朝、鳥の鳴き声で目を覚ました。
窓を開けると冷たい空気が頬をかすめる。

そのとき、玄関のほうで小さな音がした。

振り返ると、三毛猫がするりと部屋に入ってきた。

「……帰ってきたの?」

思わず声が震える。
三毛猫は立ち止まり、まっすぐこちらを見つめた。

しゃがむと、三毛猫はゆっくりと近づき、足元で静かに止まった。

「心配したよ。」

三毛猫はゆっくり瞬いた。
その仕草は、「ただいま」と「ごめんね」を同時に告げているようだった。

――

部屋を一周した三毛猫は、いつもの窓辺に落ち着いた。
差し込む朝の光に包まれ、小さな背中が柔らかく揺れている。

わたしは猫缶を開け、皿をそっと置いた。
三毛猫は匂いを確かめ、ゆっくりと食べはじめる。

その姿を見つめながらコーヒーを淹れると、湯気までどこか温かく感じられた。

――

食事を終えた三毛猫はわたしの隣に座る。
手を伸ばすと逃げなかった。
柔らかな毛並みが、胸の奥の「ほころび」をそっと縫うように温かかった。

――

午後、ベランダに出た三毛猫は手すりに座り、風を受けていた。
わたしもその隣に立ち、同じ方向を眺める。

「戻ってきてくれて、ありがとう。」

三毛猫はちらりとこちらを見て、静かに目を閉じた。
その横顔が、どこか頼もしかった。

――

夕方、ソファで本を読んでいると、三毛猫が膝に乗ってきた。
そのまま丸くなり、小さく喉を鳴らす。

そっと撫でると、三毛猫は安心したように身を預けてきた。
胸の奥に温かな波が静かに広がっていく。

「ありがとう。」

涙が落ちた。
でも、それはもう悲しさの涙ではなかった。

――

夜、布団に入ると、三毛猫は足元にやってきた。
そして迷うような一瞬のあと、枕元まで歩いてきて、顔の横で丸くなった。

「一緒に寝てくれるの?」

三毛猫は目を細めた。
それだけで十分だった。

触れた指先から、静かな温かさが胸の奥へ染み込んでいく。

――

「完璧じゃなくてもいいんだね。」

つぶやくと、三毛猫は小さく喉を鳴らした。

距離があってもいい。
いつも一緒でなくてもいい。
無理に頑張らなくてもいい。

ただ、そこにいてくれる。
それだけで、心は少しずつ温まっていく。

三毛猫は、壊れた心をそっと抱き直してくれた。

――

朝、目を覚ますと、三毛猫はまだ枕元にいた。
ゆっくりと瞬きを返してくれる。

「おはよう。」

その小さな返事が、胸の奥をそっと照らした。

わたしは窓を開けた。
冷たい空気が新しい一日を知らせる。

三毛猫は窓辺へ歩いていき、外を見つめる。
その背中が、今日はいつもより頼もしく見えた。

「今日も、一緒にいてくれる?」

三毛猫は振り返り、静かに目を細めた。

――

コーヒーを淹れる音。
差し込む光の筋。
三毛猫の小さな足音。

そのすべてが、今日は少しだけ温かい。

胸の奥の「ほころび」は、まだ完全には癒えていない。
でも、それでいい。

一針ずつ、ゆっくり縫い合わせていけばいい。
焦らなくていい。
無理しなくていい。

小さな三毛猫が、そう教えてくれた。

――

わたしは窓辺に座り、三毛猫の隣で外を眺めた。
遠くの山並みが静かな朝の光に包まれている。

「ありがとう。」

つぶやくと、三毛猫はちらりとこちらを見て、また目を閉じた。

風が通り抜け、カーテンがやわらかく揺れる。
その音が、今日はとても優しく聞こえた。

小さな三毛猫がくれたのは、壊れた心をそっと抱き直すための、静かな再生の時間だった。

糸を一針ずつ戻していくようなその時間は、これからもきっと、静かに続いていく。