「よしよ〜し!両親が金持ちでラッキー!ラッキー!悪役は、総じてハイスペックで金持ちなもんだ。それに感謝して、レモンパイを食べよう。」

門の柵を両手で掴み、顔を突っ込んで開けろアピールをする俺を見て、光輝はまた腹を抱えて笑っていた。
そして直ぐに門の横にあるバーコードリーダーの様な装置にカードを翳すと、直ぐに俺の隣に来て、二人で柵にしがみつく。

────ガチャンッ!!……ウィィィィ〜ン………。

すると、直ぐに門が内側に向かい開き出したので、その門にしがみついている俺達も一緒に動いていった。
ちょっとしたアトラクション気分が味わえるこの自動ドアの様な門は、俺の大のお気に入り!
光輝の家の楽しめるモノランキングの上位に、堂々と入っている。

「────よし!じゃあ、家に突入だ!行くぞ!我が配下よ!」

「うん!分かった!」

そのままダッ!と走り出すと、玄関までの石造りの道の中で色が少し違う石のみを踏んで進んで行った。

光輝の家は、めちゃくちゃ広くて庭も広いから、工夫次第で遊べるモノが多いため、昔はよくソレを探しては楽しんだものだ。
挙句の果てには、『ここを悪の秘密基地にしようぜ!』と言っては、色んな所に葉っぱとか新聞紙とかで基地らしきモノを作り、雨が降って壊れて泣いて、それも楽しかった。

『いつか本物の家を一緒に作ろう。』

基地が壊れて泣く俺を、いつもそう言っては慰めてくれた光輝。
家じゃなくて基地だ!と思ったが、それ以上に慰めてくれた事が嬉しくて「作る!!」と何度も頷いていた。

「……あぁ〜。」

玄関の扉の前に到着すると、また気がつけばこうして光輝を巻き込んでいる事を反省する。

こんなアホな事に、もう光輝を付き合わせるのを止めようと思っているのに……。

同じく色の違う石床の道を踏んで飛んできた光輝を見て頭を抱えていると、不思議そうな顔をした光輝が扉を開けて中に入れてくれた。

「あら、坊っちゃんお帰りなさい。それに黒井君も、こんにちは。」

「あ、笠井さん、こんにちは〜!」

俺達に手を振るのは、おっとりしてて笑顔が可愛い白髪のおばあちゃん。
この人は、長年この家の家政夫を務めている笠井さんだ。

笠井さんは、この家の家事全般をしてくれており、料理もちゃんと1日分用意して作り置きしておいてくれる。
ちなみに、よくこの家に遊びにくる俺とは当然の様に顔見知りなので、こうして顔を合わせれば挨拶したり、少し雑談したりする仲である。

「今日はハンバーグを多めに作っておいたから、二人で食べてちょうだいね。サラダも置いてあるから、小分けにして食べるのよ。」

「いつもありがとうございます!」

ハンバーグと聞いて、わっ!と喜ぶ俺とは正反対に、光輝は随分と冷めた様子で「ありがとうございます。」とお礼を告げていた。
どうやら光輝は、クールなキャラに憧れを持っている様で、高確率でこんな感じの冷めた態度を取る。
だから、学校では『氷の〜』みたいな、どっかの漫画やゲームで聞いた事ある様な……?というニックネームをつけられている様だ。

俺といる時は、結構ふざけているのに……。

さっきの門にしがみついたり、色の違う石を踏んで遊んだりしていた姿を思い浮かべると……とてもじゃないけど、氷のなんちゃらとかいうニックネームは浮かばない。

「では、私はこれで……。明日も、坊っちゃん達がいない間に、作り置きとお掃除をしておきますからね。」

光輝のクールな態度に慣れている笠井さんは、特に気にする様子もなくニコニコと笑いながら帰っていった。
両手を大きく振りながらお見送りした後、俺はツンツン僕ちゃんになっている光輝の腹を突っつく。

「とりあえずレモンパイ食べよう!それから宿題やっちまおうぜ〜。特進クラスの方も宿題出たんだろ?」

「うん。」

光輝は、さっきのクールはどこへやら……コロッと態度が変わり、ご機嫌で頷いた。

俺達の高校は、入学時の成績順で一年生からクラスが別れる。
成績上位者約30人程で形成されるクラスは【特進クラス】で、首席で合格した光輝は、勿論このクラスに在籍中。

そして殆どの生徒たちが在籍しているのが【一般クラス】。
俺や中野が在籍しているクラスはココで、その中でも落第点を取り続ける補習組達は、【精進クラス】という、勉強頑張ろうね!というクラスに入れられる。

平均を取り続ける俺は、必死に努力してその地位を獲得しているため、努力を怠るとあっという間に精進クラスへと落ちるだろう。
だから、宿題と復習は人一倍頑張りたい。
そのため、こうして頭が良い光輝に教えてもらえるチャンスは逃さず、遊ぶ前に一緒に勉強をするのが日課だ。
キラッ!と目を輝かすと、光輝は笑顔のまま俺の背負っているバックを下ろして中から宿題のプリントを取り出す。

「数学と科学か、ちょうどよかった。影太用にノート作っておいたから、それを見ながら勉強しようか。」

「マジか!うわぁ〜いつもありがとう!」

光輝はこうして頭の悪い俺に合わせて、めちゃくちゃ分かりやすいノートを作ってくれるのだ。
本当に頭が上がらない!
喜ぶ俺を見て、光輝は俺の肩を抱き、自分の方へと抱き寄せた。

「その代わり、今日は耳かきといい子いい子して欲しいかな。」

耳元でボソボソ喋られて、擽ったくて光輝の顔を押し返す。

「耳元で喋られると擽ったいから止めろよな……。別に全然構わないけど、いつも思うけどそんなんでいいのか?」

申し訳なくてそう言ったが、光輝はいつもと同じく首を横に振った。

「俺はそれがいい。……だから、またバイトするとか、もう言わないでね。」

光輝の顔を押し返している手を握り、困った様に眉を下げるのを見て、バレない様にため息をついてしまう。