【青春BL】秘密のリレー小説の中では甘いふたり

「……い、いきなり、どうして?」
「いや、あの……なんでもない」

 動きが挙動不審になった中島は去ろうとした。すごく驚いて俺も戸惑って動きが挙動不審になってしまった。けれど、このままではせっかくのチャンスを逃してしまう。

 小説を書いているのが俺だってことがバレていても良い。むしろバレてしまった方が仲良くなれるかもしれない。

 海にふたりきりで行ったら、つまらなくて一緒に行かない方が良かったなんて思われるかもしれない。だけど、行かないで後悔するよりは良い。

 小説だけだった出来事をリアルでもやりたい――!

「待って! 行きたい! 一緒に行こう!」

 声を振り絞り、中島に伝えた。

 中島は振り向くと立ち止まる。そして、パァっと明るくなった表情を見せてきた。中島のことを無表情な男だと思っていたけれど、実は色々な表情をするんだな。

 お互い言葉を交わさなかったけれど、お互いに頷くことで、お互いの気持ちを確認した。

ということで誘われた理由は謎のままだけど、俺と中島は海へ遊びに行くことになった。



 遊びに行くことは決まった。お互いに連絡先を交換した。けれど小説のような進展はなかなかしなかった。

しかも中島とリアルで遊ぶ想像ばかりしていたから、小説の続きも書く余裕がなくなり更新できていない。次はこっちが答える、大切なシーンなのに。今まで途切れずに続けていたのに――。

 何も進まないのは寂しいな。こっちから日時をいつにしようか提案してみようかな。でも、中島は忙しそうだな。いや、でも……質問だけしてみよう。このまま、ずるずると何もしないで過ごしていると、夏休みに入ってしまう。やがて遊ぶ約束も消えてしまうだろうな。学校で話しかけるのは緊張するから、文章で聞いてしまおう。

「よし! 今から、質問を送る!」

 中島に書く文章を何度も書いては消した。三十分ぐらいしたら完成した。

『一緒に海へ行く約束をしたけれど、いつが良い?』

勢いで送信ボタンを押した。夏休みに入るちょうど一週間前の夜だった。

なぜ誘ってきたのかの質問も一緒に送りたかったけれど、これは直接聞こう。というか、返事は来るのか?

ピコピコピコピコ♪

数分後、受信した音がスマホからした。画面を覗くと中島からだった。

――えっ! 返事早すぎ!

 やっぱり無理系な返事だったらどうしよう……なんて考えながら、恐る恐る読んだ。

『明日の七時、新木 陽の自宅がある街の駅で待ち合わせたい』とだけ、返事が返ってきた。

 部屋にある壁時計を確認する。今は二十時だ。ということは、十一時間後!

 ちょっと待って? 全然心の準備ができていない。できれば数日ぐらい気持ちを落ち着かせる時間がほしかった。寝て起きたらすぐに中島と海へ?

 明日は土曜日だし、こっちにも何も予定はない。断る理由はひとつもない。準備出来ていないのは俺の心だけか。

『分かった! 待ってる!』と俺は返事をした。



 次の日の朝。駅に、待ち合わせ時間ちょうどに着くと、すでに中島がいた。黒いシャツにスラッとした黒いパンツ。中島は普段こんな感じなのか。制服以外の姿も格好良いな。ちなみに俺は、小説をなぜか意識してしまい、白いTシャツとデニムのハーフパンツだ。

何パターンか迷ったけれど、これが中島の好みなのかな?って考えたからこうなった。

 昨日は〝待ってる!〟なんて返事を送ったのに待たせてしまった。

「待たせたか? 中島は何時に来た?」
「六時四十五分だ」

 思った通り、小説のように早く待ち合わせ場所に来るタイプか。ギリギリすぎて遅いなとか思われたかな……。

「遅くなって、ごめん」
「いや、遅れてはいない。大丈夫だ」

 電車に乗ると、小説の中の春木の気持ちを思い出した。距離が近いのを意識してドキドキしていたな。それを思い出したからなのか、俺自身緊張しているからなのか分からないけれど、俺も今、すごくドキドキしている。

