冬休みが近づいてきたある日。
 いつものように、彼は昼休みに僕のところへやって来た。
 クラスの人たちも、もうそれが当たり前のように思っていて、彼が来ると「来たぞー」と、わざわざ僕に言ってくるくらいだ。

 彼も彼で、まんざらでもないようで、「来ちゃいましたー!」って元気に返事しているから、周りも彼のことを可愛いワンコでも来たかのような目で見ている。

「青先輩! 今日はどこでランチしますー?」
「白川くんの好きなところでいいよ」
「じゃあ……中庭に行きましょう! あそこ、今日は陽が当たっていてあったかいんですよ!」

 そう嬉しそうに話す彼を見て、僕はフッと笑ってしまった。

(ヤバイ……僕、ニヤけてる!? 周りに気づかれてないよな!?)

 周りは、僕と彼のことを、甲斐甲斐しく会いに来るワンコとその飼い主……みたいな感じに思ってそうだ。
 まほからは、たまに冗談で、冷ややかな目で見られることもあるけど。


* * *

 中庭に着くと、僕たち以外にも、生徒がちらほらとランチタイムを楽しんでいた。
 カップルもいれば、女子同士だったり、男子同士だったり色々だ。
 そこに僕と彼がいたところで、ただの先輩後輩にしか見えないだろう。

「青先輩、またパンですかー?」
「いいんだよ、そんなに食べられないし」
「へぇ……青先輩って少食派なんですね」
「そうでもないけど。昼はあまり食べないだけ」
「そっか……うーん」
「どうした?」
「……青先輩に、お弁当作ってきたんですが食べます? って言っても、そんな大そうなものじゃないですよ!? パンだろうなって思ったので、少し多めにおかずを作ってきたんです」

 ……マジか。弁当まで自分で作ってんの!?
 僕は、彼が広げたお弁当箱の中身を見て、驚いた。
 今までに、彼がちょこちょこ自分のおかずを僕に分けてくれていたことがあるのだけど、その中で僕が「これ好きかも」って言ったモノばかりだったのだ。

「白川くん、これって……」
「はい! 青先輩が好きだろうシリーズです!」
「僕が言ったのを覚えてくれてたんだ?」
「当たり前じゃないですかー! 好きな人の好きな物なんて、すぐにインプットするに決まってます! 俺がどれだけ、青先輩のこと好きだと思ってるんですかー!?」

 最近よく耳にする言葉だ。「俺がどれだけ、青先輩のこと好きだと思ってるんですか」。
 耳にタコが出来るくらい聞いている。

 彼が言っている「好き」は恋愛対象の意味だというのは分かっている。
 でも、僕なんかがその対象でいていいのか、正直分からない。
 こんなにも想いを伝えてくれてるのに、僕は……まだ何も返せていないから。

(僕も彼のこと、好きだ……でも……)

 年明けからは、もうほぼ学校にも来ないから、会える機会がほとんどない。
 中途半端な気持ちで、このまま彼と接していていいのだろうか。

「青先輩。はい、これ……タコさんウインナーあげます!」
「う、うん……ありがとう」

 彼が持ってきてくれた箸で、タコさんウインナーを摘み、口へと入れた。

「……美味しい」
「でしょー!? 他にもあるんで、どうぞ! 好きなだけ食べてください!」
「ははっ、ありがとう」

 僕の負けだ。
 今後のこともあるし、彼のことだけは好きにならないでおこうと一定の距離をとっていたけど、もう無理。
 これからのことなんて、ちゃんと話し合えばいいだけのことだって思うことにした。

 そして僕は思い切って、話を切り出してみた。

「あの……さ……。真面目な話なんだけど、僕はもう年明けて冬休みが終われば、あまり学校には来ないと思うんだ」
「そうですね。寂しくなります……」
「その……僕への気持ちのことだけど、本当に――」

 そこまで言いかけたとき、彼が食い気味に話し始めた。

「確かに入口は歌だったけど、今は青先輩自身が好きなんだよ! 『本当に好きなの?』って言おうとしましたよね? 本当に好きです!」
「……っ」

 珍しく急なタメ口と敬語で、早口になりながらも真っすぐに気持ちを改めて伝えてくれた彼。

「今さら、諦めろとか言わないでくださいね?」
「うん、言わない。僕もとっくに好きになってたから」

 僕が彼に気持ちを伝えたのは、初めてだ。
 だからなのか、彼は豆鉄砲を食らったかのような表情をしている。

「なに、僕が好きって言うとは思わなかった感じ?」
「……正直、卒業までに好きになってもらえたら……くらいの気持ちでいました」
「ふーん……」
「でももう、遠慮はしません! だって俺、青先輩に夢中なんですから!」