【完結】今日もいつも通りです。〜影太君と光輝君サイドより〜

「すげぇな。光輝は。」

なんでもできる光輝は、同性としてみてもカッコいいと思ったし、誰もが光輝を一番だと認めている様な目で見つめている。
ボケ〜……とその様子を見ていると、とうとう花園さんと光輝が踊る順番になった。
そして花園さんが、光輝に向かって手を伸ばそうとした、その時────……。

「────あっ!」

花園さんがよろけてしまい、光輝は直ぐにその体を支えて転倒を防ぐ。

その姿は、まんま王子様で、その手にもたれかかっているのは、最高に可愛いヒロインの王女様の様な花園さんだ。

「あ、ご、ごめんなさい!大丈夫!?」

「うん、大丈夫だよ。」

自分の失敗に焦る花園さんに、光輝は優しく微笑み気にしてない事を告げる。
そんな光輝の行動に、やはり黄色い悲鳴が飛んだ。

「あの二人、もしかして付き合ってんのかな〜。」

「悔しいけど、お似合いだよな。あんな美女と付き合えて羨ましい。」

「あ〜ん、やっぱり美人には敵わないか〜。日野君みたいな彼氏欲しい。」

二人の雰囲気が傍目から見てとても良いため、周りでは二人が付き合っているのではないか?という話がチラホラ聞こえ始める。
確かにそう思うほど、二人はお似合いだ。
二人揃って美形だし、選ばれし者達が集う特進クラスだし……正直お互いがお互い隣に立っていても、誰も文句も言えない相手同士だと思う。

光輝は花園さんと優勝したら、歴代の優勝者達と同じ様に、付き合ったりするのかな?

今目に映る景色が『普通』になるのを想像すると────モヤモヤしたものは、広がっていった。

「それでは、これから投票の時間になります!
今から配る用紙に男子生徒の皆様は女性参加者の名前を、そして女子生徒の皆様は男性参加者の名前を書いて、近くの投票箱を持っている人達へ渡してください。
参加者の皆様は、衣装替えがあるので一度舞台の裏へ行って頂きますね〜。」

紗良さんのアナウンスが終わると、参加者達は全員舞台の裏へと向かい、反対に舞台裏からは投票箱を持った生徒達が出てくる。
俺は手元に配られた用紙を見つめ、どうしようかと考えた。

「どうしよう……。」

「とりあえず女子は花園さん以外だな。
でも、全員参加者がバスケ部のマネージャー軍団なんだよな〜。俺の推しの子は出てないし……。」

中野は、自分が一押しで可愛いと思っている子を思って、グスンッと鼻を啜る。
とりあえず俺も、あんな事があったからには、花園さんには投票する気にはならなくて、別の参加者の名前を書いて投票箱へと紙を持っていった。
その際も特進クラスの奴らからは「二人の邪魔すんなよ。ストーカー野郎。」「嫉妬乙〜。キモオタはゲームだけしてろ、クズ。」などなど、酷い言葉を散々ぶつけられる。

「人の噂なんてなんちゃらだ。気にすんの止めようぜ。」

「うん、ありがとう。気にしてない。」

中野が励ましてくれたのでお礼を告げると、中野は舞台の上で集計し始めた様子を見ながら、ボソボソと呟いた。

「なんかおかしいんだよな〜。やっぱり俺は、あの日野があんなに大人しく大会に参加するなんて信じられないんだよ。」

「そうか?ど……まぁ、光輝も青春ってヤツを謳歌しようと思ったんじゃね?
俺とアホみたいな遊びばっかりしていたけど、所謂高校デビューってやつ。
こうして大人になっていくんだろうな〜。」

大人に全くなれない自分がしみじみ言うと────中野はブルッ!と身を震わせる。

「俺だって陰キャサイドからだけど、色んなヤツ見てきたと思うんだよ。
でもさ……アイツはなんか今まで見たことがないくらい変なんだ。中に凄く深くて薄暗い何かがある感じがして……気味が悪い。」

「はぁ?光輝はキラキラ輝いているザ・陽キャ代表みたいなヤツじゃん。薄暗いって……そんなん感じた事ないけど。」

正反対とも言える光輝の印象に首を傾げていると、中野は静かに首を振った。

「輝いているなんて思った事ない。
育った環境のせいか、それとも先天的なモノなのかは分からないけど、普通のヤツなら間違いなく深く関わったら危険なヤツだよ、日野は。」

「そうか?ノリが良くていい奴だぞ、光輝は。危険な事なんて何も……。」

中野の話に違和感を感じて考え込んだが、直ぐに周りから大きな歓声が上がったので、意識は舞台の上へ。
視線を向けると……そこにはそれぞれが選んだ豪勢な衣装に身を包んだ参加者達がいた。

「きゃぁぁぁ!!日野君の格好、もしかしてブレイド王子!?」

「す、すご〜い!!めちゃくちゃ似合ってる!!実写版ブレイド王子様だ〜!!」

黄色い悲鳴とウットリした表情を浮かべる女子生徒達の視線の先には、なんとあの大人気の乙女系ゲーム【ローズ・エンド・ギア】の攻略対象ヒーロー、<ブレイド王子様>の格好をした光輝がいる。
キラキラ〜!という輝く効果音が聞こえそうなくらい、めちゃくちゃ似合っているコスプレ姿に、大騒ぎに。
しかし、負けじと男性生徒たちに騒がれていたのは、花園さんだ。

「花園さんの格好可愛い!!」

「アレ、もしかしてブレイド王子が出てくるゲームのヒロインの格好じゃね?!
すげぇ〜!まんまゲームの表紙じゃん!」

なんと花園さんは、光輝と同じく【ローズ・エンド・ギア】のヒロイン役の少女の格好で出てきたのだ。

清楚系ヒロインに相応しい控えめな格好ながら、短い短パンに黒色のニーハイ。それに魔法使いを想像させるパリッとしたブレザーと赤いマントは、そのゲームのファンなら泣いて喜ぶほど再現性が高い。
これには女子生徒からの好感も上がった様で、女性生徒の中からも興奮する声が聞こえていた。

「凄い凄〜い!これで日野君と花園さんが優勝したら、リアル【ローズ・エンド・ギア】じゃん!」

「素敵〜!めちゃくちゃロマンチック〜!」

もうこの時点で二人の優勝は決まった様なモノで、大騒ぎする中、舞台の端にマイクを持った生徒会長の国丸さんが立つ。

「お静かにお願いします。これから優勝者の発表をしたいと思います。」

国丸さんの姿を目にした途端、場はシーン……と静まり返った。
ワクワクした目で皆が見つめる中、国丸さんは紗良さんから受け取った紙を開き、また話始める。

「まずミスター側の集計結果、なんと異例の9割以上の票を獲得しての優勝だ。
今年のミスターは────<日野 光輝>君!おめでとう!!」

その瞬間、ドッ!と悲鳴混じりの歓声が上がり、横にいた生徒の一人が大きなトロフィーの様なモノを光輝に渡し、更にもう一人は王冠の様なモノを光輝の頭に乗せた。
更に上がった王子様度に、尋常じゃないくらい女子生徒達が騒ぎ出す。
そんな女子生徒達を見て、光輝は優しげに微笑んでいて……本当に嬉しそうだ。

「…………。」

モヤモヤ!

またモヤは広がっていったのを感じたが、国丸さんの「静粛に。」という声で、慌てて意識を現実へ戻す。