『貴方は本当の悪ではない。美しく慈悲深い女性だ。』

『本当に?貴方だけは、この私を信じてくれるの……?』

勇者からの愛は、悪の女帝の心を溶かし、その中から天使の様な美しい心が現れたのだ。
そうして勇者光輝からの愛により光の女帝になった花園さんは、それから勇者パーティーへ入り、憎き悪の魔王、俺へと戦いを挑むのであった。
最後は黒の魔王である俺が凶悪な笑みを浮かべ二人を嘲笑う姿で、『俺達の戦いは続く』エンド!

う〜ん……ありありのあり!

ストーリー的には悪くないなとほくそ笑んでいると、突然目の前に光輝の綺麗な顔がニュッ!と現れた。

「影太、こんな所で何してるの?」

なんといつの間に見つかったのか、さっきまで机に座って作業していたはずの光輝が、俺の覗いている下の小窓をしゃがみ込んで覗いていたのだ。
現実に一気に引き戻された俺は、ヒャッ!と悲鳴をあげる。

「こ、光輝……。」

「あ、もうこんな時間。もしかして迎えに来てくれたの?」

腕時計を見た後、さっきまでの無表情は消え失せ嬉しそうに笑う光輝に、なんだか心はポカポカした。

「うん。迎えに来た。」

「そう。じゃあ、帰ろう。」

光輝は笑顔のまま俺に向かって手を伸ばし、ホッペをグニグニと数回揉み込んだ後、立ち上がる。

「そろそろ帰ります。では、また明日よろしくお願いします。」

「分かった。日野、ご苦労だったな。お前のお陰で随分と進んだ。明日もよろしく頼む。」

国丸会長は、口端を少し上げた笑みを浮かべながら手を振り、紗良副会長や他の生徒達も同じ様に「おつかれ〜。」「また明日お願いしま〜す。」と手を振ったが……突然花園さんが立ち上がって光輝へと走り寄ってきた。

「待って!日野く────……キャッ!」

立って直ぐだったのが悪いのか、花園さんの足がもつれてしまい、光輝に抱きつく様な形で突進してしまう。
そしてそのまま光輝の腕に手を回して体勢を整えた花園さんは、直ぐに顔を真っ赤に染めて、その腕から手を外した。

「ご、ごめんなさい!私ったら……っ!こうやって直ぐに躓いちゃうから、友達には『凛って運動神経ないよね』っていつも言われちゃうんだ。
昔から運動が苦手で、だから自分にできない事ができる人は凄いなって!そんな人達のお手伝いがしたいなと思って、バスケ部のマネージャーに────。」

「そうなんだ。じゃあ、俺帰るからどいて。」

花園さんがモジモジしながら自分の決意を必死に説明しているというのに、光輝は非常にクールで、そのまま自分の荷物を取りにさっき座っていた所へと行ってしまう。
花園さんは、下から覗いている俺へ視線を向けると……一瞬眉を潜めたが、直ぐに光輝がいる席へと向かった。

「日野君!良かったら、お仕事について教えてくれないかな?難しくて分からない所が沢山あって……。
それに、少しだけ手伝ってくれると嬉しいな。ね?お願い!後でジュース奢るから!」

両手を合わせて顔の真ん中につける花園さんは、本当にどっかの漫画やゲームに出てくる清純派ヒロインの様に可愛らしい。

これは言う事聞いちゃうわな〜。鼻の下ベローンだよ。

心の中で白旗をブンブン振りながら納得してしまった。
しかし、光輝は予想した表情とは真逆の非常にクールな態度で、花園さんから離れる。

「嫌だけど?そもそも今更できないって、何?
ちゃんと計画立てて、しっかり自分の分をしっかり終わらせなよ。じゃあ、頑張ってね。」

「えっ……あ、ちょっ……!」

ズバッ!!
女子相手にコレは大丈夫??そう心配になるほど、クールでドライな反応だ。

土下座した様なポーズのままオロオロしている俺とは違い、冷静そのものな光輝は、さっさと踵を返してこっちに向かってきた。

「さ、さっさと帰ろう、影太。お腹空いたね。」

「う、うん……あ、あのさ、光輝。お前って、いつもこんな感じ?」

親友の学生生活が心配になって尋ねると、光輝は『うん?』と不思議そうな顔で首を軽く傾げる。

「俺、なにか変?」

「あ、いやいや!別に変とかじゃないけど!ほらっ、何事も個性だからな、個性個性。
ただ、その言い方というか……ほら、伝え方って難しいよな!俺は毎日失敗しているから!ハハハッ!」

何言ってるのか分からなくなってきて、何故か最後は自分が人間関係に躓きがちな話になった。
とりあえず、あまりにも光輝がクール過ぎて、虐められてないか心配。だからそんな事を聞いてしまったのだが……。

────ギロッ!!
花園さんは、心の奥に憎しみと怒りを浮かべた目で睨みつけていた。

────俺を。

「…………。」

なんだかデジャブな反応に、フッ……と仏の顔になる。

何故か光輝がなにかする度、俺の方が激しく怒られる……これは過去に何度もあった。

うっかり忘れた消しゴムを隣の席の女子に借りたら、光輝がイタズラをして消しゴムを切り刻んだら俺が怒られ……。
嫌いで食べれないと言うクラスメイトの給食を食べようとして、光輝が高圧的にその子に『自分で食べろ』と言って泣かしたら、俺が怒られ、何故か全て俺が怒られてジ・エンド。

俺にヘイトが向きました。よって、光輝に危害が及ぶ事はないでしょう。

光輝の心配をしていた自分がアホらしくなり、俺は花園さんからゆっくり視線を外して立ち上がった。

「うん、じゃあ帰ろうか……。」

そして何故か俺の後ろに隠れてしまった中野も立たせ、そのまま三人で一緒に帰る事にした。