その日、三時間目の国語の時間に後ろの席からスーピースーピー寝息が聞こえてきた。
「中島が居眠りか。中島、起きて今の続きを読みなさい!」
――中島が居眠り?
驚いた俺は勢いよく後ろを向く。うっすら目を開いた状態の中島が慌てて国語の教科書を開いていた。
「申し訳ございません」と謝るとすらすら音読する中島。すぐに対応できるのすごいな。俺ならきっと、ぼけっとして、どこ読めば良い?ってしばらくなる。
完全に別の生徒の寝息だと思っていたな。中島が居眠りなんて、珍しい。
眠いから居眠り、徹夜したから居眠り……
夜中小説を書いていたから居眠り!?
どうしてもキュン太さんと中島を結びつけてしまう。
*
その日から小説の更新は止まった。キュン太さんが加筆する気配はないし、俺も続きを書いても良いか迷っていたからだ。
更新が止まって三日経った。放課後、学校の色鮮やかな花壇の前にあるベンチに中島が座っていた。そして頭を抱えていた。
中島、何か悩み事があるのか?
でも直接聞くのもあんまり仲良くないから微妙だなぁ、聞いても無視される可能性もある。中島が悩む内容ってなんだろう。勉強のこと? そういえばこないだ居眠りもしてたしなぁ。体調悪いとか?
中島を遠くから眺めているうちに、とあるアイディアを思いついた! アレを通りすがりに呟いてみよう。あくまで独り言として。こっちが勝手に呟いて通り過ぎるだけなら、無視される可能性はないからこっちのダメージはゼロだ。もし反応されても、餌に引っかかった魚みたいな感じだな。俺はさりげなく中島の方に向かう。そして中島の目の前で歩きながら呟いた。
「と…きめき……掲示…板」
まさに中島に背中を向けた時だった!
立ち上がった中島に、俺はぐいっと腕を引っ張られた。こんなに急に腕を掴まれたことなんてないから、ドキッとする。
「な、なんだよ!」
「ときめき掲示板を知っているのか?」
「あ、いや、その……」
鋭い雰囲気で質問されたから俺は後ろに下がり、中島から離れようとした。だけど強く掴まれていて離れることはできない。じっと見つめられ、その視線からも逃げられなくて俺は正直に頷いた。
「……そうか、ひとつお尋ねしたいことがある」
「な、なんだ?」
俺が小説書いていることか?
中島のスマホにときめき掲示板アイコンがあるのを見た事か?
どちらも聞かれたら返事困るし、少し気まずい雰囲気になりそうだから嫌だな……。
「ときめき掲示板の加筆修正の方法は分かるか?」
「か、加筆修正?」
予想外の答えに拍子抜けして全身の力が抜けた。
「いや、やったことないから分からないけど、ちょっと確認してみる」
俺は鞄からスマホを出すと、ときめき掲示板のアプリを起動した。アプリを隅々確認してみるけれど見当たらない。
「なさそうだな……問い合わせてみたか?」
「いや、問い合わせてはいない。何事もほぼひとりで分析をして解決して生きてきたから、何かを誰かに問うのは苦手だ」
俺はちらっと一瞬、中島に視線を向けた。
中島の弱点、とまではいかないのだろうけど、完璧な中島にも弱い部分があって、同じ人間なんだな――。
「じゃあ、俺が問い合わせてみるか」と、俺は少し得意げになって問い合わせの文章を作成した。
「問い合わせすると、すぐ返事くるのか?」
「ときめき掲示板に問い合わせた事ないから分からないな」
「お手数かけて、申し訳ない」
俺たちは並んでベンチに座った。このふたりが並んで座っている風景は、第三者から見たら少し不思議な感じだろうな。優等生真面目な中島と、不真面目そうな見た目ヤンキーな俺の組み合わせは――。
「運営から返事が来るまでここで待っていたら良いかなぁ。いや、少しだけ待っても来なかったら、明日学校で伝えるわ」
