「待って、ミルク。お前なのは分かった、だけどなんでここに...」

俺は唯一の疑問をなげかけた。
ミルクは泣きそうな、嬉しいようななんとも言えない表情で微笑む。

「案内人だからだよ」

「案、内人?」


ミルクは肯定のように尾を揺らしながら答える。

「叶多は死んだから、キミを"向こう側"まで案内する役目なんだ」

やっぱりなんとも言えない表情で微笑む。
俺は言葉が出てこなくなった。

「叶多はね、ぼくの名前を最後に読んだんだよ。
だから僕が迎えに来たの」


息が詰まる。鮮明に思い出してきたあの瞬間の記憶

塾の帰り、友達と喧嘩して帰ってたら突然現れた明るく光る大きな鉄の塊。
咄嗟に友達を押して俺だけ飛ばされたんだっけ……

(あいつは無事かな)


事故の瞬間を思い出して止まっている俺を見てミルクは「大丈夫、怖くないよ」と歩み寄ってくれた。
あの頃と同じあたたかさ。

「叶多。キミには一つだけ心残りがある、それを探して晴らすのがぼくの役目」

心残り。思い出せないことが、ひとつある気がする。
とても大事なこと


「叶多が満足するまで一緒に歩くよ。寂しくないようにずっと傍に」


照れているようなでもとても優しい声。


「ミルク、また会えて嬉しいよ」

そう言うとミルクは猫らしく尻尾をピンと立てて
「ぼくもだよ。じゃあ、行こうか」

霧の向こう、小さな光が揺らめく。
ミルクは迷いなく歩き出す、俺は白い影を見失わないように。あの日彼を失った続きを取り戻すように。