◇
それから30分ほど経った頃、また、ドアベルが鳴った。
顔を上げると、さっきの二人が戻ってきた。
でも、今度は二人とも、少し困った表情をしている。
「あの……すみません」
お母さんが申し訳なさそうに言った。
「さっきは失礼しました。娘が急に走り出してしまって」
「いえ、大丈夫ですよ」
私は柔らかく笑った。
未央奈さんは俯いたまま、何も言わない。
「あの、もしよかったらですが、少しお話、聞かせていただけますか……?」
少し勇気を出して言うと、二人は顔を見合わせた。
やっぱり、踏み込まない方が良かっただろうか……。
しばらく沈黙が続いた後、お母さんが小さく頷いた。
◇
私は二人をカフェスペースに案内した。
ハーブティーを出しながら、私は二人の様子を観察した。
二人は隣同士に座っているけれど、体は少し離れている。視線も、お互いに向けられていない。
何か、言いたいことがあるのに、言えない……そんな空気が、二人の間に漂っていた。
「私は柚木和花と申します。お名前、伺ってもよろしいですか?」
私は静かに尋ねた。
「山口恵子です」
「娘の未央奈です」
母親の恵子さんに続き、未央奈さんは小さく会釈した。
「よろしくお願いします」
私も会釈を返した。
少し沈黙が流れる。
誰も、最初の言葉を発しないため、少し考えてから私は口を開いた。
「お二人、何かお悩みがあるんですか?」
私の問いかけに恵子さんが、カップに視線を落とした。
「……最近、娘とうまくいっていなくて」
その声は、どこか疲れていた。
「何を話しても、すぐに喧嘩になってしまうんです」
未央奈さんは黙ったまま、カップを両手で包んでいる。
「未央奈さんは、どう思われていますか?」
私は未央奈さんに視線を向けた。
未央奈さんは少し迷った後、小さく言った。
「……母が、何でも決めようとするんです」
恵子さんが顔を上げた。
「それは……っ」
「いつもそう」
未央奈さんの声が、少し強くなった。
「私の意見を聞かずに、勝手に決める。私のことを、子供だと思ってる」
「そんなつもりはないわ」
恵子さんが反論した。
「ただ、あなたのことを心配して……」
「心配じゃなくて、干渉でしょ」
未央奈さんの声が、さらに強くなった。
恵子さんは何も言えなくなって、俯いた。
その表情は、深く傷ついているように見えた。
私は、二人の間に入った。
「お二人とも、少し落ち着いてください」
私は静かに言うと、二人は黙った。
少し考えてから、私は口を開く。
「恵子さんは、未央奈さんのことを心配されている。未央奈さんは、自分の意見を尊重してほしいと思っていて、お二人とも、相手のことを大切に思っているのは、同じなんですよね」
二人は顔を上げて、私を見た。
「ただ、伝え方が、うまくいっていないだけなんですよ」
私は続けた。
「恵子さんの『心配』が、未央奈さんには『干渉』に見え、未央奈さんの『自立したい』という気持ちが、恵子さんには『拒絶』に見えるんです」
二人は黙って、私の言葉を聞いていた。
「でも、本当は、お二人ともお互いを大切に思っているんです」
恵子さんの目に、涙が浮かんだ。
「……そうなんです」
彼女は声を震わせながら言った。
「私、娘のことが大切で。だから、心配で。でも、それが裏目に出てしまって」
未央奈さんも、目を潤ませていた。
「私も……母のこと、嫌いなわけじゃないんです。ただ、もっと自分で決めたくて」
二人は、初めてお互いを見た。
その目には、涙が浮かんでいた。
「ごめんなさい」
恵子さんが先に言った。
「あなたを子供扱いしてたわね。もう25歳なのに」
「私こそ、ごめんなさい」
未央奈さんも言った。
「母の気持ち、分かってなかった」
二人は、少しずつ距離を縮め、そして、手を握り合った。
私は、その光景を静かに見守った。
胸が、温かくなるのを感じていた。
しばらくして、二人は落ち着きを取り戻したようで、表情が柔らかくなっていた。
「ありがとうございます。あなたのおかげで、娘と話せました」
「いえ、お二人が勇気を出されたんですよ。あの……さっき、母娘で一緒に使える香りって、おっしゃってましたよね」
私の問いかけに未央奈さんが頷いた。
「はい。もし、あればなんですが……」
「もちろん、ありますよ。一緒に探しましょう」