やっぱり小説と比べてしまうけれど、小説では電車の中でいくつか質問されていた。今は……一言も会話をしていないで、ただ目的地へ向かっている感じだ。

「中島は、なぜ俺を海に誘ったんだ?」

質問するのは得意ではないけれど、単刀直入にこっちから疑問をぶつけてみた。

「……」
「いや、別に話したくないのならいいんだ」
「行きたかったからだ!」

 中島は俺と一瞬目を合わせたけれど、すぐに逸らして俺とは逆の方を向いた。

「それだけか?」
「それだけだ」
「他は?」
「他? 他は、ない」

 何を言っているんだ君は?みたいな目つきでこっちを見る中島。

それ以外は無言すぎるのに耐えられなくて、晴れてよかった話や海が見えてきたなど、当たり障りのない言葉をかけて過ごした。

 到着すると「どうする?」と聞かれる。小説でした行動が中島にとって快適な生活なのか?

「俺は砂浜を歩いたりしてのんびり海を眺めたいかな」

「奇遇だな。自分もだ」

 海に着くとビーチサンダルに履き替えて砂浜を歩いた。無言だったから静かに寄せる波の音や風の音が大きく聞こえてくる。

――どうやったら、リアルでも仲良くなれるかなぁ。

人と深くなるのは苦手だから思いつかない。普通はどうやって誰かと仲良くなるのだろう。思いつくのは、ときめき掲示板の話題を出すことだけ。出してみようかな?

「あのさ、ときめき掲示板はどんなことを書き込んでいるんだ?」

 多分その質問には答えないと思うけれど、いきなり小説の相手は俺だということをバラしてしまうのは微妙だなと思い、探るように質問してみた。

「こないだ問い合わせの時に新木はときめき掲示板のアプリをいじっていたけれど……新木も使ってるんだろ?」
「いや、俺は……」

 なんて答えよう。否定すると嘘になる。なんか、嘘はつきたくないな。

「うん、ちょっとだけ……」

 ごまかすように俺はしゃがんで白くて渦巻きが綺麗な貝殻をひとつつかんだ。俺は下を向いているけれど、立っている中島から強い視線を感じる。

「自分は小説を書いている」
「ふーん、小説かぁ……」

 軽く返事をしたけれど、内心驚いている。書いていることを打ち明けてくるなんて、全く思っていなかったから。

「好きな人を想像しながら書いている……」

 まさかの中島から〝好きな人〟って言葉を聞き、心臓がどくんと跳ねた。
 貝殻の渦をなぞっていた指の動きが自然ととまる。

「好きな人、か……」

 急に頭の中が忙しくなり、続きの言葉が思いつかなくなった。

 ふと思い出す。

第2話での春木視点での冬見奏人のことを。そして、小説では海に行っていて、現実でも誘われた。

 まさか、中島の好きな人って――。

「色白で、柔らかそうで触り心地の良さそうな茶色の髪で、前髪が長くて、そして第三ボタンまで開いた白いシャツを着ている……」

 呟きながら顔を上げると強ばっている表情の中島と目が合った。

「なぜ、新木がそれを知っている?」

 もう隠せない、隠したくない。
 言いたい。言ってすっきりして、もっと中島と親しくなりたい。

 俺も、気持ちを伝えたい――。

「だって、冬見奏人は、俺だから――」

 言い終わらないうちに中島の目は見開いた。

 ふたりの関係はどうなるのだろう。一気に気まずくなるのだろうか。

「そうだったのか、新木が冬見……」

 呟きながら中島もしゃがんだ。そして顔が近づいてくる。俺の心臓の音が更に早くなる。もしかして、この雰囲気は……今から、告白される?

と、思いきや「小説の続き、楽しみにしてる」と言い、立ち上がると歩き始めた。期待は外れた。

「それだけかよ!」

 しかも俺を置いて、どこにいくんだよ!

 謎!!

 俺も立ち上がり、中島を追いかける。そして腕を掴んだ。中島の腕、いや、体全体がわずかに震えていた。実は相手が俺で、すごく動揺していたのか?

