窓際の席から校門の方を見下ろしていると、流れ星のように明るい金色が視界に入ってきた。

(うわっ……森苑(もりぞの)(けい)。もう昼近いのに、ヤンキーだな~)

 その男は有名人だから、一学年下の二年生だと僕は知っていた。うちの高校はわりと自由な校風だとはいえ、金髪はやりすぎだし遅刻は怒られる。

 一年はよく知らないけど二、三年の中では突き抜けて自由人で遊び人なのが森苑桂という男だった。
 校内で派手なことをしたとは聞かないけれど、美形だから余計に目立つ。だからこそ大目に見られているような気もする。

 授業がもう四限目を迎えていることとか、小雨が降っていることとか、全く気にしていないんだろう。長い脚で悠々と歩いている姿が彼の自由さを象徴しているようで、なんだか眩しい。

(え! スマホ見て笑った……!)

 もう校舎の近くにいるから、森苑が一人で口角を上げたのがよく見えた。見ているのが僕だけだなんてもったいないほど幸せそうな表情だ。
 外に何人もいるという彼女から連絡が来たのか? ていうか森苑ってあんな顔で笑うんだ……

「……さん、三廻部(みくるべ)さん? 次の段落を読んでください」
「あ。ぇえっと……」

 意識が完全に窓の外だった僕は、教師に当てられて慌てて教科書をぱらぱらとめくる。長くなりすぎた前髪が視界を遮ってきた。

「三廻部さーん……あれ、お休みだった? じゃあ、代わりに宮元さん、読んでくれる?」
「ぁっ、ぃ、います……」

 吹奏楽部の宮元さんが斜め後ろから聞こえるほどのため息を吐いて(管楽器で鍛えられた肺活量だ)、僕を睨む。見なくても視線が背中に突き刺さっているのを感じ、僕は先生に向けて小さく手を上げた。

「ああ、いるんじゃない。はい、じゃあどうぞ」
「……ぁの、どこからでしたっけ……」

 目尻の吊り上がった眼鏡をかけた教師は五秒間たっぷり間を置いてから、読み上げる場所を教えてくれた。ぼうっとしていた自分のせいなので、ただただ申し訳ない。

 ぼそぼそと小さな声で教科書を読み上げる僕は地味かつコミュ障で、クラスの中でも最低の存在感を誇る。さっき見た森苑とは真逆だ。
 高校三年に上がってもう二ヶ月経つけれど、三廻部純那(じゅんな)と話したことのないクラスメイトの方が多いんじゃないかと思う。

 別にいいんだ、これで二年間やってきたし。楽しいことはちゃんとあるから、学校生活は義務としてただ過ぎ去るのを待つのみだ。