「それは、どういうことでしょう?」

 九尾からの意外な提案に、ライナスは思わず聞き返した。

「私は、時の秘石という、時間を操れる道具を作ろうとしている。その製作に協力してもらいたい」

「時の秘石。それは、私たちの世界で幻の秘宝と呼ばれているクロノストーンと同じものですね。なるほど、それで時間を巻き戻して問題を解決しようというわけですか」

「地震の発生を止めることはできない。だが、予め地震が起きるとわかっていれば、魔道炉とやらの事故を防ぐ対策ができるはずだ。時の秘石の使用者だけは、それまでの記憶を残すことができるそうだからな」

「確かにそうですね。――それでは、私も時の秘石を作るのに協力しましょう。まずは、私の知っているクロノストーンの情報ををあなたに提供します」

 ライナスは、翻訳魔法を使いながら、紙にクロノストーンの情報を書き込んで、九尾に手渡した。九尾は人間の姿に戻り、ライナスの書いた情報を注意深く読み込んでいる。

「――これはいい。私の知りたかった情報が全て書いてある」

「と、いうことは、あなたの持っている情報と私の情報が合わされば、クロノストーンは精製可能ということですね?」

「ああ。おかげで全ての必要素材と精製方法がわかった」

「それはよかった。それでしたら、この施設の設備を提供しましょう。必要な素材があれば、私が集めておいたものが倉庫にあるので、それを使ってください。それから――」

 ライナスはサクラとカイトの前に立つと、深々と頭を下げた。

「本当に申し訳ない。私がゲートを開いたせいで、君たちには取り返しのつかないことをしてしまった。謝って許されるとは思っていない。だが、謝らせてくれ」

 ジーナとバーバラもライナスの側に立ち、同じように頭を下げた。

「私たち、生きるために必死だったの。でも、私たちの仲間は、あなたたちに、やってはいけないことをたくさんして、苦しめてしまった。それは事実だから。本当にごめんなさい」

 サクラとカイトは三人が自分たちに頭を下げて謝罪したことに驚いた。

「本当はすぐにでも殺してやりたいけど――、我慢するわ。それでこの世界が元に戻るのならね」

「ありがとう。君たちの世界も、必ず元に戻してみせる。約束するよ」

 ライナスとレイカたちは協力して時の秘石の精製に取りかかる。ライナスの提供した情報により、レイカたちは予想よりもずっと短い期間で時の秘石を完成させることができた。

◇◇◇

「私、あなたたちに謝りたいの。ライナスさんたちは私が思うより、ずっとずっといい人だった。本当にごめんなさい」

「俺も同じ気持ちだってばよ。本当に申し訳なかった」

 二人はライナスたちに頭を下げた。

「気にしなくていいよ。私が君たちに迷惑をかけたのは事実だ」

 彼はサクラとカイトに優しく微笑む。

 そして、時を巻き戻す時がきた。その前に、サクラは、ライナスにあるお願いをしていた。

 ライナスが時の秘石に魔力を流し込む。世界の全てのものの動きが反転していくのが、彼には感じ取れた。

「どうやら成功したようだ。あとは、彼女からのお願いをかなえてあげないとな」

 こうして、ライナスたちの世界で大地震が起きる一年前まで、時が巻き戻った。