【完結】今日もいつも通りです。〜影太君と光輝君サイドより〜

聞くに耐えない暴言の数々に、皆の視線は、舞台にいる花園さんと女性参加者……つまり映像に映っているマネージャー達へ視線が向かう。
全員汗をダラダラ垂らしている事から、間違いなく本人である様だ。

「ち、ちがっ……っ。」

《ねぇ〜凛、あの黒井ってやつを陥れるの?いつものやり方で?》

花園さんが何か言いかけたその瞬間、映像の中で一人のマネージャーが同じく映っている花園さんに尋ねた。
すると、その映像の中の花園さんはニヤッと悪い顔をして笑う。

《あったり前じゃ〜ん。男って馬鹿だからニッコリ笑えば簡単に動いてくれるんだから。
特にブサイクなゴミ三軍達なんて、奴隷よ奴隷。
好きに動かして使えるから役に立つよね〜。ありがと♡って言えば、なんでも言う事聞くんだから。
特進クラスのキープ君&便利君達の方は泣き落としでもして、派手に動いてもらおうかな〜?》

《ホント凛ってば、悪い女〜!それで何人陥れてきたの〜?》

クスクス笑う花園さんを、マネージャーの一人が軽く叩き全員で笑うと、花園さんが唇を尖らせて言った。

《ん〜覚えてないよ〜。だって別に退屈しのぎにやっただけだしぃ〜。
まぁ、調子に乗ったブスやブサ男には、いい薬になったんじゃない?世の中の正しさを学べて良かったね♡って言いたい。
っていうか〜アンタ達も皆、ソレ見て楽しんでたでしょ〜?何日耐えられるか掛けてたじゃん!》

”キャハハハ〜!!”

花園さんと女子マネ達の甲高い笑い声が響く中……さっきまであれだけ騒いでいた特進クラスの男子生徒達は、一言も喋らず真っ白になっていた。
哀れとしか言いようがなかったので合掌しておくと、観客席から突然怒号が飛ぶ。

「ふざけるなよ!お前らは今日限りでマネージャーを止めてもらうからな!
真剣に頑張るバスケ部全員を馬鹿にしやがってっ!!」

怒りのまま怒鳴り散らしたのは、バスケ部部長の空松さんだ。
空松さんは、今まで見たことがないくらい怒っているので、花園さん達は完全に恐怖し青ざめている様だ。
そしてそんな空松さんに続けと、他の部員の一部達も騒ぎ出す。

「最低なんだよ、やることが。恋愛ごっこにバスケ部を巻き込むな!」

「真面目に来てくれようとしていた女子マネ候補達にも、嫌がらせもしてたんだってな!」

「そ、そんな事……っ。」

花園さん達は必死に言い訳しようとしたが、直ぐに光輝の映像の中の彼女達が、その証拠となる様な会話を続けており、とてもじゃないが否定する事もできない。
ワナワナ震えていた花園さん達は、直ぐに映像を流している国丸さんや紗良さんを睨みつけた。

「先輩達は生徒会でしょっ!?こんな事を学校の代表達がしてもいいんですか!?大問題になりますよ!」

「そ、そうよそうよっ!!ふっざけんなよ!生徒会のくせにっ!」

花園さん達はターゲットを変えてギャーギャーと文句を言ったが、国丸さんと紗良さんは、それを鼻で笑う。

「学校の風紀を正すのも生徒会の仕事なんでな。そもそも、この大会だって女子参加者に対して色々嫌がらせや脅しの様な行為をしていたんだろう?
今までも多少なりとも噂を聞いてはいたが、これほどとは……。」

「直前に日野君にこの映像を見せられてね、驚いちゃった〜。
それまでは真面目に仕事しない尻軽頭花畑女だと思っていたけど、ただのクズ女だったって事ね。ザマァみなさい、ば〜か!」

「ぐぐぅ……っ!!」

国丸さんは眼鏡の奥で目を光らせ静かに怒り、紗良さんは分かりやすく怒りを表に出して高笑いした。
黙ったまま真っ青な顔で立ち尽くしている花園さんと女性参加者達に向かい、光輝は指を差して笑う。

「そもそも、役に立つとか立たないとかで人を使っているの、そっちだよね。────あ、もしかして自分の心配でもしていたのかな?」

「あ……そ、それは……。あ、あの……。」

流石の花園さんも、この証拠を前には何も言えない様で……。
更に映像は、特進クラスの男子達が集団で特定の男性生徒や女子生徒達の悪口を言い回っている映像や、私物を盗んで池に捨てたりする映像まで流れた。
それには固まっていた特進クラスの男子生徒達も、真っ青に青ざめていく。

「あ〜らら。御大層に語る『正義』は、こ〜んな事までしちゃうんだ?
凄く暴力的で支配的な世界だね。俺、こんな怖い所に行きたくないなぁ。」

光輝はそれはそれは楽しそうに笑っていて……ちょっと心配になるくらいだ。

「おい、光輝。」

気がつけば光輝の腕を掴んでいて、なんとなく自分の背の後ろへとその体を放り投げた。
突然俺の背中を見させられた光輝は、ビックリした様だが、俺は親指でビシッと自分の胸を指す。

「俺の役目を取るなよ。ヒーロー共を追い詰めて笑うのは、魔王様の大事な大事な見せ所なんだから、配下は後ろで控えめに笑うもんだ。分かったか?」

ちょっとかっこよさげに言ってやると、光輝は一瞬目を見開いた後────「……うん。」と言って、いつも通りの優しげな顔で笑った。

光輝って、意外に演技スイッチ入ると、ぶっ飛んじゃうんだな〜。気をつけよう!
なんでもできる光輝は、演劇までチート級ときた!

