「青先輩ですよね? あのバンドのボーカル」
「え、誰? 君……」
バンドの出演を終え、四人が解散して、僕も友達と合流しようとしていた矢先のことだった。
真正面から、キラキラした表情で僕にとんでもないことを言い出した男の子。
しかも、周りに少しだが人もいる状態で、何を言ってるんだ!
僕は思わず、その男の子の腕を引っ張って、ひと気のない校舎裏へと移動した。
「あの……何か勘違いされてるかと」
「それはないですねー」
なんでそんなハッキリ言いきれるんだよ……。
僕はバレていないと思っていただけに、隠すので必死だ。
だって、バレる要素が何もない。
去年だってバレなかったんだ。
――なのに……今年は当日の、しかも出演直後に本人に言いにくる奴がいるなんて。
制服のネクタイを見ると、この男の子が二年だということが分かった。
うちの学園は、学年ごとにネクタイの色が異なるから。
その男の子は、可愛い系の顔立ちで、身長は僕より少し低い程度で体格は至って普通。ぱっと見の可愛い感じとは裏腹に、結構グイグイものを言う感じの人らしい。
(もちろん、見た目で判断するわけじゃないけど……意外とハッキリ言う人だなぁ)
だけど、この男の子……どこかで……見たことあるような……。
何となくだけど、一度話しかけられて話したことがある気がした。
「青先輩、俺のこと覚えてませんか? 落とし物を届けたじゃないですかー」
(……落とし物?)
――そうだ、思い出した。落とし物というと少しご幣があるかもしれないけど、飴の男の子だ。
「えっと……飴、だっけ?」
「あ、思い出してくれました!? 嬉しい! そう、飴です、飴!」
「あの時はありがとう」
「はい、いえいえ……って、そうじゃなくて! あの飴、あのバンドのボーカルの人も同じのを持ってたんですよ」
……え? ただの飴なんだけど。
確かに、僕はあの飴をよく食べる。「あの飴」といっても、のど飴だ。歌ったりしたときに少し食べたりすることはあるけど、特に変わったものでは……ないはず。
「青先輩、知らないんですか? あののど飴、地域限定販売のものなんですよ。しかもあの味は、ほんと限られた場所にしか売ってないみたいで」
「……そ、そうなんだ? だとしても、だからって僕がバンドのボーカルだなんて」
「去年の学園祭の直後、あのボーカルの人が同じ飴を落としていったんです。それで、僕が後を追いかけて渡しに行こうとしたんですが、いつの間にかいなくなってて」
確かに僕はいつも同じのど飴を食べている。買っているお店が同じだから。
(でもあれって地域限定だったのか!? 知らなかった……)
この男の子は、そのボーカルがもし僕だったとして、何か言いたいことでもあるんだろうか。
何を考えているのか分からなくて、正直怖い。
「去年は確かに……お面を着けてたので青先輩という確証はないんですが、今日ハッキリと分かりました。やっぱり、青先輩です!」
「いや、だから……」
「俺の名前は白川侑也っていいます。二年です」
「し、白川……くん。あの――」
「青先輩が、あのボーカルという前提で話させていただきますが、めちゃくちゃ憧れてます! 俺、歌が苦手すぎて……」
……はい? 歌が苦手すぎて?
別に苦手な人なんてたくさんいると思うし、いいと思うんだけど。
「あの、ちょっと待って。そもそも、僕がそのボーカルじゃなかったら、その話されても全く意味がないと思うんだよね。それに、あのボーカルと声が全然違うと思うんだ。やっぱり、君の勘違いだと思うよ」
「だーかーら! 勘違いじゃないです! 去年、ライブで歌声を聴いてから実は、探してたんです。さっき話した飴の件は、偶然ですが」
「え?」
「確かに声の感じは青先輩と結構違いますが、俺には分かります! 青先輩です!」
「……」
なんでこの男の子にはバレてしまったのだろう。
今までメンバー以外、誰にも気づかれなかったのに。
あまりにも必死に、僕とそのボーカルが同一人物だと言い張る為、僕も根負けしてしまった。
それになぜか、この子にだけは話しても大丈夫な気がしたのだ。
「……君の言うとおり、僕があのボーカルだよ。でもほんと、よく分かったな」
「へへっ。そりゃ、好きな人の声くらい分かりますよ」
(ん? 好きな人?)
僕の聞き間違いじゃなければ、彼は今、「好きな人の」って言ったような気がする。
声が好きってこと、だよな?
