***
【第5話】仲良くなってきた!
〝付き合いなさい〟
春木は俺に付き合ってほしい場所があるのか?
「付き合うの、良いぞ!」
「ほ、本当か!」
「あぁ、どこか俺と行きたいところあるのか?」
「……逆に問うが、君はあるのか?」
「俺か? そうだなぁ……」
真剣に悩んだ。春木と一緒に行きたいところかぁ――。
「俺、友達と行ってみたいところがあるんだ。海なんだけどさ……」
どうだろう。断られるかな?
春木が嫌だと感じる場所ではないようにと願いながらソワソワする。
「そこで良い」
嫌そうな素振りをひとつも見せずに、はっきりとした口調で言われてホッとした。
「良いか! じゃあ、計画立てる! 後から『やっぱり嫌だなぁ』とかは、絶対になしだからな!」
「承知した!」
順調に話し合いは進み、日にちと待ち合わせ時間も決めた。楽しみだなぁ! 早くその日になれ!!って毎日考えながらソワソワしすぎていたら、あっという間に遊ぶ日がやってきた。
早朝。約束をした時間の五分前に待ち合わせした駅に着くと、すでに春木はいた。
「早いな! 今日は俺も遅刻しなかったぞ!」
「遅刻しないのは、当たり前だ」
当たり前かもしれないけれど……ちょっと褒めてもらいたかったな。ちょっとブーとした顔になる俺。だけど、今日は明るく過ごす日だ。気を取り直して俺は笑った。
「よし、じゃあ海へ出発だー!」
(ちょっと忙しくて、今回、短くてごめん。続き楽しみにしてる!)
投稿者 ようちゃん
***
恥ずかしすぎて、付き合うの意味を変えてしまった……。
というか、さすがに文字数少ないかな?
本当は忙しくて短いわけではない。これ以上書くと、不安なんだ。
きっと春木、いや中島は分刻みのスケジュールを立てて普段は行動しているだろう。一緒に行動するのが例えこの小説の中だとしても、俺が立てた計画に対して、無駄が多いとか考えると思うんだ。
こっちが考えるなら、相手にも快適に過ごしてもらいたい。つまらないなと思われたくない。一緒に過ごした時間は無駄だったななんて思われたらどうしよう、過ごしている時に早く時間過ぎてくれなんて思われたらどうしようウジウジ……そんなことばかりを考えてしまい、誰かを何かに誘うのが怖くなって、面倒だなと考えて。リアル生活では誰も誘えなくなった。
だから本当に俺が友達と行ってみたいなと思う場所だけ書いて、計画は春木に任せてみようと思う。どんなふうに過ごすのが好きなのかを知りたいし。俺は中島がどんなふうに普段過ごしているのかも知りたいし――。
小説の中でだけだけど、行きたい場所を伝えられたのは、なかなかの進歩かな。
中島の書く小説の続きが楽しみだ――。
いつの間にか、唯一の、俺の生きがいのようになっているこの小説。
そして翌朝、第6話が投稿されていた。布団の中でそれを読む。
***
【第6話】春木視点 君に気持ちを伝えた日
君と七時発の電車に乗るため、待ち合わせ時間は六時四十五分にした。自分は六時三十分に待ち合わせの約束をした切符売り場の前に着いた。駅構内は空いているのだから君が来ればすぐに見つけられるはずだが、君の姿はまだ見えない。本日は遅刻せずに来るのだろうか。きちんと起きて準備を終えているだろうか。
白いTシャツ、デニムのハーフパンツ姿で大きな黒いリュックを背負った君が、朝の陽に負けぬ程に眩しい輝きを放ちながら、来た。
「早いな! 今日は俺も遅刻しなかったぞ!」
「遅刻しないのは、当たり前だ」
表情が曇る君。自分の言い方がまずかったのだろうか。だが、君はすぐに笑顔を取り戻した。
