「あ〜……花園な。言い方や日頃の態度、行動を見る限り、花園に非がない様に見えるが、確かにアイツの周りは色々とトラブルが多いよなぁ。
俺は先生って立場上、片方だけの言い分を信じない様にしているが、おかしいなとは思ってる。」
「だったらどうにかしてくださいよ〜。沢山被害を受けている子がいるんです!」
女子生徒達が食って掛かったが、岩田先生はそれに押されながらも、静かに首を振る。
「流石にコレだっ!っていう証拠でも無い限り、表立った処分は難しいな。勿論注意はするが……。
だから、これからそれを念頭に置いて、言い逃れできない様な証拠を集めて欲しい。
そうしたら俺達も動けるから。
ただし、さっきみたいな、あからさまな行動は絶対に止めるから、直ぐに呼んでくれよ。」
「ええ〜……。」
「そんなぁ……。」
これにはクラスメイト全員がブーブーと不満を漏らしたが、これはある程度仕方ない事だと皆分かっていたから、それ以上は言わなかった。
確たる証拠がないと、こういった嫌がらせ行為に対して上は動けない。
公正という立場上、動きようがないって事だ。
「クソ〜!驚き過ぎて携帯構えられなかったが、次は絶対撮ってやるからな!」
中野が携帯を出して勇ましく構えたが、直ぐに表紙に出てきた『体力が満タンになりました☆』というアプリゲームの通知を見て、ゲームをやりだしてしまった。
これ、頼りに……していい??
思わず悩んでしまうと、先生は他の用事があるからとまたバタバタと走っていってしまい、俺達もお客さんの足音が静かに聞こえてきたので、直ぐに仕事に取り掛かったのだった。
お祭り広場は一人お客さんが来ると、一人また一人と増えていき、それなりに賑わい始め、気がつけば教室の半分以上は満杯になるくらいに。
これは大成功と言えるだろう!と皆で喜んだ。
「ヨーヨー作りすぎたと思ったけど、これなら全部なくなりそうだな。」
「子供が夢中になってやってくれるから大人気だ。やっぱりお祭りといえばヨーヨーだよな〜。」
光輝とお祭りに行った時は、必ずヨーヨー釣りをする。
そして形が手榴弾に似ているからという理由で、爆弾のマークを書いて野良犬を追いかけたのはいい思い出だ。
「毎回野良犬に負けて大泣きしてたけど。」
ハハッ〜!とその時の思い出を思い出し、笑ってしまったが……これも、もしかして楽しかったのは俺だけだったのかもしれない。
そう思うと、なんだか楽しい思い出が半分になってしまった気がした。
「俺だけ……か。」
プカプカ浮かぶヨーヨーを一つ手に取ると、それを繁々と見つめる。
花園さんの話は信じてないけど……。
また再燃してきた光輝との関係についての事に対し、モヤモヤしていたその時────。
「影太は昔からヨーヨーが好きだよね。ほら、爆弾書いてあげるよ。」
背後から声がして、俺が持っていたヨーヨーを掴む。
慌てて振り返ると、控えめな笑みを浮かべている光輝がいた。
「こ、光輝……。」
「ん〜……これでよし。これなら爆弾に見えるでしょ?
影太は絵があんまり上手じゃないから、いつもジャガイモみたいだったよ。
『絵が下手だったから駄目だった』って自分で言ってたもんね。犬に負けた言い訳。」
やたら上手い爆弾をヨーヨーに書いて渡してくれた光輝。
クスクス笑いながら語られた話は、さっき俺が浮かんだモノと全く同じで……なんだかそれが嬉しいと思ってしまった。
「ちゃんとした絵だったら負けなかったんだ。ジャガイモじゃあ、怖がってくれなかったな。」
「そうだね。これからは俺が全部書くから勝てるよ。」
ヨーヨーが浮かぶ小さなビニールプールを覗き込んで考え込む光輝は、いつも通りの光輝だ。
なんだかホッとしたが、次に光輝の口から出てきた言葉にドキッとする。
「ちょっと今日の最後のイベント『ミスター&ミセス大会』の準備が忙しくて、自由時間が合わなさそうなんだ。でも絶対楽しくなるから……楽しみに待っててね。」
「あ、う……うん……分かった。」
やはりかなり張り切っている様子の光輝を見ると、花園さんが言っていた言葉がふよふよと浮かんできたので、慌てて首を横に振って散らした。
光輝は光輝の付き合いがある!それに対して、俺が口を出すべからず!
頭の中でモヤモヤしたモノにチョップを食らわして蹴散らしていると、光輝は俺を正面から一度抱きしめた後、教室を出ていった。
どうやら、今日は一緒に回れないという事を伝えに来てくれただけの様だ。
「光輝は忙しいんだな。じゃあ、今日は俺、出展側の仕事を頑張るぞ!
よ〜し!仕事仕事〜…………。」
袖を捲って気合満々で仕事をしようとしたが、お客として来てくれていた違うクラスの同級生や先輩達が、俺の方を見てヒソヒソと内緒話をしている事に気づき動きは止まる。
「あれが例の……。」
「光輝君を便利に使ってるって本当だったんだ……。」
「こんな忙しいのに、わざわざ来させて絵を書かせるとか……。」
「花園さんが言ってたのって本当なのかな……?」
ヒソヒソ……ボソボソ……。
噂を聞いた人達の半信半疑の目がチクチクと刺さり、困った様に頭を掻いていると、中野がうさぎの着ぐるみを持ってきて差し出してきた。
「これで宣伝してきてくれよ。ほら、この看板も持ってさ!」
中野は更に『お祭り広場こっちだよ〜!』と書かれた看板まで持たせてくれて、俺がそれを受けとると、同じクラスメイト達も「よろしく〜!」「沢山宣伝してきてね!」と言って賛同してくれる。
「皆〜ありがとう!」
皆の優しさに感動し、グスンっ!と鼻を鳴らすと、そのまま着ぐるみを着て、教室の外に出ていった。
◇◇◇
「一年生の黒井ってヤツ、凄い性格悪いらしいよ〜。」
「あ、知ってる知ってる〜。友達から聞いた。
確かに日野君とよく一緒にいるけど、全然タイプが違うから違和感はあったよね。
でもまさか、あの日野君をパシリにしているとか、弱みでも握ってんのかな?」
「日野君って凄く優しいらしいから、多分昔からの友達だから、強く言えないんじゃない?酷いよね〜。」
校庭や廊下……至るところで聞こえる話を着ぐるみの中から聞いて、思った以上に話が広がっている事に驚く。
えぇ〜……俺、すっごい悪者扱いされてるぅ〜。
思いがけずに人気者になってしまった事と、花園さんの影響力というモノに震えてしまった。