特に話すことはないから、アプリの使用方法をあらためて見直してみた。新たな発見をした。どうやら、書き込む人を固定できる仕組みがあるらしい。これはやるしかないと、俺は、俺とキュン太さんだけが書けるように設定した。これで安心だ。
待っていると運営から返事がきた。優秀なサイトだな。
「中島、もう返事が来たぞ。一回削除して書き直さないとダメらしい」
「……そうか」
「削除する前に残したい部分をコピーして、新しく書くところに貼り付けして続きを書けば良い感じか……」
「新木 陽、ありがとう。感謝する! お手数お掛けした」
中島はわずかに微笑む。さっと立ち上がると、さささっと去っていった。
今回はすぐにお礼を言ったな。普段表情を変えない中島だけど今、うっすらと笑っていた。俺と同じように小説のことを考えると楽しい気持ちになったりするのかな。意外な共通点?なんて考えていると、フワッとあたたかい気持ちになった。
このあとすぐに加筆された小説が読める予感がして、俺はわくわくした。
「さて、俺も帰ろっと!」
立ち上がると背伸びした。輝いている綺麗な夕陽を眺めたあと、俺はスキップしながら帰宅した。そして部屋の中ですぐにときめき掲示板を確認した。
「あっ、途中の削除して新しいの最後まで投稿してる!」
***
【第4話】春木視点 君をもっと知りたい。
塾が終わるとすぐに待ち合わせ場所へ向かう。待ち合わせ時間は二十時に設定したが実際には待ち合わせ時間の三十二分前に着いた。
暗くなった風景の中に〝定食屋 純一郎〟という看板の文字が輝き浮かび上がっている。しばらく文字の下で待っていると「待たせたか、ごめんな!」と君は走ってきた。腕時計を確認すると二十時から四分二十秒過ぎていた。
「時間はしっかり守るように。もしも過ぎるのなら、遅れるのが分かった時点で連絡を入れなさい」
「あぁ、そうだよな。すまないな」
ほんの少し落ち込んだ表情を君は見せてきた。別に自分は怒っているわけではない。待ち合わせ時間の五分前辺りから心配していたのだ。道中何かハプニングなどが起こり、来れない状況に陥ってしまったのではないかと。
何はともあれ無事な姿を確認して安堵した。
ガラガラと音の大きい引き戸をスライドさせると祖母の家のような香りが鼻をくすぐった。こじんまりとして和風な雰囲気はなかなか落ち着く状況だな。
「あらまぁ、今日はお友達と一緒かい?」
およそ四十代ぐらいだと思われる女性が君に話しかける。
「店長、初めて友達を連れてきたぞ!」
と、友達だと?
もう知り合い以上の仲だと君は感じてくれているのか? しかも、初めてだと?
少しだけ変な期待をしてしまう。だが上辺だけの発言の可能性もある。簡単に人間を信用してはならない。
「座れよ、こっちだ!」
「おぅ」
自分は君に着いていく。座敷にあがり向かい合い、それぞれ座布団の上に座った。
「店長、いつもの頼むぜ! 今日は二人分な!」と、メニューを一切見ず、相手に意見も尋ねずに注文する君。
儚げな見た目なのに力強い部分が多くあり、そのギャップが自分の心を引きつける。周りにはなかなかいないタイプだし、できることなら一瞬も目を離さずにずっと見ていたい。
君を無言で見つめていると、注文した料理が来た。
「いやぁ、勝手に注文しちゃったけれど。好き嫌いとかはないか? 大丈夫だったか?」
「あぁ、大丈夫だ。好き嫌いの件に関しては幼少期の勉学プログラムに組み込まれていたからな」
「……勉学プログラムか。とりあえず大丈夫ってことだな?」
「あぁ、そうだ」
「良かった! どうぞ召し上がれ!」
君は自ら調理したかのような態度でそう言った。
「うん、なかなか美味しいな」と感想を軽く口にした。
その時だった!
