ナツの二の十四。

 里の中央の広場で、里の大人たちが見守る中、慰霊祭が開始されていた。
 この慰霊祭は、青い花のケシから作り出した黒い塊を燃やした煙を吸って、トランス状態となった生贄のアキを、里長であるアオが殺害するというものだった。

 黒い塊の煙を吸わされて、意識朦朧になっていたアキを、里の人間たちが見守っていた。
 
「やめて! アキは何も悪く無いじゃない!」
 
「そうよ! アキは生贄なんかじゃ無いわ! みんな、目を覚ましてよ!」
 
 その様子を見かねたアキの姉二人が、アキを助けようと、アキの前に立ち塞がった。
 
 その二人の前に、厳しい表情をしたアオが近づいてきた。
 
「美しい姉弟愛だ。だが、里長の私の命令に背くことは許さない。二人とも、私の命令に従ってもらうよ……」
 
 そこまで話し終えると、アオの目が赤く光った。
 その直後に、二人はアオに身体を操られてしまった。
 
「何これ、やめて! やめ……」
 
 二人はそれ以上喋ることを許されなかった。
 
「二人とも、そこで大人しくしていて。そして、今から私がすることを、よく目に焼き付けておきなさい」

 そう話すと、里長のアオは、涙を流しながら、両手でアキの首を絞めあげた。

 アオの頭の中に、あの日自分を助けてくれた白い仮面の女性の言葉が甦ってきた。

「この先、君の作る集落に、両性具有のものが生まれたら、必ず殺せ。私たち鬼にとって、禍をもたらす存在となるからね。いいかい、生まれたら必ず殺すんだよ」

 アオに首を絞められたアキは、すぐにぐったりして、動かなくなった。
 
 そして、その最中に、何故か涙を流していたアオは、処刑が終わると、ハルとナツの手を取り、二人に語りかけた。
 
「同胞を手にかけなければならないことが、どれだけ辛いことか、あなたたちにはわからないでしょう?」
 
 アオは、涙を流したまま、自身のお腹を愛おしそうにさすっていた。

 ミトはこの儀式の一部始終をみていたが、何故か涙を流さなかった。

「アキくん、私、寂しくないよ。だって、新しいアキくんが、私のお腹の中にいるから。今度のアキくんは、私だけのアキくんだから。早くお腹の中から出てきて、また一緒に遊ぼうね」

 そう話すと、ミトは自分の下腹部をさすりながら、微笑んでいた。