玲央は、自身の滞在する住居で、青いケシの花の調査の準備をしていた。

「とりあえず、あの花のつぼみのサンプルを採取して、成分の分析を行ってみるか……」

 里に自生する青いケシの花について、調査を始める。

「しかし、ここは肌寒いな。一年を通して気温が低いのなら、低温で無いと枯れてしまうというあの青いケシの花も、枯れずに済むのかもしれないな」

 夜になると一層涼しくなり、肌寒さを感じるほどだった。

 「クソッ、ここまで寒いのは想定外だった。上着を持ってくるんだった……」

 しかし、彼が外に出ると、それを見越したように、住居の玄関に上着が用意してあった。

「ずいぶんと気がきく里長様だな。いや、常に行動を監視されていると取るべきだな。俺の行動を常に見ているぞという警告ということか……」

 そして、里長のアオが話していた通り、里の人間は、玲央に一切関わってこなかった。

 しかし、ある日の夜中、玲央が滞在を許可されている建物に、中性的な雰囲気を纏った村の男の子が訪ねてきた。

「おや……こんな時間に何のようだい?」

「遅くにごめんなさい。僕の名前はアキ。お兄さんとお話ししたくて、ここにきたんだ」

 その日から、夜遅くになると、アキは玲央の滞在する建物を訪れるようになった。
 そして、玲央と色々なことを話し合うようになり、仲良くなった。
 アキは、玲央にいろいろなことを質問してきた。
 玲央はその質問に答えながら、彼にさまざまなことを教えた。
 その中で、玲央はアキがこの里で特別な存在として扱われていることを知った。

 玲央が里に来てから一週間が経った。
 
 その日、玲央は里長であるアオから、今晩だけは、決して建物から外に出るなと警告された。

「まさか、向こうから警告してくるとは……何が起こるのか調べておきたいところだが、今のところはおとなしく忠告に従っておくか。好奇心は猫を殺すというしな」

 その夜、里では月に一度の特別な食事会が執り行われていた。

◇◇◇

 今回里に来た玲央とかいう人間。
 あいつは不思議な人間だ。
 人間のくせに、私たちを魅了するような、不思議な色気と雰囲気がある。
 だが、忘れるな。
 私は人間が嫌いだ。
 外の村の人間たちは、この里を維持するのに必要だから、仕方なく生かしておいている。
 この里を守ること。
 それが里長としての私の使命だ。
 それを忘れるな。