ふいに見せてきた君の無邪気な笑顔。その笑顔に自分の心臓は射抜かれたのだ。こんなに誰かの笑顔に感情が揺さぶられるなんて経験は今までなかっただろう。
「卵焼きと味噌汁も美味しくてな、三角食べをこなすとより美味さが強調されて飛び出してくるんだ」
「そうなのか。やってみよう」
自分は指示にしたがったふりをして三角食べをした。ふりをしたのは、自分の食事方法は普段も三角食べが基本なので当たり前のようにこなしていたから。
「うん、美味いな!」
「だろ? 特にこの塩昆布のおにぎりがおすすめだ。昆布と海苔はもちろん、お米もツヤツヤしててすごく美味いんだよなぁ。どうしてだろう~」
自分は美味な理由を探す意識を持ちながら米を口に入れた。
「炊く時に塩を入れているな……あとは、そうだなぁ白だし、酢、サラダ油辺りを少々ってところか……」
「正解! よく分かったね」
店長の明るい声が背後からした。振り向くと彼女は腕を組み、ほうっと感心していた。
「すごいぞ。俺、米を炊いたってことしか分からなかったぞ!」
君も感心してくれている。
と、そんな良き雰囲気のまま食事を終えると君は焦りだした。そして叫んだ。
「財布を忘れた!」と。
――忘れ物多いところや猪突猛進なところは変わってないな、あの時から。
そう思うと、ふと自然に笑いが込み上げてきた。
君は記憶になさそうだが――実は自分と君は幼き時、近所に住んでいたんだ。君は唯一、日々話しかけてくれた同級生だった。いや、自分にとっては同級生以上の存在だったが。あの時から君は砂漠の中のオアシスだった。
だが、小学四年生の時にあっさりと遠くに行ってしまった君。幼き頃はかなり遠くへ行ってしまったと考えていたが、実は今こうして再会できる程に近くにいたのだ。物理的な距離は近くにいるが、自分は精神的な部分で、君にとって、もっと近い存在になりたい。それは、ワガママだろうか。
「自分が今回お金を出すから、ひとつ頼みを聞いてほしい」
「頼みか? 分かった。なんでも聞くぞ」
「なんでも、か」
「おう。嘘つかねえ」
「では、自分と付き合いなさい」
君は、なんて答えるのか。
(一度途中まで書いたものを投稿したが、削除した。もしも惑わせてしまったのなら、大変申し訳ない)
投稿者 キュン太
***
おっ! 英語部分がカタカナになってる。オシャレ意識して英語にしたのかなぁと思っていたけれど、眠たくて英語になってたのか? 中島、普段スマホで英語の勉強もしてるから変換予測の一番前に英語ありそうだもんなぁ~。
というか、いきなりそう来たかぁ!!
ふたりは幼なじみだったのか!
しかもこっちは覚えていないのか……。
付き合いなさいと言われたけれど、恋人としてのだよな。なんか、恥ずかしいな。だって、小説の中の春木とだけど、中島と付き合うことを考えてしまう。
というか、普通、ここで終わらせる?
続きは、俺がOKして、どこかに行くパターンだろう。でも、どこへ? この攻め視点を書いているのは、中島でほぼ確定だ。中島と出かけるとしたら、どこへ遊びに行けば良いのだろう。というか、俺は学校では誰かと話をするけれど、その人たちは俺の友達か?と問われれば、はっきりと、うんとは言えないし、学校以外でも会うこともない。友達と遊ばないからよく分からないなぁ。
腕を組み、次の展開を考え込む。そしてひとつの答えにたどり着いた。
――これは、小説だ。中島と俺がこの小説を書いているけれど、俺たちの話ではない。遊びなれているキャラでも良いし、行きたい所へ行けば良いんだ。
と考えながらも実際、こうありたい自分や中島と行きたい場所など、リアルであったら良いなの場面を想像しながら書いていた。
不思議だ。中島と遊ぶ想像をするなんて思わなかったな――。
そして妄想は広がり、無事に第五話は完成した。
「中島が居眠りか。中島、起きて今の続きを読みなさい!」
――中島が居眠り?