「よし、じゃあ海へ出発だー!」
自分たちは電車に乗りこみ、海へ向かう。君が隣に座っていたので物理的な距離はかなり近い。意識し始めると、自分の心臓は早く脈打つ。静まれと心の中で呪文を唱えた。外の景色を眺める君を眺める自分。
ふと、さっきの遅刻の発言の曇り顔の件を思い出す。
「体調はどうだ?」「お腹空かないか?」など話しかけ少々会話をしていく中で、「遅刻しなかったな。よくやった!」と、会話の途中でさりげなく一言添えた。すると君は曇りなき完全な太陽のような笑みを見せてきたのだ。あぁ、独り占めしたいその笑顔。
八時四十三分、海の駅に到着。
海に行きたいと提案したのは君なのだから、何かやりたいことがあるのだろう。
「君が海でやりたいことを教えてくれないか?」
「一緒にただ砂浜を歩き、海を眺めたい。あとはそうだなぁ……海の近くにあるお店で、海鮮丼も一緒に食べたい!」
気が合うな。実は自分も同じことを考えていた。
「では、君の願望を叶えるために、歩こうか」
歩くと脳が活性化されて、会話の言葉が思い浮かんでくる。
君の誕生日、好きな食べ物、家族構成……君の情報を引き出すことに成功した。
十一時三十分。数ある海の近くの飲食店の中から自分は海鮮丼に対しての評価が高いお店を調べた。そこで君と、えび、マグロ、サーモン、卵焼き、いくらの乗った海鮮丼を食した。
十三時。君が砂浜に転がっている貝殻を眺め出したから自分も付き合い、一緒に眺めた。
そうしているうちに時間が進んでいき、帰る時間が刻一刻と迫ってきた。しゃがんで一生懸命に好みな貝殻を探す君。その真剣で純粋な表情を見つめていると、好きな気持ちが溢れてきた。気がつけば君を抱きしめ、君の身体を包み込んでいた。
今、君に伝えたい。素直な気持ちを――。
「君がずっと好きだった――」
投稿者 キュン太
***
小説なのに、本当に中島に抱きしめられたような感覚になってドキドキしてきた。しかも告白までされた!!
中島は、ほぼ最後までこの日の出来事を書いてくれた。本当に中島はこんな一日を過ごすのが好きなのか?って今すぐ本人に聞いてみたい。俺もこんなふうに過ごすことが好きだ。
――中島とリアルで遊んでみたいな。
なんて、こっちが一方的に考えていたんだと思っていたのに。
*
その日、教室に入り席につくとなんと、中島が俺の席にやってきた。
「…………は、助かった」
「えっ? 今なんて言った?」
「ときめき掲示板の問い合わせの件は、助かった。感謝する」
周りにときめき掲示板のことを悟られたくないからか、小声でお礼を言う中島。
「あ、あぁ。その後は順調か?」
中島はこくんと頷いた。
「今度、何かお礼をさせてくれ」
「いやいや、それくらいでお礼なんていらない」
中島と会話をしているとぐぅーっと俺のお腹がなった。
「朝ご飯、食べてないのか?」
「うん。ちょっと朝、時間がなくて」
中島は俺の言葉を聞くと席に戻っていく。そして再びこっちに来て「これを食べなさい」と何かを渡してきた。
こ、これは、中島が休み時間に食べている饅頭だ!
「どうしてこれを?」
「……お礼だ。そうだ、問い合わせしてくれたお礼だ」
少しぎこちない様子の中島。
「あ、ありがとう……」
つられて俺もぎこちなくなってくる。中島は風のように席に戻っていった。冷静を装っていたけれど、内心ものすごくドキドキしていた。顔も熱い。中島と会話をしただけなのに、小説とリアルが頭の中で混ざっているせいなのか?