それから30分ほど経った頃、また、ドアベルが鳴った。
顔を上げると、さっきの二人が戻ってきた。
でも、今度は二人とも、少し困った表情をしている。
「あの……すみません」
お母さんが申し訳なさそうに言った。
「さっきは失礼しました。娘が急に走り出してしまって」
「いえ、大丈夫ですよ」
私は柔らかく笑った。
未央奈さんは俯いたまま、何も言わない。
「あの、もしよかったらですが、少しお話、聞かせていただけますか……?」
少し勇気を出して言うと、二人は顔を見合わせた。
やっぱり、踏み込まない方が良かっただろうか……。
しばらく沈黙が続いた後、お母さんが小さく頷いた。
◇
私は二人をカフェスペースに案内した。
ハーブティーを出しながら、私は二人の様子を観察した。
二人は隣同士に座っているけれど、体は少し離れている。視線も、お互いに向けられていない。
何か、言いたいことがあるのに、言えない……そんな空気が、二人の間に漂っていた。
「私は柚木和花と申します。お名前、伺ってもよろしいですか?」
私は静かに尋ねた。
「山口恵子です」
「娘の未央奈です」
母親の恵子さんに続き、未央奈さんは小さく会釈した。
「よろしくお願いします」
私も会釈を返した。
少し沈黙が流れる。
誰も、最初の言葉を発しないため、少し考えてから私は口を開いた。
「お二人、何かお悩みがあるんですか?」
私の問いかけに恵子さんが、カップに視線を落とした。
「……最近、娘とうまくいっていなくて」
その声は、どこか疲れていた。
「何を話しても、すぐに喧嘩になってしまうんです」
未央奈さんは黙ったまま、カップを両手で包んでいる。
「未央奈さんは、どう思われていますか?」
私は未央奈さんに視線を向けた。
未央奈さんは少し迷った後、小さく言った。
「……母が、何でも決めようとするんです」
恵子さんが顔を上げた。
「それは……っ」
「いつもそう」
未央奈さんの声が、少し強くなった。
「私の意見を聞かずに、勝手に決める。私のことを、子供だと思ってる」
「そんなつもりはないわ」
恵子さんが反論した。
「ただ、あなたのことを心配して……」
「心配じゃなくて、干渉でしょ」
未央奈さんの声が、さらに強くなった。
恵子さんは何も言えなくなって、俯いた。
その表情は、深く傷ついているように見えた。
私は、二人の間に入った。
「お二人とも、少し落ち着いてください」
私は静かに言うと、二人は黙った。
少し考えてから、私は口を開く。
「恵子さんは、未央奈さんのことを心配されている。未央奈さんは、自分の意見を尊重してほしいと思っていて、お二人とも、相手のことを大切に思っているのは、同じなんですよね」
二人は顔を上げて、私を見た。
「ただ、伝え方が、うまくいっていないだけなんですよ」
私は続けた。
「恵子さんの『心配』が、未央奈さんには『干渉』に見え、未央奈さんの『自立したい』という気持ちが、恵子さんには『拒絶』に見えるんです」
二人は黙って、私の言葉を聞いていた。
「でも、本当は、お二人ともお互いを大切に思っているんです」
恵子さんの目に、涙が浮かんだ。
「……そうなんです」
彼女は声を震わせながら言った。
「私、娘のことが大切で。だから、心配で。でも、それが裏目に出てしまって」
未央奈さんも、目を潤ませていた。
「私も……母のこと、嫌いなわけじゃないんです。ただ、もっと自分で決めたくて」
二人は、初めてお互いを見た。
その目には、涙が浮かんでいた。
「ごめんなさい」
恵子さんが先に言った。
「あなたを子供扱いしてたわね。もう25歳なのに」
「私こそ、ごめんなさい」
未央奈さんも言った。
「母の気持ち、分かってなかった」
二人は、少しずつ距離を縮め、そして、手を握り合った。
私は、その光景を静かに見守った。
胸が、温かくなるのを感じていた。
しばらくして、二人は落ち着きを取り戻したようで、表情が柔らかくなっていた。
「ありがとうございます。あなたのおかげで、娘と話せました」
「いえ、お二人が勇気を出されたんですよ。あの……さっき、母娘で一緒に使える香りって、おっしゃってましたよね」
私の問いかけに未央奈さんが頷いた。
「はい。もし、あればなんですが……」
「もちろん、ありますよ。一緒に探しましょう」