驚いた俺は勢いよく後ろを向く。うっすら目を開いた状態の中島が慌てて国語の教科書を開いていた。
「申し訳ございません」と謝るとすらすら音読する中島。すぐに対応できるのすごいな。俺ならきっと、ぼけっとして、どこ読めば良い?ってしばらくなる。
完全に別の生徒の寝息だと思っていたな。中島が居眠りなんて、珍しい。
眠いから居眠り、徹夜したから居眠り……
夜中小説を書いていたから居眠り!?
どうしてもキュン太さんと中島を結びつけてしまう。
*
その日から小説の更新は止まった。キュン太さんが加筆する気配はないし、俺も続きを書いても良いか迷っていたからだ。
更新が止まって三日経った。放課後、学校の色鮮やかな花壇の前にあるベンチに中島が座っていた。そして頭を抱えていた。
中島、何か悩み事があるのか?
でも直接聞くのもあんまり仲良くないから微妙だなぁ、聞いても無視される可能性もある。中島が悩む内容ってなんだろう。勉強のこと? そういえばこないだ居眠りもしてたしなぁ。体調悪いとか?
中島を遠くから眺めているうちに、とあるアイディアを思いついた! アレを通りすがりに呟いてみよう。あくまで独り言として。こっちが勝手に呟いて通り過ぎるだけなら、無視される可能性はないからこっちのダメージはゼロだ。もし反応されても、餌に引っかかった魚みたいな感じだな。俺はさりげなく中島の方に向かう。そして中島の目の前で歩きながら呟いた。
「と…きめき……掲示…板」
まさに中島に背中を向けた時だった!
立ち上がった中島に、俺はぐいっと腕を引っ張られた。こんなに急に腕を掴まれたことなんてないから、ドキッとする。
「な、なんだよ!」
「ときめき掲示板を知っているのか?」
「あ、いや、その……」
鋭い雰囲気で質問されたから俺は後ろに下がり、中島から離れようとした。だけど強く掴まれていて離れることはできない。じっと見つめられ、その視線からも逃げられなくて俺は正直に頷いた。
「……そうか、ひとつお尋ねしたいことがある」
「な、なんだ?」
俺が小説書いていることか?
中島のスマホにときめき掲示板アイコンがあるのを見た事か?
どちらも聞かれたら返事困るし、少し気まずい雰囲気になりそうだから嫌だな……。
「ときめき掲示板の加筆修正の方法は分かるか?」
「か、加筆修正?」
予想外の答えに拍子抜けして全身の力が抜けた。
「いや、やったことないから分からないけど、ちょっと確認してみる」
俺は鞄からスマホを出すと、ときめき掲示板のアプリを起動した。アプリを隅々確認してみるけれど見当たらない。
「なさそうだな……問い合わせてみたか?」
「いや、問い合わせてはいない。何事もほぼひとりで分析をして解決して生きてきたから、何かを誰かに問うのは苦手だ」
俺はちらっと一瞬、中島に視線を向けた。
中島の弱点、とまではいかないのだろうけど、完璧な中島にも弱い部分があって、同じ人間なんだな――。
「じゃあ、俺が問い合わせてみるか」と、俺は少し得意げになって問い合わせの文章を作成した。
「問い合わせすると、すぐ返事くるのか?」
「ときめき掲示板に問い合わせた事ないから分からないな」
「お手数かけて、申し訳ない」
俺たちは並んでベンチに座った。このふたりが並んで座っている風景は、第三者から見たら少し不思議な感じだろうな。優等生真面目な中島と、不真面目そうな見た目ヤンキーな俺の組み合わせは――。
「運営から返事が来るまでここで待っていたら良いかなぁ。いや、少しだけ待っても来なかったら、明日学校で伝えるわ」