もらった饅頭を見つめた。ぎゅっと、優しく握りしめる。
朝、時間に余裕がなかったのは、小説を読んだあと、布団の中でしばらく続きを考えていたからだ。続きだけではない。リアルで中島に抱きしめられたらどんな感じなんだろうなんてことも考えてしまっていた。
とりあえず、中島からもらった饅頭を食べた。
元々美味しいからなのか、中島がくれたからなのか。とにかく美味しかった。一気に完食した。
そういえば、中島は饅頭ひとつしか持ってきていないのか? そしたらいつもの饅頭を食べる休み時間は何も食べないのだろうか? 授業中も気になった。
二時間目が終わると、中島をそっと見る。
ぼんやりと天井を見つめていた。
たしか小説によれば、リアルでは違うのかもだけど、この時間に中島が食べる饅頭は空腹対策。俺が食べた饅頭をこの時間に中島はお腹に入れるはずだった。分刻みな予定を立てている中島にとっては突然空いた大きな穴。次の授業の時にそのせいで集中できなくなっても申し訳ないな。
俺は巾着から小さなおにぎりを出した。これは俺の昼ごはん。小さなおにぎりは3つある。ひとつなくなるぐらい、中島のたったひとつの饅頭に比べれば大したことはない。
自分が作ったおにぎりを渡すのは緊張するけれど――。
おにぎりを持つと中島の席に向かった。
「おい、中島。これやる」
「こ、これは?」
「塩昆布のおにぎりだ」
「い、いいのか?」
中島はしばらく受け取らずにおにぎりを見つめていた。人が作ったおにぎりは受け取らない主義か?
「いや、いらないなら無理して受け取らないでも、いい……」
「あ、ありがとう。受け取る」
中島はすぐに目の前で食べ始めた。反応が気になる。
「美味だった。感謝する!」
「あ、あぁ、そっか。良かった」
慌てて逃げるように俺は自分の席に戻った。だって、中島が俺に向かって微笑んできたから。席に着いても、ずっと中島の笑顔が頭の中にこびりついて離れない。
お腹が空いて饅頭をもらう。
塩昆布のおにぎりをふたりが食べる。
ふと思う。設定は違うけれど、ちょっと小説の出来事をなぞっているような?
このままリアルが小説をなぞっていけば、一緒に海へも――。
中島と学校以外でも会ってみたいな。小説みたいに海に行きたいと言っても断られそうだけど。とりあえず海は好きか聞いてみようかな。
放課後聞いてみようと思っていたけれど、モジモジしすぎて、チャンスはあったのだけど聞けなかった。
だけど、校門を出た時に奇跡が!
「新木 陽、一緒に海に行かないか?」
中島の声が聞こえてきたから俺は振り向いた。
なぜリアルで中島から海へ行こうと誘われた?
――もしかして、小説を書いている〝ようちゃん〟が俺だって、バレている?
【第5話】仲良くなってきた!
〝付き合いなさい〟
春木は俺に付き合ってほしい場所があるのか?
「付き合うの、良いぞ!」
「ほ、本当か!」
「あぁ、どこか俺と行きたいところあるのか?」
「……逆に問うが、君はあるのか?」
「俺か? そうだなぁ……」
真剣に悩んだ。春木と一緒に行きたいところかぁ――。
「俺、友達と行ってみたいところがあるんだ。海なんだけどさ……」
どうだろう。断られるかな?
春木が嫌だと感じる場所ではないようにと願いながらソワソワする。
「そこで良い」
嫌そうな素振りをひとつも見せずに、はっきりとした口調で言われてホッとした。
「良いか! じゃあ、計画立てる! 後から『やっぱり嫌だなぁ』とかは、絶対になしだからな!」
「承知した!」
順調に話し合いは進み、日にちと待ち合わせ時間も決めた。楽しみだなぁ! 早くその日になれ!!って毎日考えながらソワソワしすぎていたら、あっという間に遊ぶ日がやってきた。
早朝。約束をした時間の五分前に待ち合わせした駅に着くと、すでに春木はいた。
「早いな! 今日は俺も遅刻しなかったぞ!」
「遅刻しないのは、当たり前だ」
当たり前かもしれないけれど……ちょっと褒めてもらいたかったな。ちょっとブーとした顔になる俺。だけど、今日は明るく過ごす日だ。気を取り直して俺は笑った。
「よし、じゃあ海へ出発だー!」
(ちょっと忙しくて、今回、短くてごめん。続き楽しみにしてる!)
投稿者 ようちゃん
***
恥ずかしすぎて、付き合うの意味を変えてしまった……。
というか、さすがに文字数少ないかな?
