「先輩を、描きたいんです。描かせてくれませんか?」
「は?」

 どういうことだ?
 俺を描く? 描くって、絵を?
 なぜ俺を?
 頭の中がぐちゃぐちゃして何も考えられない。

「わけがわからん……しかも俺、今日部活が──」
「今日、休みですよね」
「えっ」
「同じクラスの東くんから聞きました」

 俺はふと教室の後ろにあるカレンダーに目をやった。
 たしかに今日は火曜日だった。
 火曜日は全部活動が休みの日である。

「わりぃ。他を当たってくれ」

 そろそろ女子からの羨むような妬むような視線が突き刺さってきて居心地が悪い。
 俺はそんな空間から早く抜け出そうと急いで廊下に出る。
 
「ダメです。……俺が描きたいのは、先輩ですから」

 逃げるように教室を出たのを追いかけてきて、大吉創はガシッと俺の手首を掴む。
 さっきまでとは違う声。
 低くて静かで、妙に重いような気がした。
 若干、威圧感もある。

「ねぇ満さん。俺、ずっとあなたを探してたんですよ」

 不平等だ。
 こういうヤツは人の心を簡単に掻き乱す。

「……俺はお前のこと知らねぇよ」
「満さんが知らなくても、俺は知ってますから」
「ワケわかんねぇよ……お前、一体……」

 俺はまだ知らない。
 大吉創が小学生の頃からずっと俺を探していたなんて、そんな面倒くさい真実を。