香りの記憶、人生の処方箋

「あかりさんは、どう思われていますか?」

私はあかりさんに視線を向けた。
あかりさんは少し迷った後、小さく言った。

「…私、最近彼氏ができて」

みなみさんの肩が、ピクリと動いた。

「それで、彼と過ごす時間が増えて。みなみと会う時間が減っちゃって」

あかりさんの声が、少しずつ小さくなっていく。

「でも、みなみのことが嫌いになったわけじゃなくて。ただ、両立が難しくて」

みなみさんは黙ったまま、カップを握りしめている。

「みなみさん」

私はみなみさんに話しかけた。

「今のあかりさんの言葉を聞いて、どう思われましたか?」

みなみさんは少し迷った後、顔を上げた。その目には、涙が浮かんでいた。

「…寂しかったんです」

その声は震えていた。

「親友だと思ってたのに。彼氏ができた途端、私より彼氏を優先するようになって」
「私、捨てられたような気がして」

みなみさんの涙が、一粒、頬を伝った。
あかりさんは、その涙を見て、慌てて言った。

「捨てたわけじゃない!みなみのこと、今でも大切な親友だよ」
「でも…」
「ただ、うまく時間が作れなくて。ごめん」

あかりさんも、目に涙を浮かべていた。
二人は、お互いを見つめ合った。
その目には、お互いを大切に思う気持ちが溢れていた。
私は、静かに二人の間に入った。

「お二人とも、相手のことを大切に思っているんですね」

二人は黙って頷いた。

「ただ、気持ちがうまく伝わっていなかっただけなんです。みなみさんは、寂しい気持ちを伝えられなかった。あかりさんは、忙しくて配慮が足りなかった。でも、お二人とも、相手を思う気持ちは同じです」

あかりさんが、みなみさんの手を握った。

「ごめんね、みなみ。気づかなくて」

みなみさんも、あかりさんの手を握り返した。

「私こそ、ごめんなさい。寂しいって、ちゃんと言えなくて」

二人は、涙を流しながら笑い合った。
その笑顔を見て、私の胸も温かくなった。

「ありがとうございます」

あかりさんが私に言った。

「あなたのおかげで、ちゃんと話せました」
「いえ、お二人が勇気を出されたんです」

私は微笑んだ。

「あの…やっぱり、香りを選んでもらえますか?」

みなみさんが言った。

「二人で同じ香りを持ちたいんです。親友の証として」

あかりさんも頷いた。

「うん。これからも、ずっと親友でいたいから」

私は嬉しくなって、頷いた。

「もちろんです。一緒に探しましょう」




私たちは香りの棚の前に立った。
窓から差し込む秋の日差しが、精油の瓶を照らしている。
キラキラと輝く瓶たちが、まるで宝石のように見えた。

「お二人には、ユーカリをおすすめします」

私はユーカリの瓶を手に取った。

「ユーカリ…?」

みなみさんが首を傾げた。

「コアラが食べる葉っぱですよね?」
「そうです!」

私は笑った。

「オーストラリアに自生する木で、コアラの主食として有名ですね」

私は瓶の蓋を開けた。

「でも、ユーカリは香りとしてもすごく優れているんです」

スッとする、清涼感のある香りが広がった。

「ユーカリは、心をリフレッシュさせてくれる香りです。でも、それだけじゃなくて、『浄化』の香りとも言われています。心に溜まったモヤモヤや、ネガティブな気持ちを洗い流してくれる、それから、心を開くのを助けてくれる香りでもあるんです。だから、友達同士が本音で話し合いたい時にもいいんです」

私は瓶の蓋を開けて、二人に差し出した。
二人が香りを嗅ぐ。

「スッとする香りですね」

みなみさんが言った。

「でも、爽やかで、気持ちいい」

あかりさんも頷いた。

「では次に、これを」

私はゼラニウムの瓶を開けた。
柔らかく、少し甘い香りが広がる。

「ゼラニウムは、バランスと調和を象徴する香りです」
「バランス?」
「はい。心のバランスを整えてくれるんです」

私は続けた。

「友情にも、バランスが大切ですよね。一方的になりすぎず、お互いを尊重し合う」

二人が香りを嗅いで、顔を見合わせた。

「これ、いいね」
「うん、優しい香り」
「そしてm最後に、これを」

私はベルガモットの瓶を開けた。

「ベルガモットは、明るく前向きな気持ちにさせてくれる香りです。これからも、お二人が明るく楽しく過ごせるように」

二人が香りを嗅いで、笑顔になった。

「これ、すごく好き」

みなみさんが言った。

「私も」

あかりさんも頷いた。

「じゃあ、この3つでブレンドを作りますね。お二人の友情を繋ぐ香りを」