今改めて尋ねるのは、なんか変な空気感になりそうだった為、あえてスルーした。
「白川くん、このことは絶対に誰にも言わないでほしいんだ。僕は自分に自信がなくて、あのお面を着けて覆面ボーカルをやってるから」
というか、昨年だけで終わると思っていたのに、何故か話題になって今年もやることになったんだけど。僕としては想定外だった。
さすがにもう、来年はこの学園にいないから無いけど。
「大丈夫です! 絶対に言いません。好きな人のお願いごとですから、秘密はちゃんと守ります!」
(また言った!? 好きな人って……)
スルーして……いいんだよな? と思いつつも、彼は話す度に、僕に一歩二歩と近づいてきている。
僕がそろそろ、この場を後にしようとすると、彼に腕を掴まれた。
「待ってください! まだ話は終わってませんよ!」
「……あのボーカルの正体を知りたかっただけなんじゃ?」
(ここへ連れてきたの、僕なんだけど!?)
いつの間にか、彼が主導権を握っていた――。
そして彼は、また一歩近づき、僕の目の前に立ち、
「俺は、歌が上手い青先輩にも憧れがありますが、好きな事に一生懸命な姿を見て好きになりました!」
「えぇっ!? でもほら、僕の歌『声』が好きなんでしょ?」
「なんでそうなるんですか?」
「それは僕を好きってことじゃないと思う」
「青先輩、自分を過小評価しすぎなんですけど」
過小評価してるつもりはないんだけどな。
彼から見たらそう見えてるらしい。
「あれですよ? 恋愛的な意味です。そこ、誤解しないでくださいね?」
「いや、えっと……うん……」
「絶対ライクのほうだと思ってるし~」なんてブツブツ言っている彼。
急な展開に頭がついていかない中、言いたいことを言い終えてスッキリしたのか、彼はめちゃくちゃ笑顔で、
「じゃあ、そういうことで! また会いに来ますね! 青先輩!」
「えっ、あ……」
「青先輩は、きっと俺を好きになります!」
言いたいことだけ言って、この場から走って去って行った。
(待て待て待て。僕からの返事は?)
――要らないってこと?
言うだけ言ってスッキリしちゃった感じ?
僕は全然スッキリしてないんだけどーーーーー!!!!
「え、誰? 君……」
バンドの出演を終え、四人が解散して、僕も友達と合流しようとしていた矢先のことだった。
真正面から、キラキラした表情で僕にとんでもないことを言い出した男の子。
しかも、周りに少しだが人もいる状態で、何を言ってるんだ!
僕は思わず、その男の子の腕を引っ張って、ひと気のない校舎裏へと移動した。
「あの……何か勘違いされてるかと」
「それはないですねー」
なんでそんなハッキリ言いきれるんだよ……。
僕はバレていないと思っていただけに、隠すので必死だ。
だって、バレる要素が何もない。
去年だってバレなかったんだ。
――なのに……今年は当日の、しかも出演直後に本人に言いにくる奴がいるなんて。
制服のネクタイを見ると、この男の子が二年だということが分かった。
うちの学園は、学年ごとにネクタイの色が異なるから。
その男の子は、可愛い系の顔立ちで、身長は僕より少し低い程度で体格は至って普通。ぱっと見の可愛い感じとは裏腹に、結構グイグイものを言う感じの人らしい。
(もちろん、見た目で判断するわけじゃないけど……意外とハッキリ言う人だなぁ)
だけど、この男の子……どこかで……見たことあるような……。
何となくだけど、一度話しかけられて話したことがある気がした。
「青先輩、俺のこと覚えてませんか? 落とし物を届けたじゃないですかー」
(……落とし物?)