特に話すことはないから、アプリの使用方法をあらためて見直してみた。新たな発見をした。どうやら、書き込む人を固定できる仕組みがあるらしい。これはやるしかないと、俺は、俺とキュン太さんだけが書けるように設定した。これで安心だ。
待っていると運営から返事がきた。優秀なサイトだな。
「中島、もう返事が来たぞ。一回削除して書き直さないとダメらしい」
「……そうか」
「削除する前に残したい部分をコピーして、新しく書くところに貼り付けして続きを書けば良い感じか……」
「新木 陽、ありがとう。感謝する! お手数お掛けした」
中島はわずかに微笑む。さっと立ち上がると、さささっと去っていった。
今回はすぐにお礼を言ったな。普段表情を変えない中島だけど今、うっすらと笑っていた。俺と同じように小説のことを考えると楽しい気持ちになったりするのかな。意外な共通点?なんて考えていると、フワッとあたたかい気持ちになった。
このあとすぐに加筆された小説が読める予感がして、俺はわくわくした。
「さて、俺も帰ろっと!」
立ち上がると背伸びした。輝いている綺麗な夕陽を眺めたあと、俺はスキップしながら帰宅した。そして部屋の中ですぐにときめき掲示板を確認した。
「あっ、途中の削除して新しいの最後まで投稿してる!」
***
【第4話】春木視点 君をもっと知りたい。
塾が終わるとすぐに待ち合わせ場所へ向かう。待ち合わせ時間は二十時に設定したが実際には待ち合わせ時間の三十二分前に着いた。
暗くなった風景の中に〝定食屋 純一郎〟という看板の文字が輝き浮かび上がっている。しばらく文字の下で待っていると「待たせたか、ごめんな!」と君は走ってきた。腕時計を確認すると二十時から四分二十秒過ぎていた。
「時間はしっかり守るように。もしも過ぎるのなら、遅れるのが分かった時点で連絡を入れなさい」
「あぁ、そうだよな。すまないな」
ほんの少し落ち込んだ表情を君は見せてきた。別に自分は怒っているわけではない。待ち合わせ時間の五分前辺りから心配していたのだ。道中何かハプニングなどが起こり、来れない状況に陥ってしまったのではないかと。
何はともあれ無事な姿を確認して安堵した。
ガラガラと音の大きい引き戸をスライドさせると祖母の家のような香りが鼻をくすぐった。こじんまりとして和風な雰囲気はなかなか落ち着く状況だな。
「あらまぁ、今日はお友達と一緒かい?」
およそ四十代ぐらいだと思われる女性が君に話しかける。
「店長、初めて友達を連れてきたぞ!」
と、友達だと?
もう知り合い以上の仲だと君は感じてくれているのか? しかも、初めてだと?
少しだけ変な期待をしてしまう。だが上辺だけの発言の可能性もある。簡単に人間を信用してはならない。
「座れよ、こっちだ!」
「おぅ」
自分は君に着いていく。座敷にあがり向かい合い、それぞれ座布団の上に座った。
「店長、いつもの頼むぜ! 今日は二人分な!」と、メニューを一切見ず、相手に意見も尋ねずに注文する君。
儚げな見た目なのに力強い部分が多くあり、そのギャップが自分の心を引きつける。周りにはなかなかいないタイプだし、できることなら一瞬も目を離さずにずっと見ていたい。
君を無言で見つめていると、注文した料理が来た。
「いやぁ、勝手に注文しちゃったけれど。好き嫌いとかはないか? 大丈夫だったか?」
「あぁ、大丈夫だ。好き嫌いの件に関しては幼少期の勉学プログラムに組み込まれていたからな」
「……勉学プログラムか。とりあえず大丈夫ってことだな?」
「あぁ、そうだ」
「良かった! どうぞ召し上がれ!」
君は自ら調理したかのような態度でそう言った。
「うん、なかなか美味しいな」と感想を軽く口にした。
その時だった!
