恵子さんと美月さんが仲直りして店を出ていった翌日。朝から秋晴れの気持ちの良い天気だった。
商店街を歩く人々は、久しぶりの晴天に嬉しそうな表情を浮かべている。
昨日までの雨で濡れた路面が、朝日を反射してキラキラと輝いていた。
街路樹の葉は、雨に洗われて一層鮮やかな色を見せている。
私は店の扉を開けて、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。ひんやりとした朝の空気が、心地よく肺を満たす。
「おはようございます」
「おはよう、和花」
誠一郎さんが、いつものように穏やかな笑顔で迎えてくれた。
彼は店の奥で、精油の瓶を、一つ一つ、まるで宝物を扱うように丁寧に大切に拭いている。
その姿を見ていると、私も自然と気持ちが引き締まる。
「今日は良い天気ですね」
「ああ。こういう日は、お客さんも増えるだろうね」
誠一郎さんは窓の外を見ながら言った。
「準備、しておかないとね」
「はい」
私はエプロンをつけて、カウンターの準備を始めた。
レジの確認、精油の補充、カフェスペースのテーブルを拭く。
一つ一つの作業を丁寧にこなしていくと、心が落ち着いてくる。
この店で働き始めて、もうすぐ2年になる。
最初の頃は、毎日が不安だった。お客さんと話すのが怖くて、いつも逃げ腰だった。
でも、最近は少し変わってきた気がする。
真帆さん、彩花さんと翔太さん、結衣さん、恵子さんと美月さん。
たくさんのお客さんと出会って、その悩みに寄り添ってきた。
そのたびに、私も少しずつ成長している気がする。
まだまだ未熟だけれど、前には進んでいる。
そう信じたい。
◇
午前中は、予想通りお客さんが多かった。
週末ということもあって、若いカップルや友達同士の女性たちが次々と来店する。
私は一人一人に丁寧に対応しながら、香りの説明をしたり、相談に乗ったりした。
お客さんと話すことが、少しずつ楽しくなってきている。
それが、嬉しかった。
昼過ぎ、少し店が落ち着いた頃。
カランカランとドアベルが鳴って、二人の若い女性が入ってきた。
「いらっしゃいませ」
私は笑顔で迎えた。
二人とも大学生くらいだろうか。
一人はロングヘアで、明るい雰囲気の女性。
もう一人はショートカットで、少し大人しそうな印象。
二人は店内を見回しながら、小声で何か話している。
その様子は楽しそうに見えたけれど、よく見ると、どこかぎこちない感じがした。
「ねえ、見て。可愛い瓶がいっぱい」
ロングヘアの女性が明るく言った。
「うん…」
ショートカットの女性は、少し気のない返事をした。
二人は棚の前に立って、精油の瓶を眺め始めた。
でも、会話が続かない。
一方が話しかけても、もう一方の返事が短い。
私は少し気になった。
何か、あるのだろうか。
でも、すぐには声をかけられなかった。
お客さんのプライベートに、どこまで踏み込んでいいのか、まだ完全には掴めていない。
しばらくして、ロングヘアの女性が私に近づいてきた。
「あの、すみません」
「はい、何でしょうか」
私は柔らかく笑いかけた。
「友達へのプレゼントで、香りを探してるんですけど」
彼女は少し困った表情を浮かべた。
「何がいいか、分からなくて」
「友達へのプレゼントですか」
私は頷いた。
「どんな方なんですか?」
「えっと…」
彼女は言葉に詰まった。
それから、ショートカットの女性に視線を向けた。
「あの子なんですけど」
その瞬間、ショートカットの女性がこちらを見た。
少し驚いた表情。
私は状況を理解した。
――ああ、そういうことか。
プレゼントを贈る相手が、一緒にいる。
ということは、何かサプライズを計画しているのか、それとも――。
「よかったら、お二人でお話を聞かせていただけますか?」
私は提案した。
「そのほうが、ぴったりの香りを見つけられると思います」
ロングヘアの女性は少し迷った後、頷いた。
「分かりました」
◇