頭の中に、ガラスのお面的なモノを被っている、演技の天才少女の漫画が過ったその瞬間────突然観客席の方から叫ぶ様な声が至る所で上がり始める。

「私もこの花園さんや参加している女子達に、嫌がらせをされました!!嘘ばっかりつかれて、私物も盗まれました!!」

「私も!誰にも言うなって脅されました!!」

「俺も『三軍程度のゴミが、何を言っても誰も信じないからね』って……。その後、ストーカーだのなんだのって言われて……俺はそんな事してない!!」

ワーワー!と騒ぎ始めたのは、被害にあったらしい生徒達で、なんと手に持っていた大会案内が書かれていた紙を丸めて、舞台へと投げ始めた。
すると、周りの生徒達も今の映像が決め手となり、怒り心頭な様子で怒鳴り始める。

「ふざけんなぁぁぁ!今まで全部ウソついてたって事かよ!」

「最低だな!クソ女にクズ男共!お前ら全員、地獄に落ちろぉぉ!」

そうして全員が丸めた紙を花園さんや女子参加者、特進クラスの男たちへと投げつけると、たまらずそいつらは悲鳴をあげた。

「……なっ!!ちょっ!!止めてよ!!」

「クソっ調子に乗んなよ!この三軍共!別にいいじゃん!!この私達が話しかけてやったんだから!」

全然反省してない様子の花園さん達に、更に全員の怒りが向かうが……何故か携帯をポチポチ押していた光輝が「あ……。」と悲しげな様子で花園さん達を見た。

「なんか間違って、さっきのと今の様子、配信しちゃったみたい。ちゃんと目元には黒いモザイク掛かっているから大丈夫だと思うけど……ごめんね?」

「「「「は、はぁぁぁぁぁぁぁ!!???」」」」

とんでもないことをした光輝に、花園さん達の顔は今まで見たことがないくらい歪んでいる。
そして、直ぐにピコンピコンと通知音が止まらない光輝の携帯に嫌な予感がして、花園さん達も俺も慌てて携帯を見てみた。

「え、炎上している……。」

某情報アプリにて配信された映像は一気に炎上してしまっている様で、一応目元にモザイクが掛かっているが、コメントには『この集団見たことあります!ファミレスで凄い煩かったよ。』『俺も電車で見たことある!なんか悪口で盛り上がってて不快だったから覚えてる!』とさらなる悪評まで書き込まれている様だ。

「消して……消してよぉぉぉ!」

大激怒する花園さんを前に、俺の後ろにいる光輝は動じる事なく、冷静に動画を消して「ごめん、ごめん。」と全然心がこもってない様子で言っていた。
顔を真っ赤に染めた花園さん達は、そのまま光輝……ではなく、俺を睨みつけていたが、突然体育館の入口から駆け込んできた岩田先生の姿を見て顔色をまた変える。

「お〜い。見てたからな、今の全部。
お前ら、馬鹿か?何やってんだよ、本当に……。今まで来ていた苦情は全部正しかったって証明されちまったな。」

「────なっ!!ち、ちがっ……!!」

花園さんが鼻息荒く先生に言い訳しようとしたが、周りの生徒達が一斉に騒ぎ出す。

「先生!証拠もありま〜す!今のやり取り、俺動画でとってました〜!」

「コイツら全員、グルで〜す!」

「〜〜……っ!!!〜……っ!!」

画像をいち早く保存したらしい生徒たちが携帯を大きく振りながら叫ぶと、岩田先生はハァ……と大きなため息をついた。

「これは校内の虐め問題として認知したからな。
お前ら全員、一旦自宅謹慎。これから上と相談して処罰を決めっから。」

「そ、そんな……っ!」

「推薦は……推薦はどうなるんですか!!」

今年三年生である特進クラスの男子生徒達は必死で訴えたが、岩田先生はグワッ!と鬼の形相で怒鳴りつける。

「馬鹿野郎っ!!こんなクソみたいな事やったヤツを学校の顔をして推薦するわけねぇだろうがっ!!」

「────ヒッ!!」

「そ、そんにゃ〜……。」

特進クラスの男子生徒達は、肩を大きく落とし、その場に崩れ去った。
そして周囲の冷たい視線に晒された花園さん達も、その場でヘナヘナ〜と尻もちをつくと、観客席からはワッ!と大きな歓声が上がったのだった。


