じゃあ、来週また来るね」
蓮さんは荷物をまとめ始めた。
「はい、お疲れさまでした」
私は笑顔で答えた。
蓮さんが店を出た後、私は一人、カウンターに立っていた。
胸が、少しだけ温かかった。
◇
その夜、店を閉めた後。
私は一人、ユーカリの瓶を手に取った。
心を開く香り。
浄化の香り。
蓋を開けて、深く香りを嗅ぐ。
スッとする香りが、鼻腔を満たす。
――友情、か。
私にも、親友と呼べる人がいただろうか。
大学時代は、いた気がする。
でも、瀬川さんのことがあってから、疎遠になってしまった。
自分から距離を置いてしまった。
でも、これから――。
これから、また誰かと深い関係を築けるだろうか。
窓の外を見る。
秋の夜空に、星が輝いている。
冷たい風が、静かに吹いている。
私は瓶を棚に戻して、深呼吸した。
一歩ずつ、決して焦らずに、前に進んでいこう。
カウンターで、私はブレンドを作った。
二人分の小瓶を用意して、それぞれにキャリアオイルを注ぐ。瓶の中で、透明なオイルが揺れる。
そして、一滴ずつ、丁寧に精油を垂らしていく。
一滴ごとに、心を込めて。
二人の友情が、これからもずっと続くように。
「ユーカリを2滴」
心を開く香り。
「ゼラニウムを2滴」
バランスと調和の香り。
「ベルガモットを2滴」
明るく前向きになる香り。
瓶を優しく振って、香りを混ぜ合わせる。
三つの香りが一つになって、新しい香りが生まれる。
「できました」
私は二人に瓶を渡した。
あかりさんとみなみさんが、同時に香りを嗅ぐ。
数秒の沈黙。
そして、二人は顔を見合わせて、笑った。
「いい香り!」
「うん、すごくいい!」
二人は手を繋いだ。
その手の温かさが、私にも伝わってくる気がした。
「これ、毎日一緒に嗅ごうね」
みなみさんが言った。
「うん。そうしよう」
あかりさんが頷いた。
「それで、時々は二人で会う時間も作ろう。彼氏も大切だけど、みなみも大切だから」
「ありがとう、あかり」
みなみさんの目に、また涙が浮かんだ。でも、今度は嬉しい涙だった。
その光景を見て、私の胸も温かくなった。
友情って、素敵だ。
そして、香りが、その友情を繋ぐお手伝いができる。
それが、嬉しかった。
◇
店を出る時、二人とも笑顔だった。
「ありがとうございました!」
あかりさんが元気に手を振った。
「また来ます!」
みなみさんも笑顔で言った。
「はい、お待ちしております」
私は手を振り返した。
カランカラン。
ドアベルが鳴って、二人が商店街に消えていく。
二人は肩を寄せ合って、楽しそうに話している。
その背中を見ていると、私も嬉しくなった。
「良かったね、和花」
誠一郎さんが声をかけてきた。
「はい」
私は振り返って、誠一郎さんを見た。
「友情も、恋愛と同じくらい大切なものだ」
誠一郎さんは穏やかに言った。
「君は、それを理解している」
「ありがとうございます」
私は少し照れながら答えた。
「でも…」
私は少し考えてから、口を開いた。
「私、友達って少ないんです」
誠一郎さんは静かに聞いている。
「大学の時も、あまり友達を作れなくて。瀬川さんのことで失敗してから、人と距離を置くようになって」
私は窓の外を見た。
「だから、さっきの二人を見て、羨ましいなって思いました」
「和花」
誠一郎さんが優しく言った。
「友達は、数じゃないよ。たとえ少なくても、本当に心を開ける相手がいれば、それでいい」
その言葉が、胸に染みた。
「それに」
誠一郎さんは続けた。
「君には、これから出会う人たちがいる。焦ることはない」
私は小さく頷いた。
「…はい」
◇
その日の夕方。
店の奥で、蓮さんが黙々と作業をしていた。
昨日から始めた棚の修理が、ようやく完成に近づいているらしい。
時々、トンカンと木を叩く音が聞こえてくる。その音が、なぜか心地よかった。
「和花さん、ちょっといい?」
蓮さんが顔を出した。
「はい、何でしょうか」
私はカウンターから顔を上げた。
「棚、できたから見てもらえる?」
「もう完成したんですか?」
私は驚いて、店の奥に向かった。
棚は、見違えるほど綺麗になっていた。
歪んでいた部分が直され、新しい板が追加されている。
木の温もりが、優しく伝わってくる。
「すごい…」
私は思わず声を上げた。
「ありがとうございます」
「いや、これくらい」
蓮さんは照れたように笑った。
「おじいちゃんの店だから、ちゃんと直したくて」
その言葉を聞いて、私は改めて思った。
蓮さんは、本当に誠一郎さんのことを大切にしている。
そして、この店のことも。
「あ、そうだ」
蓮さんが何かを思い出したように言った。
「SNS、来週公開するんだけど、和花さんにも一度確認してもらいたくて」
「はい、もちろんです」
私は頷いた。
蓮さんはノートパソコンを開いて、画面を見せてくれた。
そこには、店の写真と文章が並んでいた。
『商店街の小さなアロマショップ「桐の香」。ここには、あなたの心に寄り添う香りがあります』
その文章の下に、店内の写真。窓から差し込む光、精油の瓶、カフェスペース。
どれも、「桐の香」の雰囲気を優しく伝えている。
「素敵です…」
私は思わず呟いた。
「ありがとう」
蓮さんは嬉しそうに笑った。
「和花さんの接客してる様子も、撮りたいんだけど、いいかな?」
「え…私ですか?」
「うん。和花さんの優しい笑顔、きっとみんなに伝わると思うから」
その言葉に、私の心臓が跳ねた。
優しい笑顔、か。
そんな風に見てくれているんだ。
「…はい、大丈夫です」
私は小さく答えた。
「ありがとう」
蓮さんは柔らかく笑った。
少し沈黙が流れた。
でも、それは気まずい沈黙じゃなかった。
むしろ、心地よい静けさだった。
「じゃあ、来週また来るね」
蓮さんは荷物をまとめ始めた。
「はい、お疲れさまでした」
私は笑顔で答えた。
蓮さんが店を出た後、私は一人、カウンターに立っていた。
胸が、少しだけ温かかった。
◇
その夜、店を閉めた後。
私は一人、ユーカリの瓶を手に取った。
心を開く香り。
浄化の香り。
蓋を開けて、深く香りを嗅ぐ。
スッとする香りが、鼻腔を満たす。
――友情、か。
私にも、親友と呼べる人がいただろうか。
大学時代は、いた気がする。
でも、瀬川さんのことがあってから、疎遠になってしまった。
自分から距離を置いてしまった。
でも、これから――。
これから、また誰かと深い関係を築けるだろうか。
窓の外を見る。
秋の夜空に、星が輝いている。
冷たい風が、静かに吹いている。
私は瓶を棚に戻して、深呼吸した。
一歩ずつ、決して焦らずに、前に進んでいこう。