私は二人をカフェスペースに案内した。
ハーブティーを淹れながら、私は二人の様子を観察した。
二人は向かい合って座っているけれど、視線が合わない。
どこか、ぎこちない空気が流れている。
「お待たせしました」
私はカモミールティーを二人の前に置いた。
「ありがとうございます」
ロングヘアの女性が笑顔で言った。
でも、その笑顔は少し無理をしているように見えた。
「私、柚木和花と申します。よろしければ、お二人のお名前を伺ってもよろしいですか?」
私は先に自分の名前を名乗ってから尋ねた。
「あ、私は鈴木あかりです」
ロングヘアの女性――あかりさんが答えた。
「佐藤みなみです」
ショートカットの女性――みなみさんが小さく言った。
「あかりさん、みなみさん。よろしくお願いします」
私は柔らかく笑いかけた。
少し沈黙が流れた。
誰も、最初の言葉を発しない。
私は少し考えてから、口を開いた。
「あかりさんは、みなみさんにプレゼントを探されているんですよね?」
「はい」
あかりさんが頷いた。
「みなみと…高校からの親友で。誕生日が近いから、何かプレゼントしたいなって」
みなみさんは黙ったまま、カップを見つめている。
「素敵ですね」
私は微笑んだ。
「でも、何か気になることがあるんですか?」
その言葉に、二人は少し顔を上げた。
「え…?」
「いえ、もし余計なことでしたら申し訳ないんですが」
私は慎重に言葉を選んだ。
「お二人、少しぎこちない感じがして」
あかりさんとみなみさんが、顔を見合わせた。
しばらく沈黙が続いた後、みなみさんが小さく口を開いた。
「…最近、あかりが冷たい気がするんです」
その言葉に、あかりさんが驚いた表情を見せた。
「えっ?私が……?」
「はい」
みなみさんは俯いたまま続けた。
「前は、毎日LINEしてたのに、最近は返信も遅いし。誘っても、忙しいって断られるし」
あかりさんは口を開きかけたけれど、すぐに閉じた。
その表情は、何か言いたいことがあるけれど、言えないでいるように見えた。
商店街を歩く人々は、久しぶりの晴天に嬉しそうな表情を浮かべている。
昨日までの雨で濡れた路面が、朝日を反射してキラキラと輝いていた。
街路樹の葉は、雨に洗われて一層鮮やかな色を見せている。
私は店の扉を開けて、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。ひんやりとした朝の空気が、心地よく肺を満たす。
「おはようございます」
「おはよう、和花」
誠一郎さんが、いつものように穏やかな笑顔で迎えてくれた。
彼は店の奥で、精油の瓶を、一つ一つ、まるで宝物を扱うように丁寧に大切に拭いている。
その姿を見ていると、私も自然と気持ちが引き締まる。
「今日は良い天気ですね」
「ああ。こういう日は、お客さんも増えるだろうね」
誠一郎さんは窓の外を見ながら言った。
「準備、しておかないとね」
「はい」
私はエプロンをつけて、カウンターの準備を始めた。
レジの確認、精油の補充、カフェスペースのテーブルを拭く。
一つ一つの作業を丁寧にこなしていくと、心が落ち着いてくる。
この店で働き始めて、もうすぐ2年になる。
最初の頃は、毎日が不安だった。お客さんと話すのが怖くて、いつも逃げ腰だった。
でも、最近は少し変わってきた気がする。
真帆さん、彩花さんと翔太さん、結衣さん、恵子さんと美月さん。
たくさんのお客さんと出会って、その悩みに寄り添ってきた。
そのたびに、私も少しずつ成長している気がする。
まだまだ未熟だけれど、前には進んでいる。
そう信じたい。
◇
午前中は、予想通りお客さんが多かった。
週末ということもあって、若いカップルや友達同士の女性たちが次々と来店する。
私は一人一人に丁寧に対応しながら、香りの説明をしたり、相談に乗ったりした。
お客さんと話すことが、少しずつ楽しくなってきている。
それが、嬉しかった。
昼過ぎ、少し店が落ち着いた頃。