◇◇◇
「あ〜すごかったな!俺、あんな大舞台で悪役やったの初めてだ。ありがとう。」

思いがけないラッキーチャンスを貰い、ルンルンと鼻歌まじりで光輝と一緒に帰り道を歩く。
平凡男子高校生が、こんな大舞台に立てた事は幸運だと思ったし、それを体験させてくれた光輝には感謝している。
そのため隣を歩く光輝を見上げお礼を言うと、光輝はクスクス笑いながら「どういたしまして。」と返事をしてくれた。

「……ヘヘッ。」

嬉しさを滲ませ笑うと、光輝から視線を逸らし前を向く。
実は俺がこんなにも上機嫌なのは、さっき光輝が言ってくれたセリフにある。

『だって俺は、魔王様に従う最強の四天王、死者を操る不死の騎士団長だから。』

『俺は、死ぬまでそう在り続けるよ。一生ね。』

『だから影太と俺は一生を共にする仲間。』

ハッキリと告げてくれた想いが、俺は凄く嬉しかった。

光輝はどこへだって行けるし、もっといい場所は探せば沢山あるのに……俺との仲を大事にしてくれていたのだ。
そんなの嬉しいに決まっている!

「光輝は不死の騎士団長、俺は魔王!今はそれが、一番楽しいよな。」

そんな関係がいつまで続くかは分からない。
だけど、少なくとも今は……俺も光輝もこのままの関係がいいと思っているのだから、俺達はこのままでいいんだ。

嬉しくて嬉しくて笑っていると、光輝は人通りの少ない脇道で突然ピタリと止まり、俺の頬へ手を伸ばす。

「結構強く叩かれてたけど、平気?」

「叩かれ……??────あ、もしかして花園さんのビンタの事??」

なぜそれを知っているのか疑問だったが、光輝は無表情のまま、随分と冷たい空気を垂れ流し始めた。

「あのクソ女……あれじゃあ、手ぬるかったかな?────もっと苦しめて……。」

「わー!!何言ってんだよ、馬鹿野郎!」

ズンズン!と氷点下へと下がっていく光輝の空気に焦り、頬に触れていた手をギュッと握ると、光輝は落ち着くためか、小さく息を吐き出す。

「……影太はきっと仕返しなんて考えない。だから俺がしてやるだけだよ。
あのエセヒーロー共を、このまま完膚なきまでに追い詰めたい。」

「止めとけって〜。魔王たるもの、小さき小物に執着しては名がすたるってもんだ。
アイツらにとって随分な痛手になったみたいだから、もういいじゃん!
いや〜ホント、めちゃくちゃ盛り上がったよな、さっきは!全部光輝のお陰だ。」

あの後、全員岩田先生に連れてかれた花園さん達は、きっとこれから親の呼び出しと共にみっちり怒られる上、三年生は全員推薦を外され、それ以外も今後推薦は貰えないと思われる。
更にあんな動画が流されてしまえば、この学校では誰も二度と信じてもらえないし、そうなれば今までの様に嫌がらせもできなくなる。
そして、もっと最悪な事に、あの大会は他校の学生達も見学していた。
つまり────この出来事は、この学校だけに留まらず、尾ひれ背びれがついた酷い噂となって広がっていく事だろう。

花園さん達、他校にも人気があったから、これは相当な痛手なんじゃないかな〜。

それを考えるとスッキリするくらいには、俺も花園さん達に対して嫌だという感情があったらしい。
ウチの大事な相棒も、毒牙に掛かる所だったんだし……ちょっとくらいザマァ見ろって思ってもいいよな!自分じゃ何もしてないけど!

ニヤ〜と意地悪く笑っていると、光輝は嬉しそうに笑いながら俺を見下ろしてきた。

「こんな事になっちゃったけど……俺、大会に優勝したよ。沢山の人が俺が一番だって認めてくれた。」

「?そうだな。流石は光輝だ!」

非常に自慢な何でもできる光輝。
それを誇らしげに想い、俺の方が胸を張る。
すると、光輝は目を細めて満足そうに笑った。

「うん。じゃあ、いいよね?」

「???あ、ううん??何が────……。」

晩御飯前のつまみ食いか何か?と言おうとした瞬間、光輝の顔がゆっくりと近づいてきて、それで────……??


────チュッ。


「…………?」

ピンボケする光輝の顔、そして口に非常に近い場所にある頬部分当たる柔らかいモノに、思考は停止してしまい、体が固まってしまった。
そんな俺をよそに、柔らかいモノがその場所から名残惜しげに離れると、光輝は俺のおでこに俺のおデコをつけたまま幸せそうに笑う。

「一生側にいて、最後まで一緒にいるからね、俺の可愛い魔王様。
俺を殺そうとした『正義』と一生一緒に戦って戦って……最後は一緒に死のうね。
────さ、帰ろう。俺達の家に。」

光輝はもう一度俺の頬に柔らかいモノをくっつけると、その後俺の手を引いて歩き出した。
スキップしそうなほど上機嫌な光輝の背中を見つめた俺は────……。

「え……えぇぇぇ〜…………?」

混乱し爆発した頭のまま、家に帰る羽目になったのだった。