――そうだ、思い出した。落とし物というと少しご幣があるかもしれないけど、飴の男の子だ。
「えっと……飴、だっけ?」
「あ、思い出してくれました!? 嬉しい! そう、飴です、飴!」
「あの時はありがとう」
「はい、いえいえ……って、そうじゃなくて! あの飴、あのバンドのボーカルの人も同じのを持ってたんですよ」
……え? ただの飴なんだけど。
確かに、僕はあの飴をよく食べる。「あの飴」といっても、のど飴だ。歌ったりしたときに少し食べたりすることはあるけど、特に変わったものでは……ないはず。
「青先輩、知らないんですか? あののど飴、地域限定販売のものなんですよ。しかもあの味は、ほんと限られた場所にしか売ってないみたいで」
「……そ、そうなんだ? だとしても、だからって僕がバンドのボーカルだなんて」
「去年の学園祭の直後、あのボーカルの人が同じ飴を落としていったんです。それで、僕が後を追いかけて渡しに行こうとしたんですが、いつの間にかいなくなってて」
確かに僕はいつも同じのど飴を食べている。買っているお店が同じだから。
(でもあれって地域限定だったのか!? 知らなかった……)
この男の子は、そのボーカルがもし僕だったとして、何か言いたいことでもあるんだろうか。
何を考えているのか分からなくて、正直怖い。
「去年は確かに……お面を着けてたので青先輩という確証はないんですが、今日ハッキリと分かりました。やっぱり、青先輩です!」
「いや、だから……」
「俺の名前は白川侑也っていいます。二年です」
「し、白川……くん。あの――」
「青先輩が、あのボーカルという前提で話させていただきますが、めちゃくちゃ憧れてます! 俺、歌が苦手すぎて……」
……はい? 歌が苦手すぎて?
別に苦手な人なんてたくさんいると思うし、いいと思うんだけど。
「あの、ちょっと待って。そもそも、僕がそのボーカルじゃなかったら、その話されても全く意味がないと思うんだよね。それに、あのボーカルと声が全然違うと思うんだ。やっぱり、君の勘違いだと思うよ」
「だーかーら! 勘違いじゃないです! 去年、ライブで歌声を聴いてから実は、探してたんです。さっき話した飴の件は、偶然ですが」
「え?」
「確かに声の感じは青先輩と結構違いますが、俺には分かります! 青先輩です!」
「……」
なんでこの男の子にはバレてしまったのだろう。
今までメンバー以外、誰にも気づかれなかったのに。
あまりにも必死に、僕とそのボーカルが同一人物だと言い張る為、僕も根負けしてしまった。
それになぜか、この子にだけは話しても大丈夫な気がしたのだ。
「……君の言うとおり、僕があのボーカルだよ。でもほんと、よく分かったな」
「へへっ。そりゃ、好きな人の声くらい分かりますよ」
(ん? 好きな人?)
僕の聞き間違いじゃなければ、彼は今、「好きな人の」って言ったような気がする。
声が好きってこと、だよな?
今改めて尋ねるのは、なんか変な空気感になりそうだった為、あえてスルーした。
「白川くん、このことは絶対に誰にも言わないでほしいんだ。僕は自分に自信がなくて、あのお面を着けて覆面ボーカルをやってるから」
というか、昨年だけで終わると思っていたのに、何故か話題になって今年もやることになったんだけど。僕としては想定外だった。
さすがにもう、来年はこの学園にいないから無いけど。
「大丈夫です! 絶対に言いません。好きな人のお願いごとですから、秘密はちゃんと守ります!」
(また言った!? 好きな人って……)
スルーして……いいんだよな? と思いつつも、彼は話す度に、僕に一歩二歩と近づいてきている。
僕がそろそろ、この場を後にしようとすると、彼に腕を掴まれた。
「待ってください! まだ話は終わってませんよ!」
「……あのボーカルの正体を知りたかっただけなんじゃ?」
(ここへ連れてきたの、僕なんだけど!?)
いつの間にか、彼が主導権を握っていた――。
そして彼は、また一歩近づき、僕の目の前に立ち、
「俺は、歌が上手い青先輩にも憧れがありますが、好きな事に一生懸命な姿を見て好きになりました!」
「えぇっ!? でもほら、僕の歌『声』が好きなんでしょ?」
「なんでそうなるんですか?」
「それは僕を好きってことじゃないと思う」
「青先輩、自分を過小評価しすぎなんですけど」
過小評価してるつもりはないんだけどな。
彼から見たらそう見えてるらしい。
「あれですよ? 恋愛的な意味です。そこ、誤解しないでくださいね?」
「いや、えっと……うん……」
「絶対ライクのほうだと思ってるし~」なんてブツブツ言っている彼。
急な展開に頭がついていかない中、言いたいことを言い終えてスッキリしたのか、彼はめちゃくちゃ笑顔で、
「じゃあ、そういうことで! また会いに来ますね! 青先輩!」
「えっ、あ……」
「青先輩は、きっと俺を好きになります!」
言いたいことだけ言って、この場から走って去って行った。
(待て待て待て。僕からの返事は?)
――要らないってこと?
言うだけ言ってスッキリしちゃった感じ?
僕は全然スッキリしてないんだけどーーーーー!!!!
