「先輩」
「お前、なんでここに」

 片付けを終えて用具庫の扉を閉めた瞬間、後ろから声をかけられた。
 体育館の扉を開けっぱなしにしていたから、遠くから見ても俺だとわかったのだろうか。
 大吉創は手を小さく振りながら、俺の方に近づいてくる。

「俺のこと考えてたでしょ?」
「……っ!」

 そう言われるとカァっと頬が熱くなる。
 恥ずかしい。なんなんだそれは。
 目も合わせられない。

「あの時、いきなり描きたいなんていってすみませんでした」
「……え?」
 唐突な謝罪。
 申し訳なさがひしひしと伝わってくる。
 背の高いコイツが、深々と頭を下げている姿は誠意を感じた。

「いや、別にそんな大袈裟な……」
「俺、ここに転校して満さんに再会できると思っていなかったんです。でも、東くんからバレー部の話を聞いて勢いのまま……」
「あぁそう」

 東は面倒見がいい真面目なタイプだからな。
 こんな恵まれた体格のヤツが転校してきたら、部活に勧誘したくなる気持ちもわかる。
 いろいろ教えていたんだろう。

「ゆっくり話したいです。ちゃんと全部。先輩がもし話を聞きたければ美術室に来てくれませんか」

 大吉創は柔らかく微笑む。
 気がつくと俺は美術室の扉の向こうにいた。