電車が動きだすと、三屋くんは顔を上げ僕を見た。また鋭い目つきになっている。打ち解けてきたけれど、やっぱりまだ怖い。いい人なのに、惜しいなと思う。
「先輩。アルトホルンのマウスピースって、どこに行けば買えますか?」
「マウスピース? 楽器屋さん。それか、ネットでも買えるんじゃないかな。僕は楽器屋さんに行って買ったよ。でも……そうだ。注文したんだった。店頭にはなくって」
「そういうもんなんですか?」
「どうかな。僕の時はそうだったよ」
僕がそう言うと、三屋くんは少し首を傾げた後、
「先輩。あの……付き合ってください」
「え?」
これは、どういうことだろう? 付き合う? 付き合うって……。
顔が赤くなるのを感じていた。僕を見つめていた三屋くんは、あわてたように、「あ……違うんです。すみません」と言うと、
「変な言い方して、すみません。楽器屋さんに、一緒に行ってほしいなと……思って……」
「え? あ、そうか。そうだよね。ごめんね、変な想像しちゃって……。どうしよう。僕……」
恥ずかしすぎる。僕は、三屋くんから視線を外して俯いた。どうしてそんな意味に取ってしまったんだろう? 三屋くんは同性だし、初対面だし、急にそんなことを言う感じの人でもなさそうなのに。
そういうふうに取ってしまったのは、僕の中にそんな気持ちがあるってことだろうか。でも、今までそういう傾向は全くなかった。これは、どういうことだろう。訳がわからなくなって、軽くパニックを起こしていた。
「先輩。すみませんでした。オレが……」
「あ……違うよ。僕が勝手に誤解して……」
「オレ、言葉が足りないって親からも注意されることが多くて。本当にすみません」
電車が揺れて、時々体が三屋くんに当たってしまい、それが僕をますます緊張させた。謝罪し合っていた僕たちは、少しすると口を閉ざした。気まずい空気が流れていた。何か言わなきゃ。そんな焦りがあるものの、上手く言葉が出てこない。僕がとんでもない勘違いをしたせいで、せっかく縮まったと思った距離が、また離れてしまったように感じた。
僕の降りる駅まで後少しという時になって、三屋くんが僕の腕を軽く掴んで引いた。僕が見ると三屋くんは、
「いつがいいですか? あ、違います。楽器屋さん、一緒に行ってくれますか? それから、いつなら時間ありますか?」
わざわざ言い直して、僕を誤解させないように気遣ってくれる。優しい人だ。胸の奥の方がギュッとなったのは、何だろう?
「あ、えっと……今週の土曜日はどうですか? 午後から、えっと……」
はっきりしない僕の言葉に、三屋くんは頷いて、
「大丈夫です。それじゃ、お願いします」
「こちらこそ」
僕が微笑むと、三屋くんの表情が変化した。キリッとした目が大きく開かれ、口も少し開いている。何かまずいことをしてしまったんだろうか。
「あの……三屋くん?」
僕が声を掛けると、三屋くんは首を勢いよく振って、
「何でもないです」
「え?」
そんなはずない。そう思ったけれど、電車が僕の降りる駅に着いてしまったので、それ以上訊くことは出来なかった。僕は、「じゃあね」と言って軽く手を振り、急いで電車を降りた。三屋くんは何も言わずに、一点を見つめているようだった。急にどうしたというのだろう?
電車が動き出し、僕はそれを見送った。三屋くんの表情を思い出しては、首を傾げていた。
「先輩。アルトホルンのマウスピースって、どこに行けば買えますか?」
「マウスピース? 楽器屋さん。それか、ネットでも買えるんじゃないかな。僕は楽器屋さんに行って買ったよ。でも……そうだ。注文したんだった。店頭にはなくって」
「そういうもんなんですか?」
「どうかな。僕の時はそうだったよ」
僕がそう言うと、三屋くんは少し首を傾げた後、
「先輩。あの……付き合ってください」
「え?」
これは、どういうことだろう? 付き合う? 付き合うって……。
顔が赤くなるのを感じていた。僕を見つめていた三屋くんは、あわてたように、「あ……違うんです。すみません」と言うと、
「変な言い方して、すみません。楽器屋さんに、一緒に行ってほしいなと……思って……」
「え? あ、そうか。そうだよね。ごめんね、変な想像しちゃって……。どうしよう。僕……」
恥ずかしすぎる。僕は、三屋くんから視線を外して俯いた。どうしてそんな意味に取ってしまったんだろう? 三屋くんは同性だし、初対面だし、急にそんなことを言う感じの人でもなさそうなのに。
そういうふうに取ってしまったのは、僕の中にそんな気持ちがあるってことだろうか。でも、今までそういう傾向は全くなかった。これは、どういうことだろう。訳がわからなくなって、軽くパニックを起こしていた。
「先輩。すみませんでした。オレが……」
「あ……違うよ。僕が勝手に誤解して……」
「オレ、言葉が足りないって親からも注意されることが多くて。本当にすみません」
電車が揺れて、時々体が三屋くんに当たってしまい、それが僕をますます緊張させた。謝罪し合っていた僕たちは、少しすると口を閉ざした。気まずい空気が流れていた。何か言わなきゃ。そんな焦りがあるものの、上手く言葉が出てこない。僕がとんでもない勘違いをしたせいで、せっかく縮まったと思った距離が、また離れてしまったように感じた。
僕の降りる駅まで後少しという時になって、三屋くんが僕の腕を軽く掴んで引いた。僕が見ると三屋くんは、
「いつがいいですか? あ、違います。楽器屋さん、一緒に行ってくれますか? それから、いつなら時間ありますか?」
わざわざ言い直して、僕を誤解させないように気遣ってくれる。優しい人だ。胸の奥の方がギュッとなったのは、何だろう?
「あ、えっと……今週の土曜日はどうですか? 午後から、えっと……」
はっきりしない僕の言葉に、三屋くんは頷いて、
「大丈夫です。それじゃ、お願いします」
「こちらこそ」
僕が微笑むと、三屋くんの表情が変化した。キリッとした目が大きく開かれ、口も少し開いている。何かまずいことをしてしまったんだろうか。
「あの……三屋くん?」
僕が声を掛けると、三屋くんは首を勢いよく振って、
「何でもないです」
「え?」
そんなはずない。そう思ったけれど、電車が僕の降りる駅に着いてしまったので、それ以上訊くことは出来なかった。僕は、「じゃあね」と言って軽く手を振り、急いで電車を降りた。三屋くんは何も言わずに、一点を見つめているようだった。急にどうしたというのだろう?
電車が動き出し、僕はそれを見送った。三屋くんの表情を思い出しては、首を傾げていた。

