放課後になり、僕は桂のクラスへと向かった。とにかく会って話がしたい。けれど桂の住所がわからないため、クラスメイトから聞き出せないかと考えたのだ。
 絶対怪しい人だと思われるし、後輩とはいえ知らない人に話しかけようとするなんて僕にとっては前代未聞の出来事だった。でも、なりふり構っていられない。

 桂のクラスに到着し中を覗き込むと、もう半分ほどの生徒がいなくなっていた。桂の友だちらしき人を捕まえたいけど、金髪は……桂くらいなんだよなぁ。
 しかし茶髪やピアスをした派手そうな男子の三人グループが、入り口から近くの席でだべっている。

「今から桂んとこ行く? あいつついに謹慎とかやっちまったな~」
「いこーぜ! 先輩のためとか、あいつもやるな」
「揶揄いがいのあるやつだよほんと。桂んち、間違いなくちびっ子たちが突撃してくるけど……」
「あはは、毎回子守になるよな。可愛いけど」
「……あああああの!」

 立ち聞きは申し訳ないと思いつつ、明らかに桂の名前が聞こえてきたため耳をダンボにしてしまった。彼らが桂の家を知ってるという確信を得て、僕は震える声を絞り出した。

 三人の輪の後ろから話しかけると、振り返った一人が「うおっ」と飛び上がる。驚かせてしまった申し訳なさと緊張で、僕はなかなか伏せた目を上げられなかった。

「え。もしかして、桂の推し……?」
「えぇっ。桂が絶対に見せたがらない、例の先輩じゃね……? ちっこくて白いし」
「えええ! 確信が持てねー。ていうか誰、ですか!」
「ど、どういうこと? ……あの、三廻部純那といいます。桂とはお昼によく話してて……もしよかったら、桂の家に僕も連れてってくれませんか!」

 一人一人が呟いた言葉の意味はよく分からなかったけど、誰かという問いには簡潔に答えておく。その勢いで目的だった頼み事までしてしまった。

 コミュ障ゆえに変に声が大きくなってしまう。とはいえ断られたら困る。もしそうなったら、三人を尾行するくらいの気持ちだぞ……!
 自分が変な方向に暴走しはじめているのは分かっていても、止められない。

「き、キター! ……ごほん、もちろんお連れしましょうみくるべ先輩」
「いいの……? ありがとう!」
「あっキラキラしてる……」
「小動物っぽい……」
「???」

 反応が不思議だったものの、もしかすると桂が僕のことを友だちに話していたのかもしれない。いつも昼に桂を独占してしまっているし。
 とにかく三人は快諾してくれて、僕はやっとみんなの目を見てお礼を言うことができたのだった。
 勇気を出して、よかった……!