「中島!」

 名前を呼んでも、中島は俺を見ようとしない。

「小説の中で、俺に『好きだ』って言ったよな」

 腕を掴んだ手に、力がこもる。

「あれは、俺に対する気持ちと同じ、なんだよな?」

 中島は静かに振り向くと、頷いた。

「待ってろ! 今、小説の続きを書く。スマホで小説を書くのは慣れてないから時間がかかるかもだけど、待ってて?」
「今?」

 俺は今、何をしているんだろう。目の前に中島がいるのだから、直接言えば良いのに。

 リュックからスマホを出すと、ときめき掲示板アプリを開いた。書くまではいけなかったけれど、ぼんやりと色々なパターンは想像していた。そして今、書きたいことがはっきりとした!


***

【第7話】最終話 ふたりのハッピーエンド

 今、春木から好きだと告白された。余計に心臓の音はうるさくなる。どう返事をすればいい? この短い時間の中で考えて考えて考えすぎたけれど、答えをシンプルに伝えることに決めた。

「俺も、好きだ――」

 いつの間にか好きになっていた。少しずつ春木を知り、少しずつ春木を好きになり。告白されてその〝好き〟は、恋の好きだったんだと自覚した。

 好きを口に出すと、どんどん好きが溢れてくる。ふたりが埋まってしまいそうなくらいに。

 離れるのがもったいなくて、しばらく抱きしめあった。でも、熱くなってきたから離れる。

 気になったことを質問してみた。

「ところで、ひとつ気になるのだけど、ずっとっていつから好きだったんだ?」
「幼い時からだ……」

 春木はサラサラヘアーをくしゃくしゃと崩すと、鞄からメガネを出して、それをかけた。

 ぼんやりと、とある同級生が頭の中に浮かんでくる。

「あっ! 小さい時に近所に住んでた、名前を知らない同級生だ!」
「正解だ!」

「えっ? 小さい時から好きだったってことか?」
「そうだ!」

 俺なんかを、こんなに長い期間好きでいてくれるなんて。

「好きでいてくれて、ありがとう。これからは両想いだ! これからはずっと一緒に幸せになろう!」

 そうして俺たちは結ばれたのだった。

投稿者 ようちゃん

***

 書き終えるとすぐに投稿ボタンを押した。

「中島、今、最終話を投稿した。主に最初と最後の言葉が俺の気持ちだ。小説ではこんなに素直に伝えられるのに、リアルは難しいな、本当に」 

 中島はすぐにときめき掲示板アプリを開いた。そしてすぐに読み始める。俺は中島の反応を気にしながらも、小説の第1話から読み返してみる。

 中島は、中島の好きな人である俺のことを想像しながら書いていた。はっきりと本人の口から聞いた後に読み返してみると、聞いてない時とは違う、なんというか同じ小説なのに、少し違う小説のような感覚になる。

「これは、つまり……そういうことか?」
「うん、そうだ。だから、これからはよろしく」

 中島に聞かれてそう答えた。小説みたいにはっきり言葉にできれば楽なのに。現実だと、やっぱり照れくさい。

 中島はスマホをしまい、俺の方をまっすぐ見た。

「新木」
「ん?」
「俺は新木が好きだ。新木も気持ちをはっきり言ってほしい」

 中島からの予想外の言葉。恥ずかしいけれど――。

「……俺も、好きだ。中島のことが」

 今度は逃げなかった。中島の目を見つめて瞬きすらもせず、はっきりと伝えた。気持ちを伝えると普通に呼吸が出来なくなった。胸の辺りが苦しくなってきて、熱いものが込み上げてくる。

 中島は小さく息をふっと吐きながら、はにかんだ。

――本当に、本当に気持ちを伝えるのは苦手だ。だけど、伝えることができた。大切な言葉を言えた。

「あ、ありがとう。自分は、このまま付き合いたいと思っているが、付き合う展開で、いいのか?」

 少しぎこちない話し方で質問してくる中島。

「う、うん。付き合う展開で、いい。これって、リアルの話だよな?」

 小説の展開を話し合っている様子にも見えるが、これはリアルの話だ。こんな会話をしているのが信じられない。

「そうだ。どこかへ一緒に行くのを付き合うって意味ではない。あの展開は少し驚いた」
「……小説でも〝付き合う〟の意味は分かっていたけど、小説の中なのに春木じゃなくて中島と付き合うの想像しちゃって、そしたらなんか急に恥ずかしくなって……だから実はごまかすような展開にしちゃったんだ」

