回復魔導士キュールは裏切りにもめげない

 辺りは焼け野原だった。
 理由は単純明快で、ついさっきトラディメント国営パーティー、トラディメントナイツがドラゴンとの死闘を終えた直後だからだ。
 ドラゴンの息吹は家を焼き道を焼き、街中を破壊した。
 しかし、トラディメントナイツが倒したおかげでそれ以上の被害が出ることはなかったためよかったというものだ。
「み、みんな、私が……傷を治します」
 トラディメントナイツ一の役立たず…………私が声を上げた。
 私、キュリーン・ハートはヒーラーだ。
 国一番のパーティーに入っているヒーラーとはどれだけすごい人なのかと、たびたび過度な期待を寄せられるが、私はなんのとりえもないただの一般人と大差なかった。
 そして私はまだ知らない。世界のとんでもない闇を。


 トラディメントナイツは強すぎるが故に、ヒーラーである私の仕事はほとんどなかった。
 それなのにパーティーのみんなは私を要らないと言ったことはない。
 なんの役にも立たない私が、このパーティーにいればみんなが肯定してくれた。
 だが、今、私はパーティーから捨てられた。


 眼前に迫る恐ろしい魔物の姿。
 みんなを治癒した直後だから、安心していた。
 みんなが守ってくれるだろうと。
 だがリーダー、剣士のリュート・レンドは冷たい目を向けただけで去っていった。
 実質的な副リーダー、魔術師のネクロマンス・クロケットも、タンクのゴーゼム・グリムリンもバッファーのリンド・セカンドも、同じ反応しかない。
「…………みんな……?」
 異形の魔物から逃げながらパーティーメンバーを追いかける。
「……待って…………なんで置いてくの……?」
 泣きそうになりながら追っても、その差は広がるばかりだった。
 ただのヒーラーである私が、追いつけるはずがないのだ。
「キュール。お前は用済みになった。代わりが見つかったから要らないお前は魔物に食われて死ぬ定めだ」
 大柄な男、ゴーゼム・グリムリンがリュートの目配せでいつもより低い声でそう突きつけ、結界で私をそれ以上進めなくする。
「…………」
 見えない壁にぶつかって転び、もはや泣くことしかできなかった。
 どうして? 要らなくたってそこまでしなくてもいいのに……。
 座り込んで、声を殺しながら泣いていると、いつの間にかみんなは一人もいなくなっていた。
 グワァッと、異形の魔物が私を捕食しようと口を開く音が後ろから聞こえる。
 しかし、なにも対抗する手段は持っていないし、そんな気力どこにも残っていなかった。
 優しくて強くて視野の広いリュート。黒髪と優しげな瞳、国王から賜った三百年前に作られたという伝説の剣。その格好が捨てられたと自覚した今でも思い浮かぶ。
 頼もしくて強くて頭のいいネク。私と違って身長も高く、輝くような長い銀髪も顔つきも美しい。二十年前に亡くなった伝説の魔術師が使ったという伝説の杖を使いこなす姿は本当に憧れた。
 硬くて強くて器用なゴーゼム。大人びた表情に二メートルはある目立つ巨体。結界の強度が高くてその効果も自由自在な器用さはパーティーの誰よりも安定感があった。
 戦闘の全体を見れて強くて判断が早いリンド。いつも軽装で戦闘の状況を見ながらアドリブで味方にバフをかけられて、自分も強化魔法で戦うリンドはバランスを保つ天才だった。
 そんなみんなとの思い出が走馬灯のように駆け巡っている間に、とてつもない轟音が響いていたことに私は気づいていない。


「危ないことをするね。立てる?」
 気がついた時にはその金髪が手を差し伸べていた。