本当は忙しくて短いわけではない。これ以上書くと、不安なんだ。
きっと春木、いや中島は分刻みのスケジュールを立てて普段は行動しているだろう。一緒に行動するのが例えこの小説の中だとしても、俺が立てた計画に対して、無駄が多いとか考えると思うんだ。
こっちが考えるなら、相手にも快適に過ごしてもらいたい。つまらないなと思われたくない。一緒に過ごした時間は無駄だったななんて思われたらどうしよう、過ごしている時に早く時間過ぎてくれなんて思われたらどうしようウジウジ……そんなことばかりを考えてしまい、誰かを何かに誘うのが怖くなって、面倒だなと考えて。リアル生活では誰も誘えなくなった。
だから本当に俺が友達と行ってみたいなと思う場所だけ書いて、計画は春木に任せてみようと思う。どんなふうに過ごすのが好きなのかを知りたいし。俺は中島がどんなふうに普段過ごしているのかも知りたいし――。
小説の中でだけだけど、行きたい場所を伝えられたのは、なかなかの進歩かな。
中島の書く小説の続きが楽しみだ――。
いつの間にか、唯一の、俺の生きがいのようになっているこの小説。
そして翌朝、第6話が投稿されていた。布団の中でそれを読む。
***
【第6話】春木視点 君に気持ちを伝えた日
君と七時発の電車に乗るため、待ち合わせ時間は六時四十五分にした。自分は六時三十分に待ち合わせの約束をした切符売り場の前に着いた。駅構内は空いているのだから君が来ればすぐに見つけられるはずだが、君の姿はまだ見えない。本日は遅刻せずに来るのだろうか。きちんと起きて準備を終えているだろうか。
白いTシャツ、デニムのハーフパンツ姿で大きな黒いリュックを背負った君が、朝の陽に負けぬ程に眩しい輝きを放ちながら、来た。
「早いな! 今日は俺も遅刻しなかったぞ!」
「遅刻しないのは、当たり前だ」
表情が曇る君。自分の言い方がまずかったのだろうか。だが、君はすぐに笑顔を取り戻した。
「よし、じゃあ海へ出発だー!」
自分たちは電車に乗りこみ、海へ向かう。君が隣に座っていたので物理的な距離はかなり近い。意識し始めると、自分の心臓は早く脈打つ。静まれと心の中で呪文を唱えた。外の景色を眺める君を眺める自分。
ふと、さっきの遅刻の発言の曇り顔の件を思い出す。
「体調はどうだ?」「お腹空かないか?」など話しかけ少々会話をしていく中で、「遅刻しなかったな。よくやった!」と、会話の途中でさりげなく一言添えた。すると君は曇りなき完全な太陽のような笑みを見せてきたのだ。あぁ、独り占めしたいその笑顔。
八時四十三分、海の駅に到着。
海に行きたいと提案したのは君なのだから、何かやりたいことがあるのだろう。
「君が海でやりたいことを教えてくれないか?」
「一緒にただ砂浜を歩き、海を眺めたい。あとはそうだなぁ……海の近くにあるお店で、海鮮丼も一緒に食べたい!」
気が合うな。実は自分も同じことを考えていた。
「では、君の願望を叶えるために、歩こうか」
歩くと脳が活性化されて、会話の言葉が思い浮かんでくる。
君の誕生日、好きな食べ物、家族構成……君の情報を引き出すことに成功した。
十一時三十分。数ある海の近くの飲食店の中から自分は海鮮丼に対しての評価が高いお店を調べた。そこで君と、えび、マグロ、サーモン、卵焼き、いくらの乗った海鮮丼を食した。
十三時。君が砂浜に転がっている貝殻を眺め出したから自分も付き合い、一緒に眺めた。
そうしているうちに時間が進んでいき、帰る時間が刻一刻と迫ってきた。しゃがんで一生懸命に好みな貝殻を探す君。その真剣で純粋な表情を見つめていると、好きな気持ちが溢れてきた。気がつけば君を抱きしめ、君の身体を包み込んでいた。
今、君に伝えたい。素直な気持ちを――。
「君がずっと好きだった――」
投稿者 キュン太
***
小説なのに、本当に中島に抱きしめられたような感覚になってドキドキしてきた。しかも告白までされた!!