カランカランとドアベルが鳴って、二人の若い女性が入ってきた。
「いらっしゃいませ」
私は笑顔で迎えた。
二人とも大学生くらいだろうか。
一人はロングヘアで、明るい雰囲気の女性。
もう一人はショートカットで、少し大人しそうな印象。
二人は店内を見回しながら、小声で何か話している。
その様子は楽しそうに見えたけれど、よく見ると、どこかぎこちない感じがした。
「ねえ、見て。可愛い瓶がいっぱい」
ロングヘアの女性が明るく言った。
「うん…」
ショートカットの女性は、少し気のない返事をした。
二人は棚の前に立って、精油の瓶を眺め始めた。
でも、会話が続かない。
一方が話しかけても、もう一方の返事が短い。
私は少し気になった。
何か、あるのだろうか。
でも、すぐには声をかけられなかった。
お客さんのプライベートに、どこまで踏み込んでいいのか、まだ完全には掴めていない。
しばらくして、ロングヘアの女性が私に近づいてきた。
「あの、すみません」
「はい、何でしょうか」
私は柔らかく笑いかけた。
「友達へのプレゼントで、香りを探してるんですけど」
彼女は少し困った表情を浮かべた。
「何がいいか、分からなくて」
「友達へのプレゼントですか」
私は頷いた。
「どんな方なんですか?」
「えっと…」
彼女は言葉に詰まった。
それから、ショートカットの女性に視線を向けた。
「あの子なんですけど」
その瞬間、ショートカットの女性がこちらを見た。
少し驚いた表情。
私は状況を理解した。
――ああ、そういうことか。
プレゼントを贈る相手が、一緒にいる。
ということは、何かサプライズを計画しているのか、それとも――。
「よかったら、お二人でお話を聞かせていただけますか?」
私は提案した。
「そのほうが、ぴったりの香りを見つけられると思います」
ロングヘアの女性は少し迷った後、頷いた。
「分かりました」
◇
私は二人をカフェスペースに案内した。
ハーブティーを淹れながら、私は二人の様子を観察した。
二人は向かい合って座っているけれど、視線が合わない。
どこか、ぎこちない空気が流れている。
「お待たせしました」
私はカモミールティーを二人の前に置いた。
「ありがとうございます」
ロングヘアの女性が笑顔で言った。
でも、その笑顔は少し無理をしているように見えた。
「私、柚木和花と申します。よろしければ、お二人のお名前を伺ってもよろしいですか?」
私は先に自分の名前を名乗ってから尋ねた。
「あ、私は鈴木あかりです」
ロングヘアの女性――あかりさんが答えた。
「佐藤みなみです」
ショートカットの女性――みなみさんが小さく言った。
「あかりさん、みなみさん。よろしくお願いします」
私は柔らかく笑いかけた。
少し沈黙が流れた。
誰も、最初の言葉を発しない。
私は少し考えてから、口を開いた。
「あかりさんは、みなみさんにプレゼントを探されているんですよね?」
「はい」
あかりさんが頷いた。
「みなみと…高校からの親友で。誕生日が近いから、何かプレゼントしたいなって」
みなみさんは黙ったまま、カップを見つめている。
「素敵ですね」
私は微笑んだ。
「でも、何か気になることがあるんですか?」
その言葉に、二人は少し顔を上げた。
「え…?」
「いえ、もし余計なことでしたら申し訳ないんですが」
私は慎重に言葉を選んだ。
「お二人、少しぎこちない感じがして」
あかりさんとみなみさんが、顔を見合わせた。
しばらく沈黙が続いた後、みなみさんが小さく口を開いた。
「…最近、あかりが冷たい気がするんです」
その言葉に、あかりさんが驚いた表情を見せた。
「えっ?私が……?」
「はい」
みなみさんは俯いたまま続けた。
「前は、毎日LINEしてたのに、最近は返信も遅いし。誘っても、忙しいって断られるし」
あかりさんは口を開きかけたけれど、すぐに閉じた。
その表情は、何か言いたいことがあるけれど、言えないでいるように見えた。

