三人で目配せし合った結果、僕が代表で三屋くんに話しかけることになった。おまえが話しかけろ、っていう空気を感じたからだ。
僕は少し引きつったような笑顔を見せながら、
「三屋くんは、どうしてアルトホルンをやってみようと思ったんですか?」
初対面だというのもあるけれど、とにかく見上げるほどの人なので、気が付くと敬語になっていた。三屋くんは僕をじっと見て、
「入学式の時に、ブラバンの演奏を見てカッコいいと思いました。中でも、アルトホルンがカッコいいと思ったので、今ここにいます」
三屋くんは、相変わらず無表情だったけれど、あの演奏に何かを感じてくれたのは伝わってきた。
「オレは楽器なんてやったことがない、完全な素人です。それでも吹けるようになりますか?」
アルトホルン仲間の二人が、僕に視線を向けた。素人で、今も常に人の足を引っ張っている僕に、何が言えるだろう。いや、でも、マウスピースを鳴らせるようになって、楽器だって吹いてるじゃないか。上手くはないけどね。
「えっと……吹けるようにはなります。努力は必要ですけど。僕でさえやってるので、三屋くんなら大丈夫です、きっと」
何を根拠にそんなことを言ってるのだろう。自分がちょっと嫌になった。でも、三屋くんは僕の言葉の後、目を見開いた。あ。何かが伝わった、と嬉しくなった。
「先輩。本当ですか? オレ、頑張ります」
「う……うん。じゃあ、一緒に頑張りましょう」
「ありがとうございます!」
身長だけではなく、声も大きい。さっきまではそんなことはなかったのに。気分が上がるとこうなるのかな。何か可愛い、と思ってしまった。僕よりたぶん二十センチくらいは高いし、顔も親しみやすい感じではない。それなのに、そんなことを思う僕は変だ。
「先輩。名前を教えてください」
三屋くんは、何故か熱心な感じで僕に話しかけてくる。ここには僕以外に二人いるんだけど。そう思いながらも、彼の圧に負けた僕は、
「斎藤優。二年生です」
何故かフルネームを教えてしまった。三屋くんは、「斎藤先輩ですね?」と確認してくる。と言うか、先輩って呼ばれるのが恥ずかしすぎるんだけど。顔が熱くなるのを感じていた。
「先輩方。アルトホルンは難しいですか?」
ちゃんと他の二人にも目をやって話している。ホッとした。出来のよくない僕ばかりが目立つのは、何かよくない。
「そうだな。斎藤が言ってたけど、努力は必要。でも、やる気があって努力をし続けられるなら、きっと吹けるようになるよ」
僕の隣の隣にいる戸川くんが真面目に返答してくれる。僕はその言葉に、大きく頷いた。戸川くん、演奏が上手いだけじゃなくて、話すのも上手だな。感心してしまう。
隣の西田くんも頷き、
「誰でも初めは吹けません。練習あるのみですよ」
敬語だけれど、ガッツポーズを見せながら笑顔で言っていた。僕に対しては遠慮がちに溜息を吐くこともあるけれど、実はいい人たちなんだと知った。
「三屋くん。これ、マウスピース。まず、これを鳴らす練習をするんです。こうやって、唇に力を入れて……」
実演してみると、三屋くんは僕を強い目つきで見てきた。そんなつもりは絶対ないと思うけど、睨まれてるみたいで怖いんだけど。
戸川くんと西田くんも、僕の後に続いてマウスピースを吹いてくれた。やっぱりマウスピースを吹くそれだけでも、僕とは全然違う。唇がしっかりしまっていて、音も真っ直ぐだ。こんなふうになりたいものだ、と心の中で思う。
衛生面のことがあるからマウスピースは貸せないけれど、楽器には触れてもらった。三つのピストンを指で押してもらうと、それまでよりも柔らかい表情になったような気がした。あくまで、気がした、だけど。そこまで顔つきが変わったわけではなかったけれど、何となくそう感じさせられるものがあったのだ。うん。きっとそうに違いない。
時間は過ぎていき、部長さんがパンパンと手を大きく叩いた。にぎやかだった音楽室が静まった。
「楽しんでもらえましたか? もしも気に入ってもらえたなら、ぜひ! ブラバンに入部してください。待ってます」
部長さんの話が終わると、部員と一年生が拍手した。部長さんは、照れ隠しなのか、手にしていたコルネットを口に当てると、短い曲をサラッと吹いてしまった。さすが部長さん。カッコいい。今度ももちろん拍手が沸き起こった。