ふいに見せてきた君の無邪気な笑顔。その笑顔に自分の心臓は射抜かれたのだ。こんなに誰かの笑顔に感情が揺さぶられるなんて経験は今までなかっただろう。
「卵焼きと味噌汁も美味しくてな、三角食べをこなすとより美味さが強調されて飛び出してくるんだ」
「そうなのか。やってみよう」
自分は指示にしたがったふりをして三角食べをした。ふりをしたのは、自分の食事方法は普段も三角食べが基本なので当たり前のようにこなしていたから。
「うん、美味いな!」
「だろ? 特にこの塩昆布のおにぎりがおすすめだ。昆布と海苔はもちろん、お米もツヤツヤしててすごく美味いんだよなぁ。どうしてだろう~」
自分は美味な理由を探す意識を持ちながら米を口に入れた。
「炊く時に塩を入れているな……あとは、そうだなぁ白だし、酢、サラダ油辺りを少々ってところか……」
「正解! よく分かったね」
店長の明るい声が背後からした。振り向くと彼女は腕を組み、ほうっと感心していた。
「すごいぞ。俺、米を炊いたってことしか分からなかったぞ!」
君も感心してくれている。
と、そんな良き雰囲気のまま食事を終えると君は焦りだした。そして叫んだ。
「財布を忘れた!」と。
――忘れ物多いところや猪突猛進なところは変わってないな、あの時から。
そう思うと、ふと自然に笑いが込み上げてきた。
君は記憶になさそうだが――実は自分と君は幼き時、近所に住んでいたんだ。君は唯一、日々話しかけてくれた同級生だった。いや、自分にとっては同級生以上の存在だったが。あの時から君は砂漠の中のオアシスだった。
だが、小学四年生の時にあっさりと遠くに行ってしまった君。幼き頃はかなり遠くへ行ってしまったと考えていたが、実は今こうして再会できる程に近くにいたのだ。物理的な距離は近くにいるが、自分は精神的な部分で、君にとって、もっと近い存在になりたい。それは、ワガママだろうか。
「自分が今回お金を出すから、ひとつ頼みを聞いてほしい」
「頼みか? 分かった。なんでも聞くぞ」
「なんでも、か」
「おう。嘘つかねえ」
「では、自分と付き合いなさい」
君は、なんて答えるのか。
(一度途中まで書いたものを投稿したが、削除した。もしも惑わせてしまったのなら、大変申し訳ない)
投稿者 キュン太
***
おっ! 英語部分がカタカナになってる。オシャレ意識して英語にしたのかなぁと思っていたけれど、眠たくて英語になってたのか? 中島、普段スマホで英語の勉強もしてるから変換予測の一番前に英語ありそうだもんなぁ~。
というか、いきなりそう来たかぁ!!
ふたりは幼なじみだったのか!
しかもこっちは覚えていないのか……。
付き合いなさいと言われたけれど、恋人としてのだよな。なんか、恥ずかしいな。だって、小説の中の春木とだけど、中島と付き合うことを考えてしまう。
というか、普通、ここで終わらせる?
続きは、俺がOKして、どこかに行くパターンだろう。でも、どこへ? この攻め視点を書いているのは、中島でほぼ確定だ。中島と出かけるとしたら、どこへ遊びに行けば良いのだろう。というか、俺は学校では誰かと話をするけれど、その人たちは俺の友達か?と問われれば、はっきりと、うんとは言えないし、学校以外でも会うこともない。友達と遊ばないからよく分からないなぁ。
腕を組み、次の展開を考え込む。そしてひとつの答えにたどり着いた。
――これは、小説だ。中島と俺がこの小説を書いているけれど、俺たちの話ではない。遊びなれているキャラでも良いし、行きたい所へ行けば良いんだ。
と考えながらも実際、こうありたい自分や中島と行きたい場所など、リアルであったら良いなの場面を想像しながら書いていた。
不思議だ。中島と遊ぶ想像をするなんて思わなかったな――。
そして妄想は広がり、無事に第五話は完成した。