中島は、ほぼ最後までこの日の出来事を書いてくれた。本当に中島はこんな一日を過ごすのが好きなのか?って今すぐ本人に聞いてみたい。俺もこんなふうに過ごすことが好きだ。
――中島とリアルで遊んでみたいな。
なんて、こっちが一方的に考えていたんだと思っていたのに。
*
その日、教室に入り席につくとなんと、中島が俺の席にやってきた。
「…………は、助かった」
「えっ? 今なんて言った?」
「ときめき掲示板の問い合わせの件は、助かった。感謝する」
周りにときめき掲示板のことを悟られたくないからか、小声でお礼を言う中島。
「あ、あぁ。その後は順調か?」
中島はこくんと頷いた。
「今度、何かお礼をさせてくれ」
「いやいや、それくらいでお礼なんていらない」
中島と会話をしているとぐぅーっと俺のお腹がなった。
「朝ご飯、食べてないのか?」
「うん。ちょっと朝、時間がなくて」
中島は俺の言葉を聞くと席に戻っていく。そして再びこっちに来て「これを食べなさい」と何かを渡してきた。
こ、これは、中島が休み時間に食べている饅頭だ!
「どうしてこれを?」
「……お礼だ。そうだ、問い合わせしてくれたお礼だ」
少しぎこちない様子の中島。
「あ、ありがとう……」
つられて俺もぎこちなくなってくる。中島は風のように席に戻っていった。冷静を装っていたけれど、内心ものすごくドキドキしていた。顔も熱い。中島と会話をしただけなのに、小説とリアルが頭の中で混ざっているせいなのか?
もらった饅頭を見つめた。ぎゅっと、優しく握りしめる。
朝、時間に余裕がなかったのは、小説を読んだあと、布団の中でしばらく続きを考えていたからだ。続きだけではない。リアルで中島に抱きしめられたらどんな感じなんだろうなんてことも考えてしまっていた。
とりあえず、中島からもらった饅頭を食べた。
元々美味しいからなのか、中島がくれたからなのか。とにかく美味しかった。一気に完食した。
そういえば、中島は饅頭ひとつしか持ってきていないのか? そしたらいつもの饅頭を食べる休み時間は何も食べないのだろうか? 授業中も気になった。
二時間目が終わると、中島をそっと見る。
ぼんやりと天井を見つめていた。
たしか小説によれば、リアルでは違うのかもだけど、この時間に中島が食べる饅頭は空腹対策。俺が食べた饅頭をこの時間に中島はお腹に入れるはずだった。分刻みな予定を立てている中島にとっては突然空いた大きな穴。次の授業の時にそのせいで集中できなくなっても申し訳ないな。
俺は巾着から小さなおにぎりを出した。これは俺の昼ごはん。小さなおにぎりは3つある。ひとつなくなるぐらい、中島のたったひとつの饅頭に比べれば大したことはない。
自分が作ったおにぎりを渡すのは緊張するけれど――。
おにぎりを持つと中島の席に向かった。
「おい、中島。これやる」
「こ、これは?」
「塩昆布のおにぎりだ」
「い、いいのか?」
中島はしばらく受け取らずにおにぎりを見つめていた。人が作ったおにぎりは受け取らない主義か?
「いや、いらないなら無理して受け取らないでも、いい……」
「あ、ありがとう。受け取る」
中島はすぐに目の前で食べ始めた。反応が気になる。
「美味だった。感謝する!」
「あ、あぁ、そっか。良かった」
慌てて逃げるように俺は自分の席に戻った。だって、中島が俺に向かって微笑んできたから。席に着いても、ずっと中島の笑顔が頭の中にこびりついて離れない。
お腹が空いて饅頭をもらう。
塩昆布のおにぎりをふたりが食べる。
ふと思う。設定は違うけれど、ちょっと小説の出来事をなぞっているような?
このままリアルが小説をなぞっていけば、一緒に海へも――。
中島と学校以外でも会ってみたいな。小説みたいに海に行きたいと言っても断られそうだけど。とりあえず海は好きか聞いてみようかな。
放課後聞いてみようと思っていたけれど、モジモジしすぎて、チャンスはあったのだけど聞けなかった。
だけど、校門を出た時に奇跡が!
「新木 陽、一緒に海に行かないか?」
中島の声が聞こえてきたから俺は振り向いた。
なぜリアルで中島から海へ行こうと誘われた?
――もしかして、小説を書いている〝ようちゃん〟が俺だって、バレている?