僕は一年生を見回して、一人でも多くの人が入部してくれるといいな、と胸を弾ませていた。
僕は少し引きつったような笑顔を見せながら、
「三屋くんは、どうしてアルトホルンをやってみようと思ったんですか?」
初対面だというのもあるけれど、とにかく見上げるほどの人なので、気が付くと敬語になっていた。三屋くんは僕をじっと見て、
「入学式の時に、ブラバンの演奏を見てカッコいいと思いました。中でも、アルトホルンがカッコいいと思ったので、今ここにいます」
三屋くんは、相変わらず無表情だったけれど、あの演奏に何かを感じてくれたのは伝わってきた。
「オレは楽器なんてやったことがない、完全な素人です。それでも吹けるようになりますか?」
アルトホルン仲間の二人が、僕に視線を向けた。素人で、今も常に人の足を引っ張っている僕に、何が言えるだろう。いや、でも、マウスピースを鳴らせるようになって、楽器だって吹いてるじゃないか。上手くはないけどね。
「えっと……吹けるようにはなります。努力は必要ですけど。僕でさえやってるので、三屋くんなら大丈夫です、きっと」
何を根拠にそんなことを言ってるのだろう。自分がちょっと嫌になった。でも、三屋くんは僕の言葉の後、目を見開いた。あ。何かが伝わった、と嬉しくなった。
「先輩。本当ですか? オレ、頑張ります」
「う……うん。じゃあ、一緒に頑張りましょう」
「ありがとうございます!」
身長だけではなく、声も大きい。さっきまではそんなことはなかったのに。気分が上がるとこうなるのかな。何か可愛い、と思ってしまった。僕よりたぶん二十センチくらいは高いし、顔も親しみやすい感じではない。それなのに、そんなことを思う僕は変だ。
「先輩。名前を教えてください」
三屋くんは、何故か熱心な感じで僕に話しかけてくる。ここには僕以外に二人いるんだけど。そう思いながらも、彼の圧に負けた僕は、
「斎藤優。二年生です」
何故かフルネームを教えてしまった。三屋くんは、「斎藤先輩ですね?」と確認してくる。と言うか、先輩って呼ばれるのが恥ずかしすぎるんだけど。顔が熱くなるのを感じていた。
「先輩方。アルトホルンは難しいですか?」
ちゃんと他の二人にも目をやって話している。ホッとした。出来のよくない僕ばかりが目立つのは、何かよくない。
「そうだな。斎藤が言ってたけど、努力は必要。でも、やる気があって努力をし続けられるなら、きっと吹けるようになるよ」
僕の隣の隣にいる戸川くんが真面目に返答してくれる。僕はその言葉に、大きく頷いた。戸川くん、演奏が上手いだけじゃなくて、話すのも上手だな。感心してしまう。
隣の西田くんも頷き、
「誰でも初めは吹けません。練習あるのみですよ」
敬語だけれど、ガッツポーズを見せながら笑顔で言っていた。僕に対しては遠慮がちに溜息を吐くこともあるけれど、実はいい人たちなんだと知った。
「三屋くん。これ、マウスピース。まず、これを鳴らす練習をするんです。こうやって、唇に力を入れて……」
実演してみると、三屋くんは僕を強い目つきで見てきた。そんなつもりは絶対ないと思うけど、睨まれてるみたいで怖いんだけど。
戸川くんと西田くんも、僕の後に続いてマウスピースを吹いてくれた。やっぱりマウスピースを吹くそれだけでも、僕とは全然違う。唇がしっかりしまっていて、音も真っ直ぐだ。こんなふうになりたいものだ、と心の中で思う。
衛生面のことがあるからマウスピースは貸せないけれど、楽器には触れてもらった。三つのピストンを指で押してもらうと、それまでよりも柔らかい表情になったような気がした。あくまで、気がした、だけど。そこまで顔つきが変わったわけではなかったけれど、何となくそう感じさせられるものがあったのだ。うん。きっとそうに違いない。
時間は過ぎていき、部長さんがパンパンと手を大きく叩いた。にぎやかだった音楽室が静まった。
「楽しんでもらえましたか? もしも気に入ってもらえたなら、ぜひ! ブラバンに入部してください。待ってます」
部長さんの話が終わると、部員と一年生が拍手した。部長さんは、照れ隠しなのか、手にしていたコルネットを口に当てると、短い曲をサラッと吹いてしまった。さすが部長さん。カッコいい。今度ももちろん拍手が沸き起こった。
僕は一年生を見回して、一人でも多くの人が入部してくれるといいな、と胸を弾ませていた。

