「さあ、まずはお前だ。お前の命をよこせ!」

 鬼の姿となっているアオは、玲央の頭を鷲掴みにすると、そのまま上へと持ち上げた。

「このまま少しずつお前の身体を喰らってやる。痛みにもがき苦しみながら、息絶えるがいい」

 しかし、この状況でも、玲央は何故か落ち着きを払っていた。

 「バカな、傷が治りかけているだと? お前は人間ではないというのか! お前は一体何者なんだ!」

 玲央はアオの問いかけを無視して、背後の存在に向けて叫んだ。

「聞こえるか、アキ! 俺の中に入れ! 俺の身体をお前にやるよ!」

『ごめんねレオ。レオの身体、使わせてもらうよ』

 玲央の身体の中にアキの魂が入り込み、アキが完全に復活した。既に人外として覚醒しつつあった玲央の身体は、アキの魂に完璧に適合したのだ。

「何をした。何故お前がアキになっている?」

 復活したアキは何も答えなかった。

「何故だ。身体が動かない。どうなっている? 私は、アキに怯えているというのか?」

 そして、アオの影響を受けないアキは、冷たい微笑みを浮かべながら、驚いた顔をしたアオを抱きしめた。

「身体が溶けて、アキに吸われている!? やめて、アキ。里のみんなを復活させて、またみんなで暮らそう。そうだ、私のお腹をみてくれ! 私の腹の中には、アキの子供がいるんだよ。私たち三人で、また里を再興させよう」

 アキは何も答えなかった。
 アキはそのままアオと、アオのお腹の中にいるもう一人のアキを吸収していき、一つのアキになった。
 
 そして、アキは炎の中へと消えていった……。

◇◇◇

 昭和五十●年八月十五日昼。

 その日発生した大規模な山火事を消火するために活動していた魅禍月村の消防隊によって、皮肉にも集落は発見された。
 
 そして、大火事ですでに集落が消滅していたことを、村の担当者が村長に報告していた。
 
 一人になった村長は、引き出しから白い能面を取り出して、こう呟いた。

「そうか、アオ。お前の里は無くなってしまったか。もう、青いケシの花も無くなってしまった。あの花のおかげで栄えていたこの村ももう終わりだ。だが、不老不死のお前のことだ。生き延びてどこかで再起をはかろうとしているのだろうな」