「ふっ、新木は可愛いな」
「か、可愛いって……」

 言われ慣れていない言葉に戸惑い、目を逸らして下を向く。下を向い動揺していると、あたたかい感触が全身を包んだ。

今、リアルに抱きしめられている。この感触、雰囲気は想像以上に衝撃的だった。

「好きが溢れてきて、いつの間にか抱きしめていた」って中島は小説に書いていたよな。今の中島は、そんな感じなのか?

 この体制、俺はどうすれば良いんだ?
 中島と俺の身体が触れ、あたたかさを感じていると中島への気持ちがどんどん溢れてくる。

 リアルでは素直に気持ちを伝えるのは慣れなくて怖くて苦手だけど、この溢れてくる感情はもう、止まらない。

「俺も今、『好き』が溢れてる――」

 素直に気持ちを伝えて中島の背中に手を伸ばすと、俺からもギュッと抱きしめた。

 ふんわり、心地よい海の風と香りが頬をかすめ、ふたりを包み込みながら通り過ぎていった。



 帰り道の電車は、行きとは違う空気だった。景色も揺れも、全てが心地よく感じた。

 隣に座った中島の腕が、時々俺の腕に触れる。行きの時よりも近い位置なのか。

 心地良さの中、再び小説の内容をふわっと思い浮かべていた。

「中島、そういえばリアルで髪の毛やシャツのボタン、遅刻ギリギリの時……色々注意してきた時って、小説に書いてあった気持ちと同じだったのか?」
「そのままだった」
「そうだったのか。あの時は何で俺ばっかりって思ってたけど」
「嫌だったのか?」
「う、うん……でも理由を聞いた今は、嫌ではない」

長い前髪は邪魔ではないのか、目に悪影響がないかと心配してくれていたこと。
第三のボタンまで開いた白いシャツは胸元がチラリしていて、下心ある者に狙われたりしないかも心配してくれて、上までボタンをとめたいと思ってくれていたこと。
遅刻ギリギリの時はハプニングなどが起こり、来れない状況に陥ってしまったのではないかと心配してくれたこと。

「小説の中に書かれている春木の冬見への心情は全部、現実世界の新木に対してのことだ」

全部――他にも俺に対して思っていることが書かれていたような?

 どんなことが書かれていたか、隅々まで思い出したくなったから、再びときめき掲示板アプリを開いた。読んだのは何度目だろう。俺はどれだけこの小説が好きなんだよ。

「な、中島。良かったら、今から一緒に小説を読まないか?」

 答えを聞く前に中島にもスマホの画面がきちんと見えるように、位置を調整した。中島の顔が近くに来る。吐息が聞こえるぐらいの顔の近さにドキドキしながら小説を読み始めた。

「……俺、まつ毛長いのか?」
「あぁ、長い」

「第1話より最終話の方が文章上手くなってる気がする」
「そうだな」

 会話をしながら読み進めていく。

 今日一日でふたりの距離はすごく縮まった気がする。まさか、ふたりで書いた小説を一緒に読む日がくるなんて。

――書いて、本当に良かった。この時間が、すごく幸せだ。




 夕陽が沈み始めた時間、俺たちは駅に着いた。

「じゃあな」
「あぁ、気をつけて!」

 俺が手を振ると、中島も軽く手を振る。そしてお互いに背を向けた。

「次はいつ一緒に遊べるかな」「中島は今日楽しかったのかな」って、帰り道、色々考えた。

きっと中島も今、頭の中で色々と考えているのかな、なんて。

 

°・*:.。.☆

秘密のリレー小説は終わった。
でも、二人の物語は、まだ始まったばかりだ。

°・*:.。.☆